アフリカ諸国の怒り   2009年11月15日 寺岡克哉


 今月の2日〜6日、スペインのバルセロナで、

 気候変動枠組み条約 第15回締約国会議(COP15)に向け
ての、

 「特別作業部会」が開かれました。

 これは、COP15の前に行われる、最後の準備会合となります。



 来月に行われる、その「COP15」において、

 ポスト京都議定書。つまり2020年までの、世界各国の温室効果ガス
削減目標(いわゆる中期目標)を、決める予定になっています。

 なので、このバルセロナにおける特別作業部会では、

 「ポスト京都議定書」の採択案について、かなり詰めて置かなければ
なりませんでした。



 しかし、この会合で「事件」が起こったのです!

 アフリカ諸国が、話し合いを「ボイコット」する事態に、陥って
しまいました。


 一体どうして、そんなことになってしまったのか?

 今回は、それについて、すこし考えてみたいと思いました。


             * * * * *


 スペイン現地時間の、11月2日・・・

 エチオピアやアルジェリアなど、およそ50のアフリカ諸国が、

 COP15の特別作業部会を、一斉にボイコットしました。



 私は、このニュースを最初に見たとき、

 「先進国から援助資金を獲得するための、パフォーマンスではないか」
と思いました。

 しかしマスコミ報道を、ザッと見渡してみると、

 「それは、ちょっと違うのではないか?」という気がして来たのです。



 たとえば新聞各社の報道によると、アフリカ諸国の言い分には、
次のようなものがありました。

 「先進諸国の、温室効果ガス排出削減の目標が低すぎる!」

 「先進国全体で2020年に、1990年比40%以上の削減をする
べきだ!」

 「水不足と海面上昇などで、温暖化の被害をもっとも大きく
受けたアフリカ地域を、より配慮するべきだ!


 「先進国の行動や生活様式で、我々に生死の問題が生じて
いる!」


 「真剣さに欠けた状態で、会合に臨んだ国々がある!」

 「アフリカ以外の交渉グループは、(排出削減問題を)真剣に検討
していない!」



 アフリカ諸国の代表者たちによる、このような発言をみると、

 ただ単に、政治的なパフォーマンスというのではなく、

 実際に突きつけられている「切実な現状」が、理解できるのでは
ないでしょうか。


             * * * * *


 たとえば・・・

 元国連事務総長のアナンさんが設立した、国際的な人道支援団体
の「グローバル人道フォーラム」が、公表した報告書によると、

 すでに地球温暖化は、3億2500万の人々の生活に、深刻な
影響を及ぼしています!


 そして、その数は2030年までに、6億6000万人に増加する見込み
となっています。



 とくに深刻な被害をうけるのは、

 サハラ砂漠から中東、中央アジアにかけての半乾燥地域や、

 サブサハラ、アフリカ、東南アジア、南アジア、そして海に浮かぶ
小さな島々などの「最貧国」だとされています。



 また、最近の報道をみても、

 いま現在、ケニア、エチオピア、ソマリアなどの東アフリカ
諸国が、

 過去10年で最悪の、「大規模な干ばつ」に襲われており、

 2300万人の人たちが、飢餓の恐れに直面しています。




 このように、

 すでにアフリカ諸国では、干ばつや水不足による深刻な
被害が、

 現実に、たくさん出ているのです!



              * * * * *


 ところで・・・ 

 アフリカ諸国は、先進国にたいして2020年までに、

 1990年比で40%以上の、温室効果ガス削減を求めています。

 これは、私たちから見れば、「とても無理な要求」に思えてしまい
ます。

 アフリカ諸国は、COP15での合意を、

 「ぶち壊し」にするのが目的なのかとさえ、勘ぐってしまいたくなり
ます。



 しかしながら、以下のデータをみてください。

 これは2006年における、国民1人あたりの、二酸化炭素排出
量です。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
              2006年における1人あたり
              の二酸化炭素排出量

   アメリカ         19.3トン
   日本            9.7トン
   アフリカ諸国       1.0トン
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 上の表をみると、

 たとえば日本が、40%の削減をしても、1人あたりの二酸化炭素
排出量は、5.8トンになります。

 これを、アフリカ諸国の人々が見たら、

 「それでも我々の、およそ6倍もの生活水準ではないか!」

 と、思うのではないでしょうか。



 さらに、

 アメリカの場合は、40%の削減をしても、アフリカ諸国の12倍
の生活水準です。




 だから、アフリカ諸国の人々からみれば、

 先進国にたいする「40%削減の要求」など、ぜんぜん無理難題では
ないと、思っているのかも知れません。

 たとえば、私たち日本人から見ても、

 アメリカは、今すぐに50%の削減をしても、「我々と同じ水準だ!」
と思えてしまうでしょう。



 我々アフリカ諸国よりも、はるかに豊かな生活をしている先進国の
せいで、

 我々が、より一層の苦しい窮地。まさしく生死の問題に、追いやら
れている・・・

 アフリカ諸国の人々は、

 現実に起こっている自然災害に、とても大きな危機感をもち、

 それと同時に、先進国にたいして「怒り」さえ、覚えているのでは
ないでしょうか。


            * * * * *


 バルセロナでの作業部会は、6日に閉幕しました。

 アフリカ諸国のボイコットが解かれ、4日から議論が再開されまし
たが、

 残念ながら、大きな進展はありませんでした。



 そのため、

 COP15による「ポスト京都議定書の採択」が、きわめて難しい
状況になってきました。

 「採択」が、来年にずれ込むのは、ほぼ確実と見られています。



 国際会議は、「最後のフタ」を開けてみるまで、どうなるか決して
分からないのでしょうが、

 12月に行われる「COP15」では、可能なかぎり議論を進展させ
てほしいと、

 願ってやみません。



      目次へ        トップページへ