各国の温暖化対策 3   
                             2009年8月23日 寺岡克哉


 以前のエッセイ390では、ノルウェーの温暖化対策について見まし
たが、

 今回は、おなじ北欧の国である「スウェーデン」について、見てみた
いと思います。



 スウェーデンは、

 今までも意欲的に、温室効果ガスの削減を行ってきた国ですが、

 今年の7月から、「EUの議長国」になったこともあり、

 12月に行われる、「気候変動枠組み条約 第15回締約国会議
(COP15)」に向けて、

 さらに気合いが入っているようです。


               * * * * *


 さて、

 今年の3月に、スウェーデン政府は、

 「統合気候・エネルギー政策法案」というのを提出しました。



 この法案は、スウェーデンが排出する温室効果ガスを、

 2020年までに、1990年比で40%削減することを、

 おもな目標としています。



 それを達成するために、スウェーデンは、

 2020年までに、2000万トンの二酸化炭素を、削減しなければ
なりません。


 その2000万トンのうち、3分の2は、

 スウェーデン国内での、さまざまな対策によって削減しますが、


 残りの3分の1は、

 他のEU諸外国や、発展途上国の二酸化炭素削減にたいする、
技術や資金の援助、

 つまり「国際協力」によって、賄(まかな)われる予定になって
います。



 ちなみに、日本の中期目標は、

 2020年までに、1990年比で、たった8%の削減です。


 それに比べると、

 2020年までに、1990年比で40%もの削減という、スウェーデン
の中期目標は、

 ものすごく野心的です。


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 ところで、

 「日本は今まで、ずいぶん省エネを進めて来たので、これ以上の
二酸化炭素削減は、すごく難しいのだ!」

 「しかし欧米は、今まで省エネをあまりやって来なかったので、
二酸化炭素がとても簡単に減らせるのだ!」

 と、言いたい人もいることでしょう。



 ところがスウェーデンの場合は、

 過去から今までにおいても、二酸化炭素の削減に、積極的に取り組んで
きたのです。



 この国は、1970年代の半ばより、

 エネルギーを石油から、バイオ燃料などの非化石燃料へと大きく変え
ることによって、

 温室効果ガスの排出を、現在までに40%も削減しています。



 たとえば、

 スウェーデンのエネルギー使用全体における「原油」の割合は、

 1970年には、70%を占めていたのに対して、

 現在では、30%にまで低下しています。



 その一方で、

 「再生可能エネルギー」の割合は、過去10年間にジワジワと増加し、

 1994年に22%だったのが、現在では28%になっています。



 とくに、

 スウェーデンの暖房市場の40%を占める「地域暖房」において、

 1970年には、おもに原油由来の燃料が使われていたのに対し、

 現在では、それが数%を占めるに過ぎなくなりました。

 一方、バイオマスエネルギーは、62%を占めるまでに至ってます。


              * * * * *


 またスウェーデンは、

 1990年から2006年までに、温室効果ガスを9%削減しましたが、

 その間に、GDPを44%も伸ばしました。



 ちなみに、2007年における、

 スウェーデンの1人あたりのGDPは、49821ドルでしたが、

 一方それに対して日本は、34226ドルでした。



 そしてこれは、2002年における値なのですが、

 スウェーデンの1人あたりの二酸化炭素排出は、6.3トンでしたが、

 それに対して日本は、9.4トンでした。



 以上のことから

 二酸化炭素を削減しても、経済を発展させることが出来る!

 1人あたりのGDPが日本より大きくても、1人あたりの二酸化炭素
排出を日本より小さくできる!


 ということが、スウェーデンの「実例」によって、明確に証明されたと
と言えるでしょう。



 上の事実を見るにつけ、日本でよく言われている、

 「日本は、かなり省エネが進んでいるので、これ以上の二酸化炭素
削減はムリだ!」

 「それなのに、ムリをして二酸化炭素を削減しようとすれば、経済の
発展に支障をきたす!」

 というような言論に、疑問を抱かない訳には、行かなくなってしまう
のです。


                * * * * *


 ところで・・・ 

 今年の2月に、スウェーデン政府は、「脱原発政策の転換」を行いま
した。



 つまり、これまでは、

 現在稼動している10基の原子炉を、寿命が来た時点ですべて廃棄し、
「原発をゼロにする」としていましたが、

 その計画を取りやめたのです。



 しかし、これは、

 「原発を積極的に推進する」という訳では、決してありません!

 今ある原子炉が、寿命を向えたときに、その代わりの分(つまり最大
10基)だけ、建て替えることを認めるという、

 「現状維持」が主たる目的です。



 スウェーデンの政策は、あくまでも、

 再生可能エネルギーの推進と、エネルギー効率の向上が、

 主軸となっています。



 たとえば2020年までに、

 スウェーデン全体のエネルギー使用量を20%減らし、

 再生可能エネルギーの割合を、50%にする計画になっています。



 また、運輸部門に関して言えば、

 2020年までに、再生可能エネルギーの割合を10%にし、

 2030年をめどに、化石燃料の全廃を目ざしています。



 ちなみに、日本における報道では、

 「スウェーデンは温暖化対策のため、原発を推進する方向に、
政策を転換した!」

 というような論調が目立ちましたが、その論点は、まったく見当違い
です。



 あくまでもスウェーデンの政策は、

 脱化石燃料への場つなぎ、時間かせぎとして、

 現状維持の分だけ、原発を容認すると言うことなのです。



 だから、

 原発を、今後さらに増やしていく訳ではありませんし、

 原発の建設を、温暖化対策として位置づけた訳でもありません。



 この辺の話は、

 日本の報道が、ずいぶん歪(ゆが)んでいて、一般の人々に誤解を
招きかねないと、

 スウェーデン在住の日本人の方々による、複数のレポートによって
指摘されています。


               * * * * *


 最後に、この国の温暖化対策における、いちばんの要点です。



 スウェーデンの環境省による資料では、

 経済成長を犠牲にしないで、温室効果ガスを削減するのに、

 とくに大きな効果を発揮したのは、

 1991年の二酸化炭素排出税の導入だったとしています。



 このことから、

 炭素税(あるいは環境税)の導入は、必ずしも経済を衰退させ
る訳ではない!


 その実例が、スウェーデンによって示された!

 と、言うことが出来ます。



 上のような実例は、

 これからの、日本の温暖化対策にとって、すごく参考になると思い
ますし、

 参考にするべきであり、参考にしなければならないと、私は考え
ます。



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