気温上昇は本当か? 4
2008年4月20日 寺岡克哉
かつて、地球温暖化への懐疑論者たちは、
「人工衛星による観測では、気温が下がっているではないか!」
という主張をしていました。(しかし中には今でも、「衛星の観測では、気温
の上昇が見られない!」という主張も含めて、まだそんなことを言う人がいる
かも知れません。)
今回は、それについて見てみたいと思います。
* * * * *
この問題について懐疑論者たちは、まず第一に、人工衛星による観測
の「優位性」を雄弁に主張します。なぜなら人工衛星は、地球をグローバル
に、平均的に観測しているからです。
つまり「地上での気温測定」は、あちらこちらの場所で、別々の測定器
(温度計)でバラバラに測っています。なので、測定している場所のちがい
や、測定に使っている温度計のちがいなど、いろいろな誤差が含まれる
データを寄せ集めたものです。
(エッセイ320で話してますが、それでも地上平均気温の誤差は、せい
ぜい±0.1℃ぐらいです。)
しかし一方、「人工衛星による観測」は、地球全体を一目で(一つの測定
器で)見渡したデータになっています。
なので、地球の平均気温に関しては、人工衛星による観測の方が、ずっと
正確だというわけです。
そのように(とても正確な?)データが「地球の寒冷化」を示したのですか
ら、これには懐疑論者たちが飛びつき、一時期において彼らを勢いづかせ
ました。
その当時、アメリカの気象衛星「ノア」による観測では、対流圏下層の気温
が10年当たり−0.05℃(100年当たり−0.5℃)の寒冷化を示していた
のです。
そしてこれは、懐疑論者だけでなく、一般の国民(おそらく日本でなくアメ
リカ国民)にとっても、地球温暖化への「強力な反証」として受け止められた
のでした。
* * * * *
上の話を聞けば、いくら地上での測定によって気温上昇が確認されても、
それを根こそぎに覆(くつがえ)してしまうパワーが、人工衛星のデータには
あるように感じてしまいます。
しかし、はたして本当に、人工衛星による観測の方がそんなに優れている
のでしょうか?
それを考えるためには、まず、
「人工衛星は、どうやって気温を観測しているのか?」
について、すこし見てみなければなりません。
人工衛星に取り付けられている、気温を観測するための装置は、
「マイクロ波サウンディング装置」とか、「マイクロ波放射計」とか言われて
います。
これは、大気中の「酸素分子」が出している、「ある特定の電波」を測定
するものです。
酸素分子がだす電波の「強さ」は、おもに気温によって変化します。なの
で、その「電波の強さ」を測定すれば、「間接的に」気温が分かるわけ
です。
ここでまず、人工衛星による観測は、「気温を直接測定している訳
ではない」ことに注意してください。実際に測定しているのは、「酸素分子
がだす電波の強さ」なのです。
一方、地上での測定は、「温度計」によって直接気温を測っています。
また、測定する電波の種類(周波数)をすこし変えると、「ちがう高度
(標高)のデータ」を得ることもできます。
しかし、その「高度」は、厳密に決めることが出来ません。どうしても、
数千メートルの「幅」を持ってしまいます。
なので、衛星の種類によっても異なりますが、だいたい高度2000〜
8000メートルぐらいの範囲を、平均的に観測していると考えてよいで
しょう。
このため人工衛星による観測データは、地表の気温ではなく、「対流圏
下層の気温」と言われます。
一方、地上での測定は、原則的には地面から2メートルの高さの気温を
測っています。これも、人工衛星のデータと異なるところです。
さらに人工衛星は、地球上で起こる「火山の噴火」や「エルニーニョ」など
の影響も、全部まとめて観測してしまいます。
だから、長期間にわたる気温の変化を調べるためには、それら短期間の
一時的な現象による影響を、除いたり補正したりしなければなりません。
その「補正の仕方」にも、なかなか難しい問題があるようです。
* * * * *
上で話したように、人工衛星のデータは、気温を直接に測っている訳では
ありません。なので、さまざまな「補正」を加えて、「気温」に換算しなければ
なりません。
その中でも、いちばん問題があったのは、「衛星の高度の補正」
でした。
気象衛星ノアは、高度800kmぐらいの所を飛んでいますが、そのような
高いところでも僅(わず)かに大気が存在します。だから空気抵抗によって、
だんだんと衛星の高度が下がって来るのです。
とくに太陽の活動が盛んになると、その影響で上層の大気が乱され、空気
抵抗が急に大きくなります。つまり、衛星の高度が急に下がるわけです。
衛星の「軌道データ」によると、1981年と、1991年あたりに、20kmほど
の大きな軌道低下があったと確認されています。
ところで、成層圏や対流圏上部を観測するのならば、これぐらいの高度の
低下は、あまり問題になりません。
しかし、「対流圏下層の気温」を求めるときは、このような高度の低下が、
けっこう大きく影響するのです。
そして、そのような高度の低下を考慮して、気温を求めなおした(計算し
なおした)結果、10年当たり0.07℃の気温上昇が確認されたのです。
つまり当初は、10年当たり−0.05℃(100年当たり−0.5℃)の
気温低下だったのが、
衛星の高度の補正をすると、10年当たり+0.07℃(100年当たり
+0.7℃)の気温上昇になったわけです!
* * * * *
たしかに、西暦2000年ごろに得られていた衛星データの分析では、
対流圏下層における「明らかな気温上昇」は確認できなかったようです。
しかし現在(2005年以降)では、アメリカ海洋大気庁が運営している、
いま話した「気象衛星ノア」だけでなく、
アラバマ大学、
リモートセンシングシステム社、
ハードレーセンター
などの研究機関による複数の衛星データでも、対流圏下層におけ
る気温上昇が、明らかに確認されています。
だから、まだ現在でもなお、
「人工衛星の観測では、対流圏下層の気温が下がっている」とか、
「衛星による観測では、対流圏下層の気温上昇が見られない」
などと、もし主張するのであれば、それは「完全に間違っている」と
いうか、もはや「ウソ」です!
* * * * *
さて、IPCCの第4次評価報告書では、
「気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気
や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界
平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。」
と、謳(うた)われています。
この文書のうち、エッセイ320から今回まで、「大気や海洋の世界平均
温度の上昇」について見てきました。
その結果たしかに、
地上の気温も、
海上の気温(海洋表面の水温)も、
衛星観測による対流圏下層の気温も、
すべて「平均温度の上昇」を示していることが、分かって頂けたのでは
ないかと思います。
次回からは、文書の後半部である、
「雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇」について、
見て行きたいと思います。
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