ラクイラ・サミット      2009年7月19日 寺岡克哉


 今月の8日〜10日に、イタリア中部にある「ラクイラ」という都市で、

 主要国首脳会議(G8サミット)が行われました。

 (※ G8とは、日本、アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、
    イタリア、ロシアの8ヶ国です。)



 サミットでは、いろいろなことが話し合われたのですが、

 このエッセイでは、「地球温暖化に関する部分」についてレポートし、

 私なりの考察をしてみたいと思います。


              * * * * *


 まず、昨年の北海道洞爺湖サミットから進展したことは、

 「産業革命前からの気温上昇を、2℃以内に抑える」

 「先進国は2050年までに、温室効果ガスの排出を80%以上
削減する」


 と、したことです。



 しかしながら、

 「2050年までに、世界の温室効果ガス排出量を、少なくても
50%削減する」という目標を、

 中国やインドなどの新興国と共有することは、今回のサミット
でも出来ませんでした。



 つぎに、それらについて、もうすこし詳しく見て行きましょう。


               * * * * *


 以下は、「サミット首脳宣言」からの抜粋です。


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 我々は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の作業、特に、最も
包括的な科学評価を構成するその第4次評価報告書の重要性を再確認
する。

 我々は、産業化以前の水準からの世界全体の平均気温の上昇が
摂氏2度を超えないようにすべきとの広範な科学的見解を認識する。


 この世界的な課題は世界全体の対応によってのみ対応可能であること
から、我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%
の削減を達成するとの目標を全ての国と共有
することを改めて表明
する。

 その際、我々は、このことが、世界全体の排出量を可能な限り早くピーク
アウトさせ、その後減少させる必要があることを含意していることを認識
する。

 この一部として、我々は、先進国全体で温室効果ガスの排出を、
1990年又はより最近の複数の年と比して2050年までに80%
またはそれ以上削減するとの目標を支持する。


 この野心的な長期目標に沿って、我々は、基準年が異なり得ること、
努力が比較可能である必要があることを考慮に入れ、先進国全体及び
各国別の中期における力強い削減を行う。

 同様に、主要新興経済国は、特定の年までに、対策をとらないシナリオ
から全体として大幅に排出量を削減するため、数量化可能な行動をとる
必要がある。
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 たしかに、上の宣言文を見ると、

 「産業革命前からの気温上昇が2℃を超えないようにするべき」と、
あります。



 また、

 「2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を
達成するとの目標を全ての国と共有する」

 と、昨年の洞爺湖サミットで行われた合意を、再度表明しています。



 そして、

 「先進国全体で温室効果ガスの排出を、1990年又はより最近の
複数の年と比して2050年までに80%またはそれ以上削減すると
の目標を支持する」と、

 先進国は、(基準年が1990年に統一されていませんが)今まで
よりも厳しい削減目標(長期目標)を表明しました。



 これは、

 「2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を
達成する」

 という目標を、中国やインドなどの新興国と共有するためです。



 しかしながら、

 G8に、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカの新興5ヶ国を
入れた、13ヶ国による「拡大会合」では、

 「2050年までに世界全体の排出量を半減する」という、目標の合意
には、至りませんでした。


 そして、このことは、G8サミットと同時に行われた、

 「主要経済国フォーラム(MEF)」の、首脳宣言にも表れています。


               * * * * *


 主要経済国フォーラム(MEF)とは、

 G8のほか、中国、インド、ブラジル、メキシコ、韓国など16の新興国
と、さらにEUが参加する、

 地球温暖化問題を討議するための会合です。


 以下に、その「MEF首脳宣言」からの抜粋を、挙げておきましょう。


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 我々の中の先進国は、 我々のそれぞれの野心的な長期目標に沿った、
先進国全体及び各国別の中期における力強い削減を敏速に実施すること
により主導し、この点に関し強固な結果を達成するために、コペンハーゲン
までの間に協働する。

 我々の中の開発途上国は、その排出量に関する予測された効果が、
持続可能な開発の文脈において、資金、技術及びキャパシティ・ビルディング
によって支援される、中期的に対策をとらないシナリオから意味のある離脱
を示すような行動を敏速に実施する。

