ドイツ・ボンでの作業部会 1
2009年6月21日 寺岡克哉
6月1日から12日まで、ドイツのボンで、
「気候変動枠組条約 特別作業部会」という、国際会議が開かれて
いました。
これには、183もの国々が参加しました。
この、ボンで行われた「作業部会」は、
今年の12月に、デンマークのコペンハーゲンで行われる、
「気候変動枠組条約 第15回締約国会議 (COP15)」に向けての
準備会合です。
そのCOP15で、各国の中期目標が、最終的に決まる予定になって
います。
日本の中期目標が、6月10日に発表されたのも、
もちろん、この「ボンでの作業部会」が終了する前に、間に合わせた
のでしょう。
ここでは、その作業部会について、見て行きたいと思います。
* * * * *
まず、
「1990年比で−8%」と公表した、日本の中期目標にたいする、
国際社会の反応が気になるところですね。
これについては、思ったとおり、とくに発展途上国から、批判的な意見が
あいつぎました。
中国とマレーシアの代表が、「日本が目標を提示したことは評価できる
が、数値は不十分」と批判しています。
韓国の代表は、「大半の人が野心的だとは思わないだろう」と言い、
南アフリカの代表が、「世界をリードできるとは思えない」と批判しました。
また、日本の中期目標は、
森林の吸収や、発展途上国への技術協力(CDM)、排出枠取引などを
含まない、いわゆる「真水」であることを主張していますが、
これに対して、フランスの気候変動大使は、
「真水を目標にすると言うことは、日本はもっと削減できるということだ」
と述べています。
やはり、世界的な常識から言えば、
「日本の中期目標は不十分」という感が、否めません!
* * * * *
ところで・・・
いま話したように、私たち日本人にとっては、「日本にたいする国際社会
の反応」が、いちばん気になることです。
しかし実は、今回の作業部会でいちばん目だったのは、「発展途上国と
先進国の対立」でした。
というのは、
発展途上国が、先進国にたいして、「歴史的責任」という考え方を突き
つけており、それが大きなテーマとして浮上したからです。
つまり先進国は、現在においてのみ、二酸化炭素を大量に出している
わけではありません。
産業革命が起こってからずっと、二酸化炭素を大量に出しつづけて来た
のであり、
それが、いまの地球温暖化を招いているわけです。
先進国には、そのような「過去からの責任」もあると、発展途上国側が
主張しているのです。
先進国にとっては、
「1人あたりの二酸化炭素排出量」だけでも、途上国にたいして頭が
上がらないのに、
その上、「歴史的な二酸化炭素排出量」まで持ち出されては、さらに
立つ瀬がなくなるでしょう。
すごく頭の痛い問題です!
もはや、EUや日本、アメリカなどの先進国どうしで、ゴチャゴチャと言い
争っている場合ではありません。
* * * * *
今回の、ボンにおける作業部会では、
中国やインド、南アフリカをふくむ、およそ40の発展途上国によって、
「京都議定書後の改正案」がまとめられました。
それによると、上で話した「歴史的責任」を踏まえれば、
先進国は2020年までに、「1990年比で40%以上の削減」をする
べきだと主張しています。
日本については、2013〜2020年の平均で19%の削減、2020年
には33%の削減を求めています。(もちろん1990年比です。)
これに対して、日本などの先進国は、「過去のデータは不確実」などと
して反論したそうです。
それによって、「先進国と発展途上国の対立」が鮮明になりました。
このことは、今後の議論における火種となるのは確実で、
はげしい論戦が繰り広げられるのは、必至だと見られています。
私が思うには、
科学的な観測によって明らかにされた、地球温暖化の進行状況から
すれば、
つまり、確実に迫っている深刻な現実。
そしてまた、現在すでに起こっている深刻な現実からすれば、
いつまでも延々と、そのような論戦をしている時間など、まったく無い
はずですが・・・
* * * * *
ところで、「歴史的責任」というものを考えた場合、
いったい先進国は、どれくらいの二酸化炭素を出していたことに、
なるのでしょう?
そんな疑問を持ったので、すこし恐い気もしますが、調べてみました。
そうしたら、以下のようなデータを見つけました。
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産業革命以降の、国別の累積二酸化炭素排出量
排出期間 累積排出量 人口 1人あたりの累積
(西暦) (億トンCO2) (2004年) 排出量(トン)
アメリカ 1800〜2004 3221 293655400 1097
旧ソ連 1839〜2004 1311 281266362 466
中国 1899〜2004 887 1296157000 68
ドイツ 1792〜2004 781 82516250 946
イギリス 1751〜2004 717 59834300 1199
日本 1868〜2004 449 127763000 351
フランス 1802〜2004 317 60521140 523
インド 1858〜2004 272 1079721000 25
カナダ 1785〜2004 241 31989000 753
イタリア 1860〜2004 174 58175300 299
韓国 1945〜2004 84 48082160 175
出所: CDIAC (Carbon Dioxide Analisis Center)
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上の表で、いちばん左側の「排出期間」というのは、産業革命が始まって
から、西暦2004年までを指します。
それぞれの国により、産業革命の始まった年代が異なっています。なので、
イギリスなどの早期に産業革命が起こった国は、「排出期間」が長くなってい
ます。
左から2番目の「累積排出量」というのは、それぞれの国が排出期間中に
出した、二酸化炭素の総量です。
いちばん右側の「1人あたりの累積排出量」というのは、「累積排出量」を、
「2004年の人口」で割ったものです。
これは、どんな量かと言えば・・・
いま生きている人間が、それぞれの国の「過去の責任」まで負うとすれば、
1人あたり、一体どれだけの二酸化炭素を出したかという値でしょう。
ところで、
上の表をみて興味深いと思ったのは、「1人あたりの累積排出量」では、
アメリカよりも、イギリスの方が多いことです。
これはたぶん、イギリスで産業革命が始まったのが、歴史的に早かった
からでしょう。
そしてまた、
日本はヨーロッパにくらべても、「1人あたりの累積排出量」が思った
ほど多くないですね。
それは恐らく、戦前までの日本は、あまり二酸化炭素を出していなかった
からでは、ないでしょうか。
これは日本にとって、けっこう有利なデータのように思えます。
上でも話しましたが、今回のボンにおける作業部会で、発展途上国が
まとめた「京都議定書後の改正案」では、
「歴史的責任」を踏まえ、先進国には「1990年比で40%以上の削減」
を求めています。
しかし日本に対しては、2013〜2020年の平均で19%の削減、2020
年では33%の削減しか要求していません。
私は、そのことを知ったとき、
なぜ日本に対しては、削減要求がすこし甘いのだろうと、ちょっと疑問に
思っていました。
しかし、上の表のデーターをみて、それが納得できたわけです。
日本も、どうせヨーロッパに対して立場を主張するなら、
1990年比を、2005年比に変えるという「姑息な手段」よりは、
そしてまた、
「限界削減費用(つまり、二酸化炭素を削減するのにかかる費用)が
高いから、大幅な削減はできないのだ」というような主張よりは、
「歴史的責任」の方が、よほど筋が通っているでしょう!
しかしながら、もちろん日本も、
温室効果ガスの大幅な削減をしなければなりませんし、
1990年から現在まで、温室効果ガスの排出を増やして来たという
事実が、決して消える訳ではありません。
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