北極海の酸性化が深刻!
2009年11月29日 寺岡克哉
北極の海で、
貝の殻が溶けてしまうほどの、「酸性化」が起こっています!
北極海には、貝の殻をもつプランクトンがたくさん棲んでいて、
小さな魚から、クジラに至るまでの、「餌」になっています。
酸性化によって、そのようなプランクトンが生きられなくなったら、
海の生態系にたいして、「壊滅的なダメージ」を与えてしまうで
しょう。
* * * * *
新聞各社の報道によると、
日本の「海洋研究開発機構」と、カナダの「海洋科学研究所」の、
共同研究チームによって、
貝殻などを作っている「炭酸カルシウム」が、溶けてしまうレベル
にまで、
「炭酸イオン濃度」が低下している(炭酸イオンの未飽和状態に
なっている)海域が、
アラスカ沖の北極海で発見されました!
これは、2008年に北極海で行われた、研究船による調査で見つ
かったのですが、
2009年の9月〜10月に行われた調査では、その範囲がさらに
広がっていました。
しかし2007年の調査では、十分な量の炭酸イオンがあったと言い
ます。
だから、この海域の酸性化は、
いま現在、どんどん悪化して、ますます深刻になっているのが分かり
ます。
このように、「炭酸イオン濃度」が低下した原因は、
大気中の二酸化炭素が、海水に溶けて「酸性化」し、それを中和する
ために、炭酸イオンが消費されたことと、
北極海の氷が解けて、真水にちかい融解水が大量に加えられ、
「海水が薄まった」ことの、
ダブルパンチによるとされています。
さらに上で、海水が酸性化した原因については、
「ふた」になっていた北極海の氷が解けて、大気と海水が直接触れるよう
になり、
大気中の二酸化炭素が、海水によく溶けるようになったからだと、されて
います。
(より根本的な原因は、化石燃料の使用によって、大気中の二酸化炭素
が増加したことでしょう。)
ところで・・・
北極海には、「翼足類(よくそくるい)」と呼ばれる、炭酸カルシウムの殻を
もった、プランクトン生活をする巻貝がたくさんいます。
それらのプランクトンが、小魚からクジラまでの餌となり、生態系の根底を
支えているのです。
だから、
炭酸カルシウムが溶けるほどの「海洋酸性化」によって、
「翼足類」というプランクトンが生きられなくなったら、
この海域の生態系に、「壊滅的なダメージ」を与えてしまうのは、
まず間違いないでしょう。
これは、ものすごく深刻な事態です!
* * * * * * * * * * *
以上が、新聞各社の報道をまとめて、若干の説明を加えたものです。
ところで上の話で、
海水が酸性化すると、炭酸カルシウムが溶けるというのは、何となく
分かるのですが、
しかし私には、スッキリと理解できなかった所もありました。
それは、
「炭酸イオン濃度」が低下すると、なぜ炭酸カルシウムが溶けるのか?
二酸化炭素が海水に溶けると、なぜ「炭酸イオン濃度」が低下する
のか?
という2点です。
これらについて、私の頭を整理してスッキリさせる程度に、
あまり厳密ではないのですが、もう少し「化学的」に考えてみることに
しました。
* * * * *
「炭酸イオン濃度」が低下すると、なぜ炭酸カルシウムが溶ける
のか?