 世界全体及び各国の排出量のピークアウトは可能な限り早期に実現され
なければならず、その際、社会・経済開発及び貧困撲滅が開発途上国に
おいて最優先の事項であり、低炭素開発が持続可能な開発にとって不可欠
であることを踏まえ、開発途上国におけるピークアウトのための期間はより
長いものであることが認識される。

 我々は、産業化以前の水準からの世界全体の平均気温の上昇が
摂氏2度を超えないようにすべきとの科学的見解を認識する。


 この関連において、また条約及びバリ行動計画の究極的な目的の文脈に
おいて、我々は、世界全体の排出を2050年までに相当の量削減する
という世界全体の目標を設定するために、今からコペンハーゲンまでの間に、
お互いに、また条約の下で、取り組んでいく。
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 この宣言文では、

 「世界全体の排出を2050年までに相当の量削減する」

 という表現に、留まってしまいました。



 しかしながら、

 「産業革命前からの気温上昇が2℃を超えないようにするべき」

 との認識を、新興国と共有できたのは、すごく評価したいと思い
ます。


                * * * * *


 以上、G8サミットの首脳宣言と、MEFの首脳宣言により、

 「産業革命前からの気温上昇が、2℃を超えないようにするべき」

 との認識を、先進国も新興国も、明確に表明しました!




 ところで・・・

 産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるためには、

 温室効果ガスの排出を、一体どれくらい削減しなければならないの
でしょう?



 つぎの表は、IPCCの第4次評価報告書に掲載されているデータから、
作成したものです。


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 産業革命前からの気温上昇を、2.0℃〜2.4℃(大気中の温室効果ガス
 濃度を445ppm〜490ppm CO換算)で抑えるために必要な削減量。


           2020年までに            2050年までに

 先進国       1990年比              1990年比
          −40%〜−25%          −95%〜−80%

 途上国  ラテンアメリカ、中東、東アジア     すべての地域における
       及びアジアの中央計画経済国     ベースラインからの相当
       におけるベースラインからの      の乖離
       相当の乖離(かいり)

                                  2000年比
世界全体                          −85%〜−50%


      (出所: IPCC第4次評価報告書 第3作業部会報告書)
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 この表を見ると、

 産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるためには、

 大気中の温室効果ガス濃度を、445ppm(CO換算)以下で、
安定させなければなりません。

 だから最低でも、上に挙げられている削減幅のうち、もっとも厳しい
値が必要になります。



 つまり、

 先進国全体では、
 2020年までに、1990年比で、最低でも40%以上の削減。
 2050年までに、1990年比で、最低でも95%以上の削減。

 世界全体では、
 2050年までに、2000年比で、最低でも85%以上の削減。

 そして発展途上国にも、
 相当の削減努力をしてもらわなければなりません。



 このように、ものすごく厳しい値になるのは、

 現在すでに、産業革命前にくらべて、気温が0.76℃上昇している
こと。(つまり、あと1.24℃しか余裕がありません!)

 そして、どんなに厳しい削減をしても、地球温暖化の勢い(慣性力)
があるために、
 今後20年にわたって、0.4℃の気温上昇が避けられないこと。
(これを考慮すると、あと0.84℃の余裕しかありません!)

 なども、関係しているのでしょう。


               * * * * *


 (日本を含む)各国の首脳たちは、上のような「科学的な知見」を
知ってか知らずか、

 ものすごく厳しい目標を共有したことについて、私は、とても好ましく
思っています。



 当然ながら、

 「日本の中期目標」についても、(常識的に考えれば)大きな修正を
迫られることになるでしょう。

 ほんとうに、産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるならば、

 先進国は2020年までに、1990年比で40%以上の削減をしなけれ
ばなりません。

 だから2020年までに、1990年比で8%の削減などという「日本の
中期目標」では、まったく話にならないのです。



 日本では、これから衆議院選挙があり、政権交代が起こる可能性も
あります。

 もしも、そうなったら、

 今年の12月(つまりCOP15)までに、日本の中期目標がどのように
修正されるのか、とても興味深いところです。



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