このままだと2050年にどうなるか? 3
                               2008年11月2日 寺岡克哉


 このまま、有効な温暖化対策をとることができず、人類が二酸化炭素を
出しつづけてしまったら・・・ 

 2050年には、2.6℃の気温上昇になる可能性が高いと、考えられ
ます。

 そのような、2.6℃の気温上昇が起こったとき、一体どんな影響が出て
くるのかを、いろいろ見て行きましょう。



 前回では、地球温暖化の影響について見ていく項目、

 (1)異常気象
 (2)海面上昇
 (3)生態系への影響
 (4)農業や漁業への影響
 (5)健康被害
 (6)その他

 のうち、(1)の異常気象についてお話しました。

 今回は、その続きです。


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(2)海面上昇


 地球が温暖化すると、

 海水が温められて「熱膨張」したり、

 山の氷河が解けたり、

 グリーンランドの氷床(ひょうしょう、「大陸氷河」とも言います)が解けた
りして、

 海面が上昇します。



※熱膨張
 海水は、温度が高くなると、膨張して体積がふえるため、海面が上昇し
ます。現在おこっている海面上昇の、いちばん大きな要因は、この「熱膨張」
によるものです。


※たとえば北極海の「海氷」は、「海に浮いている氷」なので、それが解けて
も海面は上昇しません。
 しかし山岳氷河や、グリーンランド氷床など、「陸上にある氷」が解けると、
そのぶん海水が増えるので海面が上昇します。


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 さて・・・ 

 2050年までに、気温が2.6℃上昇しても、

 海面の上昇は、おそらく30センチくらいでしょう。




 しかしそれでも、

 海面より低い場所(つまり海面下)に住んでいる人々。

 海沿いの低い土地(たとえば海抜1メートル以下)に住んでいる人々。

 そしてサンゴ礁で出来た、南の小さな島々(たとえばツバルやキリバスなど)
で暮らす人々には、

 とても深刻な危険が、及んでしまいます。

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 私たちの島々のいくつかには、幅が数メートルしかないところがある。そう
いう島で、片方からは波が打ち寄せ、反対側はラグーン(サンゴ礁に囲まれ
た浅い海)であるようなところに、立っていることを想像して下さい。それは
恐ろしいことです。
    (2002年2月 気候条約交渉キリバス首席代表、ナキバエ・テアトボ)
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 その上さらに、

 地球温暖化がすすむと、台風が強力になり、巨大になります。

 ただでも海面が30センチ上昇しているところへ、

 そのような、すごい台風による「高潮」に襲われると、

 それらの複合効果(つまりダブルパンチ)によって、ますます被害が大きく
なります。


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 そしてこれは、決して、日本も例外ではありません!


 すこし古いデータ(1992年)ですが、

 満潮のとき、海面より低くなる場所に住んでいる人々は、日本に200万人
もいます。

 つまり日本には、「海面下に住んでいる人」が、けっこう居るわけです。

 そして2050年までに、海面が30センチ上昇すれば、それが252万人に
増えます。



 その上、台風による高潮と重なってしまうと・・・ 

 日本では1230万人の人々が、「浸水の危険」にさらされます。

 しかしながら、さらに現在では、地下水のくみ上げすぎによる「地盤沈下」
が進んでいます。

 だから今では、「浸水の危険にさらされる人々」が、さらにもっと増えている
はずです。



 また他には、海面が30センチ上昇すると、日本の砂浜の56.6%が
消失する
とも言われています。

 だから、30センチの海面上昇といえども、決して軽く見ることは出来ない
のです。


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 ところで、IPCC(科学者の世界的な会合)による、最新の報告書では、

 「2100年までの海面上昇は、最大で59センチ」と、予測されています。


 しかし海面は、2100年まで上昇して、その後にピタッとすぐ止まるわけ
ではありません。

 地球温暖化による「海面の上昇」は、

 数百年どころではなく、すくなくても数千年は、

 絶対に止まることなく、ずっと続いて行きます!



 このことは、ぜひ皆さんに、よく知って頂きたいのです。


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 上で話したような、とても長い時間スケールで考えると、

 「グリーンランド氷床」の融解が、すごく深刻な問題になります!



 グリーンランドは、北極圏にある大きな島で、その面積は、日本のおよそ
6倍あります。

 そのような広い面積のすべてが、平均すると厚さ1300メートルの氷に、
覆(おお)われています。

 もしも、その氷がすべて解けてしまったら、海面が7.2メートル上昇すると
言われています。



 ところで、「氷床」というのは、南極大陸にもあります。

 しかし南極氷床よりも、グリーンランド氷床の方が、ものすごく深刻な事態に
なっています。

 なぜなら南極氷床は、そう簡単に解けることはありませんが、

 しかし一方、グリーンランド氷床は、すごく解けやすいからです。



 グリーンランド氷床の場合、たった2℃の気温上昇で、海面が2メートル上昇
すると言われています。

 さらには、グリーンランド周辺の気温が3℃ぐらい上昇すると、「氷床の
融解が止まらなくなる!」
と考えられています。


 その場合、

 西暦3000年までに、海面が3メートルていど上昇し、

 最終的には、5〜7メートルの海面上昇になる

と、予測されています。


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 ところで・・・ 

 地球温暖化の特徴として、北極や南極にちかい場所は、地球全体の平均
よりも、大きく気温が上昇します。

 たとえば「地球シミュレータ」という、スーパーコンピューターによる予測
では、

 地球全体の平均気温が2.5℃上昇すると、グリーンランド周辺の気温は
3.7℃上昇します。


 なので、

 2050年までに、平均気温が2.6℃上昇すれば、

 グリーンランド周辺では、3℃以上の気温上昇になることが、

 ほぼ確実です!



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 たしかに、グリーンランド氷床がすべて融解して、海面が5〜7メートル上昇
するのは、1000年以上もあとのことです。

 しかし、

 グリーンランド周辺の気温が、3℃よりも大きく上昇してしまったら、

 5〜7メートルの海面上昇を止めることは、

 もう、絶対に出来ないのです!




 なぜなら地球温暖化によって、いちど気温が上昇してしまうと、何千年も、
何万年も、元にもどらないからです。

 温暖化対策によって、気温の上昇を止めること(安定化)は出来ても、気温
を下げて、元にもどすことは出来ません。

 たとえば現在、すでに気温が0.76℃上昇していますが、

 もしも今ただちに、人類のだす二酸化炭素がゼロにできたとしても、

 数万年は、気温が元にもどらないのです。



 だから、

 グリーンランド氷床の完全融解を、決定づけてしまうかどうかは、

 まさに、いま現在の問題なのです!

 もしも、グリーンランド氷床の完全融解を、2050年までに決定づけて
しまったら、

 それから以後、何千年にもわたって、未来の人類から恨まれることになる
でしょう。


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 今回の話をまとめると、

 2050年までに、気温が2.6℃上昇すれば、海面が30センチていど上昇
します。

 30センチの海面上昇と、台風による高潮が重なれば、日本では最低でも
1230万人が、浸水の危険にさらされます。

 また、30センチの海面上昇によって、日本の砂浜の56.6%が消失します。

 2050年までに気温が2.6℃上昇すれば、グリーンランド氷床の融解が
止まらなくなり、5〜7メートルの海面上昇を、決定づけてしまいます。


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(3)生態系への影響

 これについては、次回でお話したいと思います。



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