このままだと2050年にどうなるか? 4
                               2008年11月9日 寺岡克哉


 人類が、このまま二酸化炭素を出しつづけたら・・・ 

 そうなったら、2050年には、2.6℃の気温上昇になる可能性が高い
です。

 そのような、2.6℃の気温上昇が起こったとき、一体どんな事態になって
しまうのか、いろいろと見て行きましょう。



 前回までは、「地球温暖化の影響」について以下に挙げられる項目、

 (1)異常気象
 (2)海面上昇
 (3)生態系への影響
 (4)農業や漁業への影響
 (5)健康被害
 (6)その他

 のうち、(1)〜(2)についてお話しました。

 今回は、その続きです。


               * * * * *


(3)生態系への影響


 地球が温暖化すると・・・ 

 陸の生き物や、海の生き物たちに、

 すごく大きな悪影響を、与えてしまいます!



 しかし、皆さんの中には・・・ 

 「地球が暖かくなれば、逆に、生き物がたくさん増えるのではないか?」

と、思う人がいるかも知れませんね。



 たしかに、すごくゆっくりと、

 何千年も、何万年もかけて、温暖化が進むのなら、

 そして、2〜3℃ていどの気温上昇で済むのならば、

 地球全体としての、生き物たちの数は、今より増えるかも知れません。



 ところが、いま起こっている温暖化は、

 とてもスピードが速いので(最悪だと、今後100年間で、6.4℃の気温
上昇)、

 たくさんの生き物たちにとって、すごく大きな悪影響となるのです。


               * * * * *


 しかしながら、なぜ温暖化のスピードが速いと、

 生き物たちにとって、大きな悪影響となるのでしょう?



 それは生き物たちが、

 熱帯や、温帯、そして寒帯など、

 それぞれの温度に適応して生きているからです。

 つまり、温帯の生き物は、熱帯の気候で生きることが出来ず、

 寒帯の生き物は、温帯で生きることが出来ないからです。



 ところで、もしも地球温暖化が、すごくゆっくりと進むならば、

 熱帯の生き物は、温帯の地域に広がって行き、

 温帯の生き物は、寒帯の地域に広がって行くでしょう。

 北極の白熊や、南極のペンギンなどの、寒帯の生き物は、逃げ場がなく
なって絶滅するかも知れませんが、

 しかしそれでも、地球全体として見れば、生き物の数は増えるでしょう。



 ところが・・・ 

 あまりにも急激に、温暖化が進んでしまうと、

 生物の移動するスピードが、それに追いついて行けなくなるのです。

 そして、逃げ遅れた生物たちは、もはや生きることが出来なくなり、

 絶滅してしまいます。


                * * * * *


 その代表的なものとして、「森林の移動スピード」の例があります。


 たとえば日本の場合、気温が2℃上昇すると、およそ300キロメートル
ほど、南に移動したのと同じになります。

 この「2℃」というのは、1990年〜2050年までの、60年間の気温上昇
に相当します。
 (つまり1990年の時点で、すでに気温が0.6℃上昇しているので、2050
年までに気温が2.6℃上昇すれば、その60年間の気温上昇は2℃になり
ます。)

 だから、日本に棲む生き物たちは、

 60年間で、300キロメートルほど、北へ移動しなければならない
わけです。



 しかし「森林」は、60年間で、25キロメートルほどしか移動できま
せん!


 なぜなら樹木は、動物のように歩くことが出来ないからです。

 だから森林の移動は、

 風や動物などによって、すこし北の方に運ばれた種が、芽をだして育ち、

 その芽が、大きな樹木に育って、種をつけるようになり、

 その種が、風や動物によって、また少し北の方に運ばれて芽を出し・・・

 という方法で行われます。



 一方、森林の南側に生えている樹木は、きびしい暑さのために弱り、
やがて枯れてしまいます。

 また、そのような暑い場所には、もし種が落ちたとしても、もはや育つこと
が出来ないでしょう。

 そのため、さらに南方からやってくる、べつの種類の樹木に、だんだんと
生え変わって行くのです。

 それらの様子を、森林全体として見れば、「北に移動している」と言うことに
なる訳です。



 このように、森林が移動するためには、とてもとても長い時間が必要なの
です。

 それに対して、地球温暖化による気温上昇は、その10倍以上の速さで
進みます。

 だから森林は、北方の涼しいところへ逃げ切ることが、どうしても出来
ません!




