気温上昇は本当か? 6
                              2008年5月4日 寺岡克哉


 地球が温暖化すると、氷河が融解したり、氷床が減少したり、海水が
熱膨張するなどして「海面が上昇」します。

 だから観測によって海面上昇が検出できれば、それは地球が温暖化
していることの「明確な証拠」
となります。

 そこで今回は、IPCCの第4次報告が言っている「世界平均海面水位
の上昇」
について、見てみたいと思いました。


                 * * * * *


 早速ですがIPCCの第4次報告では、海面上昇に対して次のように評価
しています。

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   海面上昇の要因          海面の上昇率(mm/年)

                    1961〜2003年   1993〜2003年
   熱膨張             0.42±0.12     1.6±0.5
   氷河と氷帽          0.50±0.18     0.77±0.22
   グリーンランド氷床      0.05±0.12     0.21±0.07
   南極氷床            0.14±0.41    0.21±0.35

   海面上昇に寄与する
   個別要因の合計        1.1±0.5       2.8±0.7

  観測された海面上昇     1.8±0.5      3.1±0.7


  (1993年以前のデータは潮位計の、1993年以降は衛星高度計の
  観測による。)
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 まず表の下から2番目、「観測された海面上昇」の値を見てください。

 「世界の平均海面水位」は、測定誤差の範囲を超えて、明らかに
上昇しています!


 これは海面の上昇が、否定できない「観測事実」であることを示して
います。


 このように海面上昇によっても、「地球の温暖化」は明確に証明され
ているのです。




 海面上昇の要因別でみると、

 海水の熱膨張、
 山岳氷河と氷帽の融解、
 グリーンランド氷床の融解(1993〜2003年)

 は、誤差の範囲を超えて、有意な値となっています。つまり、これらの
要因が海面上昇に寄与していることが、「科学的な事実」として明らかに
なった
と言うことです。

 また、表の左右の値(1961〜2003年と、1993〜2003年の値)をくら
べると、それらの影響が近年になるほど大きくなっているのが分かります。



 南極氷床については、まだ誤差が大きくて有意な値となっていないので、
分析精度のさらなる向上が待たれます。

 しかしながら前回で話しましたが、南極氷床の精密な分析が報告される
ようになったのは、2006年以降ぐらいからです。

 さらに今年の2008年には、人工衛星を4つも使った、大規模で精密な
観測による報告が出ました。

 なので近い将来、南極氷床の減少(融解)についても、測定誤差が小さく
なるのは間違いないでしょう。



 ちなみに、「地球が温暖化すると海水の蒸発が激しくなり、南極大陸の
積雪量が増えるので、反って海面を低下させる方に寄与する」という仮説
があります。

 しかしその仮説も、たぶん近い将来には、「観測事実」によって否定され
るでしょう。

 たしかに積雪は増えるかも知れませんが、しかし、それ以上に氷河の
流れが速くなり、南極全体として氷の量は減少するのです。

 最新の研究報告を見るかぎり、それが事実として判明するのは、ほぼ
間違いないと思います。
 2008年の1月に、ネイチャー・ジオサイエンス誌で発表された報告による
と、「概して氷床は明らかに減少しており、失った氷の質量は、ここ10年
で75%増加した」ことが分かったからです。



 また、最近のデータ(1993〜2003年)を見ると、「個別要因の合計」と
「実際に観測された値」が、誤差の範囲内でよく一致しています。

 これは、衛星観測のデータや現場観測のデータが改良されて、精度が
高くなった
からです。


                * * * * *


 ところで・・・

 地球温暖化への懐疑論者のなかには、「ツバルの海面は上昇していない」
と主張する者がいます。

 しかし、それは明らかな間違いです!

