ドイツ・ボンでの作業部会 2
                          2009年6月28日 寺岡克哉



 前回では、

 ドイツのボンで行われた、「気候変動枠組条約 特別作業部会」
について、

 「日本の中期目標」にたいする、国際社会の反応や、

 「途上国と先進国の対立」などについて、見てきました。



 ところで、また、

 この作業部会では、いろいろと政治的なやりとりの他に、

 地球温暖化の影響にたいする、「最新の予測」についても、

 公表されたようです。


 ここでは、それについて見て行きましょう。


               * * * * *


 さて、

 作業部会において公表されたのは、

 国連大学 環境・人間安全保障研究所などによって、

 まとめられた報告書です。



 それによると、

 地球温暖化による、海面上昇や食糧不足などで、

 2050年までに「移住」を余儀なくされる人々が、

 およそ2億人に達するそうです!


 これは報告書の中で、国際移住機関(IOM)による試算として、指摘
されています。



 また、

 ガンジス川河口(バングラデシュ)、メコン川河口(ベトナム)、ナイル川
河口(エジプト)のデルタ地帯では、

 1メートルの海面上昇では、2350万人が影響をうけ、150万ヘクタール
の農地が失われるとし、

 2メートルの海面上昇になると、3430万人が影響をうけ、247万ヘク
タールの農地が失われると、試算されています。



 それを知って、私が感心したのは、

 海面上昇が1〜2メートルにおける被害が、すでに試算されていること
です。

 というのは、最新の科学的な知見によれば、

 2100年までに、最低1メートルの海面上昇が避けられず、

 下手をすれば、2メートルにもなると予測されているからです。



 日本の場合についても、早急に、

 海面上昇が1〜2メートルにおける被害を、試算する必要があります。


                  * * * * *


 ところで、

 これはボンでの作業部会で、公表されたという訳ではありませんが、

 ついでに紹介したいと思います。



 元国連事務総長のアナンさんが設立した、国際的な人道支援団体で
ある「グローバル人道フォーラム」が、

 5月29日に、「人類への影響に関する報告 気候変動−静かなる危機
の分析」という、報告書を公表しました。

 これは、地球温暖化による人類への影響を、初めて包括的に分析した
ものです。



 その報告書によると、

 すでに地球温暖化は、3億2500万の人々の生活に、

 深刻な影響を及ぼしています!


 そして、その数は、2030年までに6億6000万人に増加する見込み
です。



 また、

 地球温暖化が原因で死亡する人は、すでに世界中で、

 毎年30万人以上に上っています!


 そして2030年には、その数が50万人に達すると予測しています。



 とくに深刻な被害をうけるのは、

 サハラ砂漠から中東、中央アジアにかけての半乾燥地域や、

 サブサハラ、アフリカ、東南アジア、南アジア、そして海に浮かぶ小さな
島々などの「最貧国」です。


               * * * * *


 私は、この話を知ったとき、すごく大きな衝撃をうけました。

 というのは、

 億単位の数の人々に、地球温暖化の深刻な影響がでるのは、

 2020年頃のことだと、今まで思っていたからです。



 しかし現在すでに、世界中で何億もの人々が、

 地球温暖化の「深刻な影響」を、実際に受けているのです!


 もはや、一刻の猶予(ゆうよ)もありません!



               * * * * *


 ところが・・・ 

 こんな状況であるのに、

 今回の作業部会では、あまり話が進みませんでした。



 先進国全体での、温室効果ガスを削減する規模や、

 発展途上国における、排出抑制の政策などについて、

 合意することが出来ず、議論が次回の8月に持ち越されたのです。



 そして、今年の12月に行われる、

 「気候変動枠組条約 第15回締約国会議 (COP15)」においての、

 全面合意が、危(あや)ぶまれる声も出始めました。



 条約事務局長の デ・ブアさんが、

 「具体的な枠組が、COP15で合意できるとは思えない」

 と、記者会見でコメントしたそうです。


               * * * * *


 私は、ここの所ずっと、

 「温室効果ガス削減の中期目標」について調べていて、

 「3つの関係」があることが、分かってきました。



 1つ目は、先進国どうしの関係。

 これは、EUや日本、アメリカなどの間で、

 省エネ技術の進みぐあいや、

 「限界削減費用(二酸化炭素を減らすのに必要な費用)」などが、

 どうのこうのという話です。



 2つ目は、発展途上国と先進国の関係。

 これは、1人あたりの二酸化炭素排出量が、発展途上国の方がすごく
少ないとか、

 先進国には、過去から二酸化炭素を出しつづけて来たという「歴史的
責任」がある

 と、いうような議論です。



 そして3つ目は、科学的な知見と、世界経済との関係。

 これは、地球温暖化にたいする「最新の予測」や、

 現在すでに起こっている、「温暖化の影響」についての調査や研究と、

 先進国や途上国を含めた、世界経済との関係です。



 やはり、これらの中では

 「科学的な知見」を、いちばん優先しなければならないのは当前
です!


 そこの所を見誤ったり、

 「科学的な知見」を軽く見たり、ナメてかかっていたりすると、

 取り返しのつかないことになるでしょう。



 どうも、政治や経済を主導にして、ものを考える人間たちは、

 「科学的な知見」を、実感するレベルで理解できていないと言うか、

 将来に起こるべくして起こる大被害を、軽く見ているように思えて
なりません。



 もはや、

 先進国どうしで、ゴチャゴチャと言い争っていたり、

 途上国と先進国が、対立している場合ではありません!



 さもなければ将来、

 すごく大きな被害(たとえば第二次世界大戦など、及びもつかない
ような被害)を受けてしまうのは、

 すべての国の人々なのです!




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