気温上昇は本当か? 3
                              2008年4月13日 寺岡克哉


 前回でお話したように、地球の平均気温は、たくさんの観測データを使っ
て求められています。

 それら、非常に数多くのデータをさらに詳しく調べると、

 「地球の平均気温を求める上では、ヒートアイランドの効果は無視
できるほど小さい!」


 と言うことが分かります。

 今回は、そのことについてお話しましょう。


                * * * * *


 「ヒートアイランド」とは、
 道路のアスファルトや、コンクリートが日射を受けて熱くなったり、
 たくさんの建物のせいで風通しが悪くなり、熱がこもったり、
 冷暖房、自動車の使用、産業活動など、人間の生活によって出される
熱などが原因で、「都市部が暑くなる現象」のことです。

 そのような「ヒートアイランド効果」の大きさを調べるため、まず第一に、
 「周辺の観測点との気温差が年々増大している地点を除く」
という方法が取られています。

 つまり、観測点が非常にたくさんあるので、「周りの観測点にくらべて、
あまりにも異常に気温が上昇している地点」を、ピックアップすることが
出来るのです。

 そして、そのような「異常なデータ」を取り除いてから、地球の平均気温を
求めるわけです。



 ところで・・・ 地球温暖化の場合は、少なくとも1000kmぐらいの広い
範囲にわたって、「ほとんど同じような傾向」で気温が上昇します。

 そして前回に話しましたが、陸上には7000ヶ所ほどの観測点がありま
す。だから、地球の陸地の面積を149450000平方キロとすると、平均
的には21350平方キロの面積に1つの割合で、観測点があることになり
ます。
 その面積の平方根をとると、平均的には146kmに一つの割合で、観測
点があると考えてよいでしょう。

 なので、ある一つの観測点が、その周囲の観測点にくらべて「あまりにも
異常な値」になっていれば、それは地球温暖化のような「広い範囲の現象」
ではなく、ヒートアイランドなどの「局所的な現象」であることが分かるのです。



 しかし今の話は、その「異常な値になっている観測点」が、ほんとうに都市
部に存在しているのかどうか分かりません。つまり、本当にヒートアイランド
によって異常なデータになっているのか、分からないわけです。

 そこで、上の話とは別個に、

 人口分布のデータ。
 (都市部には、人口が集中している。)

 土地被覆(ひふく)のデータ。
 (土地が、アスファルトや建築物などで覆われているのか、草原や森林
などに覆われているのか、あるいは農地なのか、荒地なのかと言うような
データ。)

 人工衛星から見た、夜間の地上光のデータ。
 (夜になると、都市部の光を人工衛星で観測することが出来る。)

 などなどのデータをさらに使い、都市部をしっかりと判定して取り除いて
から、地球の平均気温を求める研究がされています。



 また、ヒートアイランド効果は、「風の弱い夜」に顕著に現れます。

 なので、「夜間の風速データ」を使うことにより、ヒートアイランド効果の大き
さを調べる研究もされています。

 つまり「風の強い夜」と、「風の弱い夜」の気温データをくらべれば、ヒート
アイランド効果の大きさが、あるていど分かるという訳です。



 以上のような、さまざまな研究により、

 ヒートアイランドの効果を除いても(都市部のデータを除いても)、
地球の平均気温が上昇していること。
 そして、ヒートアイランドの効果を入れたとしても、地球の平均気温を
求める上では、無視できるほど小さい
ことが、分かったのです。

 エッセイ319で話しましたが、IPCCの第4次報告によると、ヒートアイラン
ドによる効果は「陸上で10年当たり0.006℃未満」となっています。

 これは、最近の50年間における、地球の平均気温の上昇(10年当たり
0.13℃)とくらべると、すごく小さな値(4.6%未満)にすぎません。


              * * * * *


 ところでまた、ヒートアイランドとは少し話が違うのですが、

 工業や商業などの産業活動、電気の使用、自動車の使用、冷暖房
など、その他もろもろを合計した「人類のエネルギー消費によって出さ
れる熱そのもの」は、


 「温室効果ガスによって地球が温められる熱」に比べれば、すごく
小さい
ことが、つぎの考察によって分かります。



 まず、IPCCの第4次報告によると、

 「二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の増加による複合的な放射
強制力は+2.30[+2.07〜+2.53] W/mである」