 なぜなら、公式な発表(National Tidal Centre in Austrarian Bureau of
Meteorology が2005年に公表した国別レポート)によると、ツバルの海面
は1977〜1999年までの22年間に、0.9mm/年の割合で上昇している
からです。

 さらに1993年以降は、「精度の高い潮位計」でもツバルの海面水位を
測定しています。それによると、1993年〜2005年では4.3mm/年の
割合で海面が上昇しています。

 だから、「ツバルの海面は上昇していない」というのは、根も葉もない
ウソです。




 また、気象庁の分析によると、

 「過去約100年間の日本沿岸の海面水位は、統計的に有意な上昇を
示していない。その変動には、1950年ころに極大がみられ、また約20年
周期の変動が顕著である」とあります。

 しかし一方で、

 「1980年代半ば以降についてみれば、海面水位は単調に上昇しており、
1985〜2005年の最近21年間の上昇率は3.8mm/年(標準偏差
2.4mm/年)の大きな値になっている。また、2004年の海面水位は
約100年の平均値より67mm高く、過去最高であった」ともあります。



 ところで、そもそも根本的な話として、

 一部の海域で水位が上昇していないか、あるいは一部の海域で水位が
低下していることを取り上げて、それで地球規模の海面上昇を否定しようと
するのであれば、それは「まったくデタラメな屁理屈」です。

 海面水位は、風や海流、あるいはエルニーニョなどの状況によって変動
します。なので、一部の海域だけを局所的に見れば、水位が大きく上昇
するところもあれば、水位の変化が無かったり、水位が低下するところも
あります。

 しかしそれは、海として当たり前のことです。

 だから、地球の海洋全体として、海面が上昇しているのかどうかが
本質的なこと
なのです。

 たとえば世界中にある観測所の、「潮位計」によって測定されたデータは、
そのほとんどがイギリスの海面水位データセンター(PSMSL: Permanent
Service for Mean Sea Level)に集められています。

 そのような「総合的なデータ」を基に、地球規模での海面上昇が、明ら
かに確認されている
のです。



 さらに1993年以降は、「人工衛星」による観測も取り入れています。

 衛星観測は、地球の海洋全体を見渡して、もれなく測定します。また、地盤
の変動による影響も受けないので、海面水位に対しては、ものすごく正確な
データを取ることができます。

 上の表を見ると、1993〜2003年の衛星による観測値では、3.1±0.7
mm/年の割合で海面が上昇しています。

 これは1961〜2003年の観測値、つまり1.8±0.5mm/年よりも大き
な値になっています。

 IPCCの第4次報告によると、「これが(この大きな海面上昇がエルニーニョ
などによる)10年規模の変動なのか、より長期的な上昇傾向の加速なのか
は不明である」としています。

 私なりにも、最近の衛星データ(2002〜2006年)を見てみました。そう
すると、1.7mm/年ぐらいの海面上昇に、収まって来ているように思えま
した。しかしながら、測定期間が短いので断言はできません。



 しかし何はともあれ、以上ここまで話してきたことから、

 地球規模で海面が上昇しているのは確実であり、この「事実」につい
て、もはや議論の余地はありません!


 だから、今でもなお海面上昇に異議を唱えている者がいるとすれ
ば、それは「まったくのナンセンス」だと言わざるを得ません。



                * * * * *


 さて、もういちど表を見ると、いちばん上の値は、海水の「熱膨張」による
水位上昇を示しています。

 一般に液体は、温度が上がると体積が増えます。

 たとえば熱を測るとき、温度計の棒が上に伸びるのも、中に入っている
液体の体積が増えるからです。

 海水もまったく同じで、温度が上がると体積が膨張し、それだけ海面が
上昇してしまうのです。



 ところでまた、一般に「液体」は、「気体」よりも温めにくく冷めにくい性質を
持っています。

 たとえば1リットルの水は、同じ1リットルの空気(1気圧)よりも、5000倍
ほど温めにくい(冷めにくい)性質があります。

 また、地球における「海洋」と「大気」をくらべると(つまり海水の量と、
空気の量の違いも考えると)、海洋の方が1000倍ほど温めにくくなって
います。

 だから、海水が熱膨張してしまうほど温められていると言うのは、
実はものすごいことなのです!


