気温上昇は本当か? 5
2008年4月27日 寺岡克哉
IPCCの第4次評価報告書では、
「気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気
や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界
平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。」
と、謳(うた)われています。
この文書のうち、エッセイ320から前回まで、「大気や海洋の世界平均
温度の上昇」について見てきました。
今回は、文書の後半部にある、「雪氷の広範囲にわたる融解」につい
て、見て行きたいと思います。
ところで、地球上に存在するおもな雪氷には、「山岳氷河」、「海氷」、
そして「氷床」が挙げられます。
これらが解けるということは、「温度」として測定している訳ではないけれ
ど、地球規模で温暖化している明らかな証拠となります。
山岳氷河、海氷、氷床の融解については、すでにエッセイ268〜217
で詳しくお話していますので、ここではザッと要点だけを挙げることにしま
しょう。
また、それに加えて、その後に得られた新しい情報についても、若干です
が紹介したいと思います。
* * * * *
山岳氷河
地球温暖化のビジュアル本などを見ると、山岳氷河の「昔の写真」と
「今の写真」を比べたものが、よく載っています。
一目それを見ただけでも、温暖化によって氷河が解けていることが分か
ります。
ところが・・・ 人によっては、「特別に解けている、いくつか少数の氷河
だけを取り上げて、写真を載せているのではないか?」という、疑惑が生じ
るかも知れません。
しかし、そんな心配は無用です!
なぜなら、世界各国が分担して、すごくたくさんの氷河を調査している
からです。
その調査結果は、「世界氷河台帳(World Glacier Inventory)」というのに
登録されていますが、その数はなんと64541で、地球上にある氷河
全体の40パーセントに相当します。
こんなにたくさんの氷河が登録され、定期的にモニターされているわけ
です。その結果として、氷河の融解がしっかりと確認されているのです。
IPCCの第4次報告によると、
「南北両半球において、山岳氷河と積雪面積は平均すると縮小して
いる。氷河と氷帽の広範囲にわたる減少は、海面水位上昇に寄与して
きた(氷帽にはグリーンランド及び南極氷床の寄与を含まない)」
とあります。
氷河と氷帽の融解による海面上昇への寄与は、
1961〜2003年の間では、1年あたり0.50±0.18mmの海面上昇。
1993〜2003年の間では、1年あたり0.77±0.22mmの海面上昇。
となっています。
近年になるほど、氷河や氷帽の融解が酷(ひど)くなっているのが分かり
ます。
ちなみに「氷帽」とは、山岳氷河と大陸氷河(氷床)の中間の大きさにあた
る氷河で、面積が5万平方キロ以下のものを言います。
ところで氷河が融解すると、その末端のところに水が溜まって「氷河湖」
というのが出来ます。
現在、その氷河湖が急速に拡大し、水があふれて決壊しそうになっ
ています。つまり氷河の下流域において、洪水の危険が増大しているの
です。
このように山岳氷河の融解は、その事実が明らかに確認されているだけ
でなく、もはや「社会問題」となっています。
* * * * *
海氷
海氷とは、北極海の氷、オホーツク海の流氷、南極の棚氷(たなごおり)
など、「海に浮いている氷」のことです。
つまり海氷は、海に浮いているので、それが解けても海面は上昇しま
せん。
しかし海氷が解けているという「そのこと自体」は、地球温暖化の明確な
証拠となります。
「海氷の融解」でも、とくに衝撃的だったのは、「ラーセン棚氷」の崩壊
でした。これは、南極大陸の北部の、「南極半島」にある棚氷です。
とくに2002年には、「ラーセンB棚氷」と呼ばれるものが大規模に崩壊
しました。それは、たった1ヶ月ていどの間に、鳥取県ほどの大きさもある
大氷原が、バキバキと粉々に砕けてしまったのでした。
また、ラーセン棚氷を含め、1974年以降に「南極半島周辺」で起こった
棚氷の崩壊を合計すると、1万3500平方キロの面積に達します。これは、
東京都の6.2倍の面積であり、ちょうど長野県と同じぐらいの面積になり
ます。
ちなみに「南極半島」は、南極大陸のなかでも暖かい所に位置しており、
地球温暖化の影響が、南極でいち早く現れる場所だとされています。
ところで一方、「北極の海氷」の融解もまた、とても深刻です。現在、
北極の海氷は、すごいスピードで消滅しているのです!
2007年4月に公表された、NASAのジェット推進研究所の報告によると、
夏でも解けないで残っている厚さ3メートル以上の氷の面積が、2005年の
冬から2006年の冬にかけて、14パーセント減少しました。
その消失面積は60万平方キロで、日本の面積のおよそ1.6倍に相当し
ます。
さらには、「海洋研究開発機構」の報告によると、
2007年の9月に、北極海の海氷面積が、観測史上で「最小」になり
ました!
