1990年比25%削減を明言  
                             2009年9月13日 寺岡克哉



 9月7日に、民主党の鳩山代表が、

 東京で開かれたシンポジウム(朝日新聞社主催)で講演し、

 温室効果ガス削減における、日本の中期目標について、

 「2020年までに、1990年比で25%削減をめざす」と、

 明言しました!




 このシンポジウムで、鳩山代表が実際に語った言葉は、以下の通りです。

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 まず、温室効果ガスの削減目標について申し上げます。

 本日ご出席されている、パチャウリ議長の下でのIPCCの結論を踏まえ、
先進国は、率先して中期的、長期的な排出削減に努める必要があると考え
ています。わが国も長期の削減目標を定めることに積極的にコミットしていく
べきであると考えています。

 また、中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する
水準に基づくものとして、2020年までに1990年比25%削減をめざし
ます。


 これは、我々のマニフェストに揚げた政権公約であり、政治の意思として、
あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意です。

 しかしながら、もちろん、我が国のみが削減目標を揚げても、気候変動を
止めることはできません。世界のすべての主要国による、公平かつ実効性の
ある国際枠組みの構築もめざします。

 すべての主要国の参加による、意欲的な目標の合意が、わが国の
国際社会への約束の「前提」となります。

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 このように鳩山代表は、

 「すべての主要国の参加による、意欲的な目標の合意」という前提がある
ものの、

 「2020年までに、1990年比で25%削減をめざす」という中期目標を、
明らかに公言しました。


                * * * * *


 ところで、前回のエッセイの最後に、

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 9月22日にニューヨークで行われる、国連の気候変動ハイレベル会合に、
鳩山由紀夫代表が、首相として出席する見込みです。

 その場で、日本の中期目標が、1990年比で25%減であることを、
「国際的な約束」として公言できるかどうか・・・


 それが地球温暖化対策における、民主党の「本気と覚悟」が試される、
まず最初の「試金石」となるでしょう。
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 と、書きましたが、今回のシンポジウムで鳩山代表は、


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 国会において私が首班指名を受けることになりましたなら、今月22日に
開かれる国連気候変動首脳級会合にぜひ出席させていただき、本日申し上げ
たことを、より具体的に国際社会に問うていきたいと思います。
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 と、言いました。