 そしてこの事実によっても、地球全体が確かに温暖化していることが、
明らかに証明されるのです。



 IPCCの第4次報告によると、

 「1961年以降の観測によれば、少なくとも水深3000mまでの層の
全海洋の平均水温は上昇し、気候システムに加えられた熱の80%を
超える部分は海洋が吸収していたことが示される。そのような昇温は
海水を膨張させ、海面水位の上昇に寄与している」
となっています。

 ここで注意しますが、「気温が上昇しても、海が熱を吸収してくれるから
良いのだ」などと、決して思ってはなりません。

 むしろ、「いちど海水温が上昇してしまったら、ちょっとやそっとのことでは
元に戻らないのだ」と思って、厳重な警戒をするべきなのです。

 海水温の上昇は、激しい豪雨を降らせ、台風を巨大化させます。いちど
海水温を上昇させてしまったら、おそらく数千年ていどの時間では、ぜんぜ
ん元に戻らないでしょう。


                * * * * *


 以上、エッセイ320から今回まで、IPCCの第4次報告書にある

 「気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気や
海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均
海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。」

 という文書について見てきました。

 ここに謳(うた)われて内容について、懐疑論者たちの疑問と、それに対
する回答をまとめると、以下のようになります。


 Q、地球の平均気温など、一体どうやって求めるのか?
 A、世界に7000ヶ所ほどある観測所の気温データ、および船舶による
海上の気温データから求めている。

 Q、海上の気温は測定されていないのではないか?
 A、1971年以降は、大部分の海域で測定されている。

 Q、ヒートアイランド効果を見ているだけではないのか?
 A、都市部のデータを除いても、地球の平均気温は上昇している。また、
都市部のデータを入れたとしても、地球の平均気温に対してヒートアイランド
の影響は無視できるほど小さい。
 さらには、海水温の上昇とそれにともなう熱膨張、山岳氷河や氷帽の
融解、海氷の融解、氷床の融解や氷の流れの加速などは、ヒートアイランド
では説明不可能。

 Q、人工衛星による観測では、対流圏下層の気温上昇が見られない。
 A、衛星の観測でも、対流圏下層の気温は上昇している。それは、すでに
複数の衛星で確認済みである。

 Q、南極の氷は解けていないではないか。
 A、氷河の流出速度の増大により、南極の氷も明らかに減少している。

 Q、ツバルの海面は上昇していない。
 A、ツバルの海面も上昇している。それは測定データによって示されている。

 Q、地球は、ほんとうに温暖化しているのか?
 A、地球が温暖化しているのは、いまや明白である。


                * * * * *


 このたび、私がこれだけしつこく、「本当に地球は温暖化しているのか?」
に固執したのには理由があります。
 それは、地球温暖化の研究者たちが、どれだけ真剣に一生懸命に取り
組んでいるのかを、皆さんに知ってもらいたかったのです。

 近年は、春の訪れが早くなり、猛暑の日も多くなっています。

 だから既に多くの人が、「地球が温暖化しているのは当たり前だ!」と感じ
ていることでしょう。

 しかし地球温暖化の研究者たちは、その「当たり前に感じられること」で
さえも、これだけたくさんの観測データ、つまり「動かぬ証拠」を一生懸命
に集めて結論を出している
のです。

 今後のエッセイでは、
 「大気中の二酸化炭素増加は、化石燃料の使用が原因なのか?」や、
 「地球が温暖化しているのは、人類のだす温室効果ガスが原因なのか?」
について、見て行きたいと思っています。

 そこで紹介する内容は、「地球温暖化の研究者たちが、出来るかぎり真剣
に一生懸命に取りくんだ結果、得られた結論なのだ」と言うことを、心に留め
ながら読んで頂けたらと思います。



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