 となっています。

 つまり、それらの温室効果ガスによって地球が温められる熱は、1平方
メートル当たり2.3ワットだと言っています。

 そして、地球全体の面積は510507000平方キロ。つまり、およそ
5.11×1014平方メートルなので、それを掛けると、

 2.3×5.11×1014 = 1.18×1015ワット

 となります。これが、「温室効果ガスによって地球が温められる熱」の
大きさです。



 一方、人類全体が1年間に消費するエネルギーは、400エクサジュール、
つまり400×1018ジュールだと言われています。

 このエネルギーが、最終的には熱になって、地球を温めるわけです。

 ところで1秒間当たりに、1ジュールのエネルギーを加えたり消費したり
することが、1ワットの意味です。
 つまり、1秒間に1ジュールのエネルギーを消費すれば、「1ワットのエネ
ルギー消費」です。
 また、1秒間に1ジュールの熱エネルギーを加えれば、「1ワットの加熱」に
なります。

 人類が1年間に消費するエネルギーは、400×1018ジュールなので、
それをワットに換算しなおすと、

 400×1018/(365×24×3600)=1.27×1013ワット

 になります。これがワットで表した、人類のエネルギー消費によって地球が
温められる熱の大きさです。



 先に計算したように、温室効果ガスによって地球が温められる熱は、
 1.18×1015 = 118×1013ワット。

 そして一方、人類のエネルギー消費によって出す熱は、
 1.27×1013ワット。

 両者をくらべると、118/1.27=92.9

 つまり、
 人類のエネルギー消費によって出す「熱そのもの」よりも、
 温室効果ガスによって地球が温められる熱の方が、およそ100倍
大きい
ことが分かります。

 たとえば東京などの大都市では、エアコンによる冷暖房や、産業活動など
によって出される熱が、すごく大きいように感じられます。
 実際、そのような熱も大きく影響して、東京の気温は高くなっているので
しょう。しかし地球全体から見ると、人類の活動による「熱そのもの」は、ごく
小さなものなのです。


                 * * * * *


 さて、地球温暖化への懐疑論者たちは、

 「地球の平均気温が上がっているように見えるのは、ヒートアイランド効果
がデータに含まれているからではないのか?」

 という異議を申し立てていました。つまり、

 観測点は都市部にもあり、ヒートアイランドによる「異常に高い気温の
データ」が含まれている。
 そんなデータを使って、地球の平均気温をもとめたら、一体どうなってしま
うか?
 そんなことをすれば、ほんとうは地球全体として気温が上昇していなくて
も、「地球温暖化が起こっている!」という結論にしかならないだろう。
 そんな方法では、ほんとうに地球が温暖化しているかどうか、その真偽は
分かったものではない!

という主張です。



 しかし今や、そのような懐疑的主張に対しては、

 都市部を除いたデータでも、気温が上昇している!
 (上で話したように、都市部を厳密に除いた分析によっても、気温の上昇
が確認されています。また、そのような研究結果からIPCCは、「ヒートアイ
ランドの効果は無視できるほど小さい」と評価したのです。)

 海上の気温も上昇している!
 (エッセイ320で話したように、1971年以降では、海上の気温もよく測定
されています。IPCCの第4次報告を見ると、海洋全体の気温は、データの
よく揃っている1971年以降でも明らかに上昇しています。)

 という「事実」によって、「反証」することができます。

 「反論」ではなく「反証」と私が言ったのは、論理によって反論しているだけ
でなく、実際に「確かな証拠が存在する」からです。

 だから現在でも、まだ頑固に、
 「気温の上昇は、ヒートアイランドの影響を見ているに過ぎない!」
などと主張する人が、もし居るとすれば、それはもはや「ナンセンス」だと
言わざるを得ません。

 というよりは、もしも確信犯的にそのような言論をくり返しているので
あれば、それは人々を混乱させ、温暖化対策を手遅れにさせる原因に
なります。もしそうだとしたら、それは「社会的な害悪」以外の何ものでも
ありません。


                 * * * * *


 ところで懐疑論者たちは、かつて、

 「人工衛星による観測では、気温が下がっているではないか!」

 という主張をしていました。(ひよっとしたら、今でもそのような主張をする
人がいるかも知れません。)



 人工衛星による観測は、地上での気温測定よりも、地球全体をグローバル
に平均的に観測しています。

 だから、地球の平均気温に関しては、人工衛星によるデータの方が正確
だというわけです。

 そのようなデータが「地球の寒冷化」を示したのですから、これには懐疑
論者たちが飛びつき、一時期において彼らを勢いづかせました。

 次回は、そのことについて見てみたと思います。



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