このままだと2050年にどうなるか? 5
2008年11月16日 寺岡克哉
もしも、有効な温暖化対策をとることが出来ずに、このまま二酸化炭素を
出しつづけてしまったら・・・
もしもそうなったら、2050年には、2.6℃の気温上昇になる可能性
が高いです。
そのような、2.6℃の気温上昇が起こったとき、一体どんな事態になって
しまうのか、いろいろと見て行きましょう。
前回では、
2050年までに気温が2.6℃上昇すると、温暖化の進むスピードが、あまり
にも速すぎるため、
森林の移動や、サンゴ礁の移動が、そのスピードに追いつけなくなり、消滅
してしまうこと。
そうすると、そこに棲んでいる生物たちも、森林やサンゴ礁と運命を共に
して、絶滅してしまうこと。
について、お話しました。
しかしながら、さらに海の場合は、
「海水の酸性化」の影響や、
「海洋の大循環が弱まること」による影響もあります。
今回は、そのことについて見て行きましょう。
* * * * *
海水の酸性化
二酸化炭素が水に溶けると、弱酸性の性質をもつ、「炭酸」というもの
になります。
だから大気中の二酸化炭素が、海にたくさん溶けると、海水が「酸性化」
します。
その、海水の酸性化が、とても酷(ひど)くなると、
最悪の場合、サンゴや、貝の殻が、海水に溶けてしまいます!
なぜなら、サンゴの骨格や、貝殻は、「炭酸カルシウム」というものから
出来ており、
この炭酸カルシウムが、酸性化した海水にたいして、溶けてしまう性質を
もつからです。
たとえ酸性化が、そこまで酷くならなくても、ある限度をこえれば、
サンゴや貝は、炭酸カルシウムを、海水から取り出すことが出来なくなり
ます。
つまりサンゴの骨格や、貝殻を作ることが出来なくなり、育つことが出来
なくなるのです。
また、イカは「平衡石(へいこうせき)」、魚は「耳石(じせき)」という、
体の平衡バランスを保つための器官に、炭酸カルシウムが使われてい
ます。
なので酸性化が酷くなると、それらの生き物へも、影響を及ぼしてしまうで
しょう。
だから「海水の酸性化」は、海の生態系にとって、すごく大きな問題となる
のです。
ところで・・・
2007年の時点で、すでに大気中の二酸化炭素は、383.1ppmに
なっています。
そして、このまま人類が二酸化炭素を出しつづければ、2050年には
720ppmになると考えられます。
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※ppm
ppmというのは、「100万分の1」という意味です。
1立方メートル(100センチ×100センチ×100センチ=100万立方セン
チ)の空気のなかに、
1立方センチ(1センチ×1センチ×1センチ)の二酸化炭素が含まれていれ
ば、ちょうど1ppmになります。
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ところでまた、サンゴや貝殻の溶けやすさ、
つまり、炭酸カルシウムの溶けやすさは、「海水の温度」によって変わり
ます。
たとえば水温が2℃の場合、大気中の二酸化炭素が640ppmになると、
貝殻が溶けてしまいます。
しかし水温が25℃だと、1960ppmにならなければ、サンゴや貝殻は溶け
ません。
このように、水温が高いほど、炭酸カルシウムは溶けにくくなる訳です。
しかし水温が25℃でも、大気中の二酸化炭素が450ppmを超えた時点で、
サンゴの成長がすごく悪くなります。
つまり、サンゴの生物的な力では、海水から炭酸カルシウムを取り出すこと
が、できなくなる訳です。
上の研究結果を参考にして考えると、
2050年までに、大気中の二酸化炭素が720ppmになったら、
北極や南極にちかい、高緯度の「冷たい海」では、貝殻が溶けてしまうので、
貝の仲間は絶滅してしまいます。
また、イカは平衡石が作れなくなり、魚は耳石が作れなくなるので、そのよう
な海域で生まれ育つイカや魚も、絶滅してしまうでしょう。
つまり、高緯度の冷たい海域では、生態系が壊滅してしまうのは確実
です!
また、赤道ちかくの「暖かい海」でも、サンゴが育つことが出来なくなって
しまうでしょう。
ちなみに、地球に存在する海水魚のうち、その3分の2の種が、サンゴ礁
に棲んでいます。
だから「サンゴ礁の消滅」は、海の生態系にとって、壊滅的なダメージ
となるのは間違いありません。
以上のような「海水の酸性化」は、温暖化による海水温の上昇よりも、さらに
深刻な問題となるかも知れません。
* * * * *
海洋の大循環
海水は、世界中をめぐる「大循環」をしています。
この「海洋の大循環」は、
まず、北大西洋のグリーンランド周辺で海水が冷やされ、沈みこむことから
始まります。
つぎに、海底に沈んだ「深層水」は、大西洋を南下して、インド洋や太平洋
へ流れていきます。
さらに、それらの場所に流れついた深層水は、そこで表層に湧きだします。
そして今度は、「表層水」として、またグリーンランドの方へもどって行くの
です。
以上のような大循環が1週するのに、2000年くらいかかると言われてい
ます。
このような海洋の大循環は、
深層水にたくさん含まれる栄養を、表層に供給し、
表層水にたくさん含まれる酸素を、深層に供給する
という役目をしています。
しかし地球が温暖化すると、グリーンランド周辺で海水が冷やされにくくなり、
海水の沈み込みが弱くなります。
そうすると、海洋大循環の流れが、全体的に弱くなるのです。
たとえば、地球の平均気温が3.1℃上昇すると、海洋大循環によって流れ
ている水量が、28%ほど減少するという予測結果があります。
その予測グラフから、2.6℃の気温上昇に相当すると思われる値をみると、
流れる水量が26%ほど減少していました。
なので、2050年までに気温が2.6℃上昇すれば、
深層から表層に運ばれる栄養が、おそらく26%ほど減り、
表層から深層に運ばれる酸素も、おそらく26%ほど減るでしょう。
これが海の生物たちに、どれくらいの影響を及ぼすのか、ちょっと私には
分かりません。
しかし、すごく単純に考えれば、
栄養と酸素が減ったぶんだけ、海に棲むことのできる生物の全体量が、
おそらく減少することになるのでしょう。
* * * * *
前回の話と合わせて、地球温暖化による「生態系への影響」をまとめ
ます。
2050年までに、2.6℃の気温上昇が起こったら・・・
地球に存在する生物のうち、最大30%の種で、絶滅の危機が増加し
ます。
また、アマゾン東部のジャングル(熱帯雨林)は、だんだんとサバンナ
(乾燥した草原)に変わっていきます。
海の生物について言えば、
地球の海に棲んでいる、ほとんどのサンゴが白化してしまうでしょう。
また、海洋大循環によって流れる水量が、おそらく26%ほど減少し
ます。
そうすると、海の表層に供給される栄養や、深海に供給される酸素が、
それだけ減ることになるでしょう。
さらに海の場合は、「酸性化」の影響もあります。
2050年までに、大気中の二酸化炭素が720ppmになったら、
北極や南極にちかい、高緯度の「冷たい海」では、生態系が壊滅して
しまいます。
また、赤道ちかくの「暖かい海」でも、サンゴ礁が消滅してしまい、海の
生態系に壊滅的なダメージを与えるでしょう。
以上のように、
2050年までに気温が2.6℃上昇してしまったら、
地球の生態系にたいする、かなりの被害を覚悟しなければなりません。
* * * * *
(4)農業や漁業への影響
これは、次回でお話したいと思います。
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