 そうなれば、きびしい暑さのために樹木が弱り、やがて枯れてしまいます。

 また、気温が高くなるために、病害虫が異常発生するようになります。

 その上、樹木の抵抗力が弱っていることが、病害虫の広がりに拍車をかけ
ます。

 さらには、南方の病害虫などもやって来ます。

 このような原因が重なって、その森林は、いづれ全滅してしまいます!



 さらにそうすると、その森林に棲みついている生き物たち。

 つまり、その森林を離れては生きることが出来ない、昆虫や、鳥や、
獣たち・・・ 

 それらの生物も、森林の運命とともに、絶滅してしまうのです!


                * * * * *


 ところで、上の話とおなじように、

 海に棲む「サンゴ」も、そう簡単には移動できません。

 だから地球温暖化によって、海水の温度が上昇しても、

 サンゴは逃げることができないのです。



 そして、

 サンゴの白化現象が起こったり、

 その白化現象が長くつづけば、サンゴは死滅してしまいます!



 そうすると、サンゴ礁で暮らす生き物たち、

 つまり、サンゴ礁でしか、生きることができない生物たちも、

 おなじ運命をたどることになるのです。



 ちなみに、

 地球に生きる「すべての海水魚」のうち、その3分の2の種が、サンゴ礁に
棲みついていると言われています。

 だから「サンゴ礁の壊滅」は、海の生態系にとって、すごい大打撃となって
しまうでしょう。



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サンゴの白化現象

 サンゴは自分の体内に、「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる植物プラン
クトンを取り込んで、共生をしています。

 しかし、温暖化によって海水の温度が上がると、共生関係が維持できなく
なり、サンゴは褐虫藻を体外に放出します。

 そのためサンゴの色が白くなり、それを「サンゴの白化現象」といいます。


 ところで「褐虫藻」は、植物プランクトンなので、光合成によって栄養を作り
ます。そして、その栄養をサンゴに与えています。

 だから、褐虫藻がいなくなる状態。つまり白化現象が長くつづくと、サンゴは
栄養不足になり、死滅してしまいます。
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 とにかく・・・ 以上のような理由から、地球温暖化が進むと、

 陸の生き物や、海の生き物たちに、すごく大きな悪影響を与えてしまうわけ
です。



 それでは、

 2050年までに、2.6℃の気温上昇がおこれば、

 一体どれぐらいの悪影響が出るのでしょう?



 たとえば、IPCC(科学者たちの世界的な会合)の予測によると、

 2050年までに2.6℃の気温上昇が起こったら、

 地球に存在する生物のうち、最大30%の種で、絶滅の危機が増加し
ます。


 また、地球の海に存在する、ほとんどのサンゴが白化してしまう
しょう。




 さらにまた、2050年までに2.6℃の気温上昇がおこれば、

 アマゾン東部のジャングル(熱帯雨林)は、

 だんだんと、サバンナ(乾燥した草原)に変わっていきます。




 ところでアマゾンに限らず、一般的に「熱帯林」というのは、地球上で最も
たくさんの種が棲んでいる場所です。

 熱帯林は、地球の陸地のわずか7%を占めるにすぎませんが、

 しかし、そのような狭い領域に、

 地球に存在する生物のうち、およそ50%の種が棲んでいるのです。



  だからアマゾンだけでなく、

 世界中の熱帯林が、だんだんと消滅して行くようなら、

 陸上の生態系にとって、本当に大きな打撃となってしまうのです。

 (現在でも、推定で毎年1420万ヘクタールの熱帯林が、破壊されている
と言われています。)


                * * * * *


 ところで、海洋の場合・・・ 

 地球温暖化の影響は、海水温の上昇の他にも、

 「海水の酸性化」の影響と、

 「海洋の大循環が弱まること」による影響もあります。



 それについては、次回でお話したいと思います。



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