これは、調べてみると、以下の化学反応によるものでした。
Ca CO3 ⇔ Ca2+ + CO32− (1)
たとえば海水の中に、炭酸イオン(CO32−)が過剰に含まれている
(つまり「過飽和」の状態になっている)と、
(1)式の化学反応は、右から左に進み、炭酸カルシウム( Ca CO3)
が作られます。
ふつう海水は、そのような状態になっているのです。
しかし、「炭酸イオン濃度」が低下して、「未飽和」の状態になると、
不足する炭酸イオンを補うように、(1)式の化学反応は、左から右に進み
ます。
そうすると、炭酸カルシウム( Ca CO3)が、カルシウムイオン(Ca2+)と
炭酸イオン(CO32−)に分解されてしまいます。
つまり、炭酸カルシウムが「溶ける」わけです。
ところで(1)式において、
炭酸イオン(CO32−)が未飽和になるのではなく、
カルシウムイオン(Ca2+)が未飽和になっても、炭酸カルシウム( Ca CO3)
が溶けるような気がします。
しかしカルシウム(Ca)は、ものすごく「イオンになりやすい」(イオン化傾向
が高い)物質なので、
カルシウムイオン(Ca2+)が、「過飽和」になることはありません。
つまり、カルシウムイオン(Ca2+)は、つねに「未飽和」の状態なのです。
なので、
炭酸カルシウム( Ca CO3)が溶けるのか、溶けないのかは、
炭酸イオン(CO32−)が「未飽和」になっているか、「過飽和」になって
いるかで、
決定されるわけです。
* * * * *
二酸化炭素が海水に溶けると、なぜ「炭酸イオン濃度」が低下する
のか?
これも最初、ちょっと私には理解できませんでした。
なぜなら、二酸化炭素が水に溶けると、「炭酸」というものになるので、
「炭酸イオン」が逆に増えると、単純にそう思っていたからです。
たしかに調べて見ると、二酸化炭素が水に溶けた場合は、
CO2 + H2O → H2CO3 (2)
H2CO3 → H+ + HCO3− (3)
HCO3− → H+ + CO32− (4)
というステップを経て、炭酸イオン(CO32−)が作られます。
ここで一般的に、
(4)式の反応にくらべて、(3)式の反応の方が、たくさん起こります。
つまり二酸化炭素が、水に溶けた場合は、
炭酸水素イオン(HCO3−)の方が、炭酸イオン(CO32−)よりも
たくさん作られます。
ふつう海水の場合は、その比が10対1くらいになっています。
もしも海水に、大量の二酸化炭素が溶けたら・・・
おもに(3)式の反応によって、水素イオン(H+)が増えます。
そして、「水素イオン濃度」が上がると言うことは、「pH(ペーハー)」が
下がることなので、
海水が「酸性化」するわけです。
そうすると、
増えた水素イオン(H+)を、打ち消すため(つまり中和するため)に、
(4)式の逆反応 H+ + CO32− → H CO3−
が、起こるようになります。
この中和反応によって、炭酸イオン(CO32−)が消費され、
「炭酸イオン濃度」が低下するわけです。
こうして「炭酸イオン濃度」がどんどん低下し、「未飽和」の状態になった
とき、炭酸カルシウム( Ca CO3)が存在すれば、
(1)式の、左から右への反応 Ca CO3 → Ca2+ + CO32−
が起こります。
つまり、炭酸カルシウム( Ca CO3)が溶けて、不足した炭酸イオン
(CO32−)が補充されるわけです。
これらの化学過程は、じつは「理科の実験」で、良くやられていました。
つまり、カルシウムイオンが含まれている「石灰水」に、二酸化炭素を
通すと、「白い沈殿物」ができて濁(にご)ります。
この「白い沈殿物」が、炭酸カルシウムです。
しかし、その後ずう〜っと二酸化炭素を通しつづけると、石灰水が透明に
なって行きます。
つまり、大量の二酸化炭素が溶けたことで「酸性化」し、炭酸カルシウム
が溶けるようになったのです。
海水に、大量の二酸化炭素が溶けると、それと同じことが起こるわけ
でした。
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最後に、くり返しますが・・・
貝殻が溶けてしまうほどの、「海洋酸性化」が起こるなんて、
本当に、ものすごく大変な事態です!
海の生態系におけるダメージは、とても計り知れないでしょう。
こんなに早く、そのような海域が見つかってしまうなど、
私は今まで、夢にも思っていませんでした。
それほど急速に、地球温暖化による影響が、どんどん悪化して
いるのです!
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