 この発言によって、鳩山代表の「本気と覚悟」は、相当のものであることが
分かります。



 しかしながら、じつは9月22日の国連会合を待たずとも、このたび東京で
開かれたシンポジウムには、

 IPCC議長のパチャウリさん、

 国連気候変動枠組み条約 事務局長のデブアさん、

 持続可能な発展のための世界経済人会議 事務総長のスティグソンさん

 など、国外のオピニオンリーダーも参加していました。

 なので、もはや「1990年比25%削減」を、世界に向かって明言したのも
同然
になっています。



 IPCC議長のパチャウリさんは、鳩山代表の講演にたいして、

 「これまで世界各国の首脳に会ったが、鳩山氏のメッセージは素晴らしい」

 「鳩山氏の発言に勇気づけられた」

 「対策を怠れば、温暖化被害に対応できなくなる。日本の高い技術をさらに
進める対策が必要だ」

 「素晴らしいメッセージだった。実行に移してくれると信じている」

 「異常気象や飢餓によって”環境難民”が出てくる。ただちに削減しなければ
ならない」

 などの、コメントをしました。



 また、気候変動枠組み条約 事務局長のデブアさんは、

 「民主党の目標は称賛すべきものだ」と、高く評価し、

 「すべての先進国は、野心的な削減目標を揚げなければならない」

 「野心的な目標こそ、日本が方向転換して困難に立ち向かうという姿勢
を示すものだ」

 「日本経済が大きく変わるきっかけになる」

 「先進国による野心的な削減目標は、低炭素の未来をつくる上で不可欠だ」

 「京都議定書につづく国際的な枠組みづくりを成功させるために、日本が
推進力となることを期待する」

 などの、コメントをしています。


                * * * * *


 さらには、

 「民主党の鳩山代表が、1990年比25%削減を明言した!」

 という情報が、すでに世界中に発信されています。

 そして世界各国から、以下のような反応が、つぎつぎと寄せられています。



 EU、ヨーロッパ諸国の反応

 気候変動枠組み条約 第15回締約国会議(COP15)が開かれるデン
マークの、ヘテゴー気候変動・エネルギー相は、「野心的な目標だ」と高く
評価しました。

 欧州委員会は、「日本の政策はEUと同じ方向に進む」として、日本との連携
を強める構えです。

 EU環境委員のディマスさんは、
 「地球規模の気候変動の新たな枠組み作りに、とても励みとなる内容だ」
 「日本の民主党が揚げる温暖化対策は、とても心強い」
 「科学者は2020年までに、1990年比25〜40%の削減が必要だと指摘
している」
 「EUと似通った排出量取引制度を導入するとの(次期)政権の決定も歓迎
する」
 などとして、民主党の削減目標を評価しています。


 イギリス外相の、デービッド・ミリバントさんは、
 「(温暖化対策推進に向けた)非常に重要な決断だ」
 「日本の決定は非常に意義深い」などとコメントし、高く評価しました。
 そして、「(日本の削減幅の約束は)以前にくらべて3倍となる」とした上で、
 「温暖化問題にたいする日本の決意を示すものだ」
 「京都議定書を取りまとめた日本は、地球温暖化問題(への国際的な取り
くみ)で特別な道徳的位置を占めており、このような重要な決定を行った
(次期)政権にたいし祝意を表したい」とも、述べています。

 また、イギリス エネルギー・気候変動相のエドワード・ミリバントさんも、
「COP15を成功させようとする、政治的な意思の表れ」と、評価しました。

 しかしながらイギリスの、フィナンシャル・タイムズ紙は、
 「民主党は温暖化対策への積極姿勢を示す一方で、高速道路の無料化
など温暖化対策と矛盾する政策も揚げている」とか、
 「民主党は、排出削減の具体的な分野を明らかにしていない」
 「日本の経済界からは、経済への悪影響を不安視する声が出ている」
などの、指摘をしています。


 ドイツの環境省報道官は、
 「重大な進展」と、鳩山代表の発言を歓迎しつつも、
 「削減目標が新政府の計画に盛り込まれるまで保留する」として、鳩山政権
の実行力を、慎重に見極める考えを示しました。



 アメリカの反応

 アメリカのメディアは、「温暖化対策で日本が先頭に立つ」と、鳩山代表の
発言を好意的に報道しています。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、「他国にも野心的な目標設定を迫ることになる」
として、オバマ政権や、中国などの背中を押す可能性を指摘しました。



 中国の反応

 中国は、鳩山代表が「すべての主要国の参加による、意欲的な目標の合意
が、わが国の国際社会への約束の”前提”となる」と言ったことに対して、敏感
に反応し、それを牽制(けんせい)している様子です。

 中国国営の新華社通信は、
 「削減義務のない発展途上国を、削減義務国の範囲に入れようとしている」
と批判する、識者のコメントを紹介しました。

 また、中国外務省の副報道局長は、
 「国際社会は各国の事情や発展段階を十分考慮する原則を堅持すべきだ」
と述べ、
 先進国と途上国が「共同ではあるが区別ある責任」を負うと同時に、先進国
は温室効果ガスの大幅な削減目標を設定する必要があると、あらためて主張
しました。

 さらにその翌日、中国外務省は、
 「民主党新政府が気候変動問題で積極的な態度を取ることを期待し歓迎
する」としつつ、
 「国際社会が日本に期待、要求しているレベルとは隔たりがある」と、一層
の努力を求めました。

 (以前から、中国などの発展途上国は、先進国にたいして「1990年比で
40%以上の削減」を求めています。)



 以上のように、鳩山代表の発言にたいして、すでに世界各国が反応して
おり、

 「賽(さい)は投げられた」というか、

 「蜂の巣をつついた」というか、

 もう簡単には「後戻りのできない状況」に、なっているように思えます。


                * * * * *


 ところで・・・

 イギリスの、フィナンシャル・タイムズ紙に指摘されるまでもなく

 日本国内における、「経済界の批判的な声」というのが、ずいぶんあり
ます。


 次回では、日本経済界の反応と

 25%削減における「経済的な影響」について、考えてみたいと思います。



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