その面積は、419.4万平方キロにまで縮小し、1978年から人工衛星
による観測をはじめて以来、最も小さくなったのです。
北極の海氷は、毎年9月ごろに、その面積が1年のうちで最小になりま
す。しかし1980年代までは、最小になったときでも、700万平方キロは
あったと言います。
だから、この20年ほどの間に、日本の面積の7倍以上もの海氷が消滅
したことになります。
この観測結果を受けて、ポーランド科学アカデミーと、米航空宇宙局
(NASA)の研究グループが、「北極海の氷の融解がこのままのペース
で進んだ場合、2013年には夏に氷が完全に消える」との予測を公表
しました。
「北極の海氷」が解けるスピードは、IPCCの予測より、30年以上も
早いペースで進行しているのです!
* * * * *
氷床
「氷床」とは、「大陸氷河」とも呼ばれており、陸地を覆う5万平方キロ以上
の、とても大きな氷河のことです。現在、そのような氷床は、「南極大陸」と
「グリーンランド」に存在しています。
南極大陸は、およそ1300万平方キロの面積があり、日本の34倍ぐらい
の広さです。その広大な土地の95パーセント以上が、「氷床」に覆われて
います。氷の平均の厚さは2450メートルです。
「南極氷床」の体積は、およそ3000万立方キロで、地球上に存在する
すべての氷のうち、およそ90パーセントが南極大陸にあると言われてい
ます。
一方、グリーンランドの面積は218万平方キロで、日本のおよそ6倍
です。そこに285万立方キロの氷が乗っており、平均すると氷の厚さは
1300メートルていどです。
グリーンランド氷床は、南極氷床にくらべると、10分の1ぐらいの氷の量
です。
以下、南極とグリーンランドそれぞれの氷床についての、現状を見てみま
しょう。
南極氷床
南極大陸はすごく寒いので、ちょっとやそっと地球が温暖化しても、氷が
解けることはありません。
しかし氷は解けなくても、「氷の流れる速さ」が、温暖化によって速くなり
ます。
たとえば近年になって、南極大陸の西側、アムンゼン海に流れる6つの
氷河の流れが、「加速している」という報告がなされました。
(2004年 サイエンス誌)
さらには、2002年の4月から2005年の8月のあいだに、年間で152
立方キロの「氷床」が減少したという報告もあります。
(2006年 サイエンス誌)
南極大陸では、「降雪」によって氷が作られ、「氷河の流出」によって氷が
失われます。
つまり大陸に降った雪は、解けることがないのでどんどん積もって行き、
それ自身の重さで固められて「氷」になります。
その氷は、1年あたり数十メートル〜数キロメートルの速さで、海に向かっ
て流れて行きます。(大陸の内部よりも、沿岸部の方が、氷の流れ方が速く
なっています。)
そして海にたどり着いた氷は、割れて「氷山」になり、最終的には海を漂流
しているうちに解けてしまいます。
なので、「降雪量」よりも「流出量」の方が大きくなれば、結局は、南極氷床
の氷が解けて減少するのと同じことになります。
最新の研究報告によると、2006年には南極周辺で推計1960億トンの
氷が海に流れだし、消失したとされています。
とくに南極半島とその周辺、および南極西部のアムンゼン海周辺におい
て、氷の消失が激しくなっています。
この研究には、欧州宇宙機関の2つの衛星に、日本とカナダの衛星を
加え、合計4つの人工衛星が使われました。
そして衛星に付けられた「レーザー干渉計」により、南極外周の85%を
網羅して、海に流れ出している「氷河の速さ」を測定したのです。
研究チームによると、「調査期間の全体を通じ、概して氷床は明らかに
質量を失っている。失った質量はここ10年で75%増加した」ことが分かっ
たそうです。
(2008年1月 ネイチャー・ジオサイエンス誌)
このように南極の氷床は、氷が直接に解けるのではなく、「氷の流れが
速くなる」ということに、温暖化の影響が現れています。
グリーンランド氷床
グリーンランド氷床においても、2004年以降から、氷の融解が加速の
一途をたどっています。
研究報告によると、グリーンランド氷床の融解は、過去5年間で3倍に
加速し、1年あたり240立方キロの氷が消失したと思われます。
(2006年 サイエンス誌)
しかも、グリーンランド氷床は融けやすいと考えられているので、事態
はすごく深刻です。
たとえば、たった2度の気温上昇でも、グリーンランド氷床の融解に
よって海面が2メートル上昇すると言われています。
(現在すでに0.76℃気温が上昇しているので、あと1.24℃の猶予しか
ありません。)
さらには、グリーンランド周辺の気温が3度ぐらい上昇すると、「氷床
の融解が止まらなくなる!」と考えられています。
その場合は、西暦3000年までに海面が3メートルていど上昇し、最終的
に5〜7メートルの海面上昇になると予測されています。
* * * * *
以上ここまで、「雪氷の融解」について見てきました。
その結果、
山岳氷河や氷帽の融解。
南極における棚氷の崩壊。
北極での海氷の融解。
南極における氷河の流速の増加と、氷床の減少。
そして、グリーンランド氷床の融解。
これらの事実すべてが、地球温暖化を明らかに証明していると言えます。
さて次回は、「世界平均海面水位の上昇」について、見てみたいと思い
ます。
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