温暖化による被害コスト
                             2009年6月7日 寺岡克哉


 5月29日に環境省が、地球温暖化による「被害コストの見積もり」
を発表しました。

 茨城大学や国立環境研究所など14の研究機関による、大がかりな
研究の成果を、まとめたものです。


 ここでは、それについて簡単にレポートしたいと思います。


                 * * * * *


 さっそくですが、まず第一に、

 「温暖化対策を行わなかった場合」に、どれくらいの被害コストになる
のか、すごく気になるところですね。

 なので、それを以下の表にまとめてみました。



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 温暖化対策を取らなかった場合の、1990年から比べた「年間被害コスト」
の増大


              2030年代     2050年代     2090年代

気温上昇         1.0℃        1.7℃       3.2℃
海面上昇         7センチ      12センチ     24センチ
降水量           101%       107%       113%

洪水被害      1兆3000億円   4兆9000億円   8兆3000億円
土砂崩れ        6000億円      5800億円     9400億円
ブナ林の喪失      851億円      1381億円     2324億円
砂浜の喪失       121億円       208億円      430億円
高潮(西日本)   2兆円        3兆5000億円   7兆4000億円
高潮(三大湾)     2000億円      4000億円   2兆3000億円
熱中症 死亡      274億円       529億円      1192億円

   計       4兆2246億円   9兆5918億円   19兆3346億円


※注1 ただし1990年における、気温上昇は0℃、海面上昇は0センチ、
    降水量は100%とする。

※注2 産業革命前からの気温上昇を知るには、0.5℃を足せば良い。

※注3 高潮被害で「西日本」とは、中国、四国、九州地方である。

※注4 高潮被害で「三大湾」とは、東京湾、伊勢湾、大阪湾である。
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 上の表で、まず注目してもらいたいのは、

 温暖化対策をやらない場合であるのに、2090年代の海面上昇が、

 たった24センチにしか、なっていないことです。



 これでは、最新の科学的な知見を反映していません!



 というのは、最新の科学的な知見によれば、

 もっとも厳しい温暖化対策を行った場合でも、最低1メートルの
海面上昇が避けられず、


 もしも温暖化対策を行わなければ、2メートルていどの海面上昇
になると予測されているからです。


 だから被害コストの総額は、上の表より、もっともっと大きくなる
のは確実でしょう。




 しかし・・・ 

 それを念頭に入れたとしても、2090年代では「年間被害コスト」が、
およそ20兆円にもなります。

 しかもこれは、「1年間あたりの被害コスト」だと言うことにも、注意して
ください。

 つまり平均すると、毎年、毎年、それくらいの被害コストになるという意味
です。



 だからこれは、

 「2090年代の10年間で考えると、およそ200兆円の被害コスト
になる!」

と、いうことです。



 このように2090年代では、海面上昇がたった24センチだったとしても、
こんなに大きな被害が予想されているのです。

 もしも海面上昇が2メートルになったら、どれほどの被害になるのか、
上の表からは想像もつきません!


 海面上昇が2メートルになった場合の被害コストを、早急に調べてほしい
ところです。


                  * * * * *


 そして、2番目に気になるのは、

 温暖化対策を取った場合に、被害コストをどれくらいに抑えられるかで
しょう。

 それを、つぎの表にまとめてみました。



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          1990年から比べた、2090年代の年間被害コストの増大

            厳しい対策を取った場合    対策を取らない場合

 二酸化炭素濃度      450ppm            850ppm
 気温上昇           1.6℃              3.2℃
 海面上昇           15センチ           24センチ
 降水量             107%              113%

 洪水被害         5兆1000億円        8兆3000億円
 土砂崩れ            6500億円          9400億円
 ブナ林の喪失         1325億円          2324億円
 砂浜の喪失           273億円           430億円
 高潮(西日本)      5兆4000億円        7兆4000億円
 高潮(三大湾)      1兆8000億円        2兆3000億円
 熱中症 死亡          510億円          1192億円

    計         13兆1608億円        19兆3346億円


 ※注5 ただし1990年における、気温上昇は0℃、海面上昇は0センチ、
     降水量は100%とする。
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 上の表で、左側の「厳しい対策を取った場合」というのは、

 2030年から、それ以降ずっと、大気中の二酸化炭素濃度を450ppm
で安定させるシナリオになっています。

 このシナリオでは、世界の温室効果ガス排出量を、2010年から減少
に転じ、2050年までに半減させなければなりません。

 この「2010年から減少に転じる」というのは、もう現状では不可能に
なっています。

 だから「実際の被害」は、これよりも必ず大きくなるでしょう。



 つまり、もう既に、

 2090年代の10年間で、最低でも130兆円ほどの被害コストを、

 覚悟しなければ、ならなくなっているのです。



 しかもそれは、海面上昇の想定が、たったの15センチだとした
場合です。

 しかし、最新の科学的な知見によれば、

 「もっとも厳しい温暖化対策を取ったとしても、最低1メートルの
海面上昇が避けられない!」

 としています。


 なので、上の見積もりよりは、もっともっと大きな被害コストになるで
しょう。


                * * * * *


 今回の、「地球温暖化による被害コストの見積もり」をみて、私は思うの
ですが・・・ 


 「温暖化対策を取らない場合」については、

 海面上昇が2メートルになったときの被害コストを、調べる必要が
あるでしょう。



 そして、「温暖化対策の効果」を見るためには、

 海面上昇が1メートルのときと、2メートルのときの、「被害コスト
の差」を調べる必要があるでしょう。




 ここが、もっとも本質的な部分というか、

 被害コストとして、いちばん大きく効くところだと、私は考えています。

 ぜひ、そのような視点から分析のやり直しを、早急にやって頂きたい
と思います。



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