日本の中期目標 10
                             2009年6月14日 寺岡克哉


 麻生首相が6月10日に、「日本の中期目標」を発表しました。

 それによると、2005年比で15%の削減。

 つまり、1990年比では8%の削減です。


 これについて、いろいろ私の感じたことを、お話したいと思います。


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 まず最初に思ったのは・・・ 

 京都議定書における、2012年までの削減目標が、1990年比で−6%
なのに対して、

 その後2020年までの中期目標が、1990年比で−8%にしか、なって
いないことです。



 つまり、

 京都議定書後の、次期の削減目標として、

 たったの「2%ポイント」しか、進展していないのです!



 これでは、なんとも情けない内容だと、言わざるを得ないでしょう。


               * * * * *


 しかしながら・・・

 日本経団連が、1990年比で+4%を主張していたので、

 その意見は、完全に無視された形になるのでしょう。


 経団連の面目は、「丸つぶれ」という感じでしょうか。


 このように、

 「あまりにも非常識な意見」を取り入れなかったのが、

 せめてもの救いです。


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 が、しかし・・・ 

 先進国は2020年までに、1990年比で25〜40%削減しなければ
ならないと言う、

 「科学的な要請」からは程遠いものです!



 地球温暖化による「深刻な被害」を回避するためには、どうしても、
それくらいの削減が必要です。

 なので、それよりも低い削減目標値を表明すれば、

 「深刻な被害が起こることを容認している!」と思われても、仕方が
ありません。



 だから、今回発表された中期目標にたいして、

 学識経験者や環境団体など多くの人々から、「痛烈な批判」を浴びて
しまうのは、

 とうてい免(まぬが)れないでしょう。


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 ところで・・・ 

 中期目標の削減値を、1990年比ではなく、

 「2005年比」としたのが、すごく姑息なところです!




 まず、この表をみてください。

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        1990年比    2005年比   1990年〜2005年

 EU      −20%      −13%        −7%
 アメリカ   ±0%       −14%       +14%
 日本     −8%       −15%        +7%
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 表のいちばん右側をみると、EUは1990年〜2005年までに、温室効果
ガスの排出を7%減らしています。

 なのでEUは、、1990年比で−20%でも、2005年比にすると−13%
になってしまいます。


 一方、日本は1990年〜2005年までに、温室効果ガスの排出が7%
増えています。

 だから日本は、1990年比で−8%でも、2005年比にすると−15%に
なるのです。



 つまり、削減目標の「基準年」を、1990年から2005年に変えると
いうことは、

 EUが努力して、7%削減したという実績をチャラにし、

 日本がサボり、7%増加させてしまったのを、チャラにすることです。



 これをもって、

 「日本の削減目標値が、欧米よりも上回っている」というのは、

 ほとんど詐欺に近いというか、完全に詐欺です!


 これで国際社会が納得するとは、とうてい思えません。


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 しかし・・・ 

 アメリカが「2005年比」を採用しているので、その虎の威を借りて、

 日本も「2005年比」を、国際社会に向かって主張するつもりかも
知れません。



 ところが、

 1990年〜2005年まで温室効果ガスを減らしてきたEUは、

 「2005年比」などと言うものを、絶対に認めようとしないでしょう。



 さらには、もしも、

 「1990年比か、2005年比か」という対立が表面化すれば、

 国際協調のための議論が、かなり紛糾するのではないでしょうか。



 そして、世界全体における温室効果ガスの排出を減らすという、

 「本質的な議論」をそっちのけにして、

 姑息な議論に始終してしまうことを、私は心配しています。



 むしろ日本は、あえて1990年比を採用し、

 1人あたり、年間およそ20トンも二酸化炭素を出している
アメリカに対して、

 「国際的な圧力」を、もっとかけて行くべきです!




 下の表から明らかなように、本当は、一番しょうもないのがアメリカ
なのです。

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       1人あたりの二酸化炭素排出量(2005年)

          アメリカ    19.8トン
           ロシア     10.8トン
           ドイツ      9.9トン
           日本       9.8トン
           イギリス     9.5トン
           中国       3.9トン
           インド      1.1トン

   出典: EDMC/エネルギー・経済統計要覧2008年版
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 そして・・・ 

 とくに「中国」の動きも気になります。



 日本の削減目標が低いことを「ダシ」に使って、

 中国の削減義務を回避するための、道具にされかねません。

 私は、それもすごく危惧しています!



 中国は、アメリカに並んで、二酸化炭素をたくさん出している国です。

 しかし、上の表から明らかなように、1人あたりの排出量で見れば、

 年間に3.9トンしか、二酸化炭素を出していません。



 そしてまた、この地球に生きている、1人ひとりの誰もが、

 平等にエネルギーを使うことができ、

 平等に豊かになる権利があるというのが、

 国際協調における、いちばん根本的な理念だとすると、

 「1人あたりの二酸化炭素排出量」というのが、もっとも根本的な
指標になるでしょう。



 だから中国の言い分としては、

 「二酸化炭素を、減らさなければならないのは理解しているが、
お前たち(先進国)には、言われたくない!」

 「まず、お前たち(先進国)が、俺たち(中国)と同じレベルまで、
1人あたりの二酸化炭素排出を削減しろ!」

 「贅沢三昧をやっている、今のお前たち(先進国)には、俺たち
(中国)に物をいう資格はない!」

 と、なるでしょう。



 じじつ、

 中国は、温室効果ガス削減の「国際的な枠組」に参加する条件
として


 先進国にたいして、1990年比で40%の削減を要求しています。



 これは、先進国にとって「ムチャクチャな要求」のように感じますが、

 しかしまず、せめて、1人あたり5トンていどまで二酸化炭素排出を
減らさなければ、

 つまり、日本、ドイツ、イギリスなどは、現状より50%ていど削減し、

 さらにアメリカは、現状より75%ていど削減しなければ、

 中国に対して、偉そうなことは言えないように思えます。



 しかしそれを、すぐに実現するのは不可能です。

 だから現実問題として当面は、先進国のエゴを、新興国や途上国
に押し付けて行くしかありません。

 その埋め合わせとして先進国は、新興国や途上国にたいする、
技術や資金の援助なども欠かせないでしょう。


              * * * * *


 このように、これからの国際交渉によって、中期目標がどうなって行く
のか、まだ分からない所が多々あります。



 しかも日本では、これから「衆議院選挙」がひかえています。

 そして民主党は、日本の中期目標を「1990年比で−25%」にすると、
政権公約しています。

 だから、もしも「政権交代」が起これば、日本の中期目標がそのように
変わる可能性もあります。



 まだまだ、中期目標については、

 国内情勢も、国際情勢も、これからどうなるのか分かりませんね。



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