気温上昇は本当か? 2
2008年4月6日 寺岡克哉
地球温暖化は本当か? という懐疑に対しての、IPCCの回答は
気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気や海洋
の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面
水位の上昇が観測されていることから今や明白である。
と言うものでした。
ここで、まず第一に挙げられているのは、「大気や海洋の世界平均温度
の上昇」です。
しかしこれに対して、地球温暖化への懐疑論者たちは、
地球全体の平均気温など、一体どうやって測ると言うのか?
海上の気温も、ちゃんと測っているのか?
気温が下がっている地域もあるではないか!
ヒートアイランドの効果を見ていて、それを地球全体の気温が上がって
いると勘違いをしているのではないか?
などなどの、疑問を投げかけています。
たしかに、そのような疑問を持つのにも一理あります。というのは、30年
ぐらい前(1970年代)までは、「地球は寒冷化して氷河期に向かう!」と
一般的に言われていたからです。
それなのに、その見解が、突然ひっくり返ったのです。
だから、
「いきなり突然に、地球が温暖化しているとは何事か!」
「我々は今まで、科学者たちに騙されていたのか!」
「なぜ、寒冷化から温暖化に、急に見解が変わったのか?」
「そもそも地球全体の気温など、ほんとうに測定されているのか?」
などなどの疑念が、懐疑論者たちの心の底に渦巻いているのではないか
と思います。
そこで今回は、世界中の科学者や研究機関が、どのようにして地球の
平均気温を求めているのか、それについて見てみましょう。
* * * * *
一体どうやって、地球の平均気温を求めるのか?
そのためには、まず地球全体を、緯度が5°ずつ、経度も5°ずつの
「格子」(地域)に分けます。
つまり地球の緯度は、北緯90°から南緯90°まで180°あるので、5°
ずつだと36個に分けられます。
一方経度は、東経180°から西経180°まで360°あるので、5°ずつ
だと72個に分けられます。
なので「格子」(地域)は、全部で36×72=2592個あります。
そして次に、これら格子に分けられた地域において、それぞれ気温の測定
をつづけ、1年間の平均気温を求めます。
さらにその次に、それぞれの格子で求めた1年間の平均気温を、地球全体
(つまり全ての格子)で平均します。
そうすると、地球全体での、1年間の平均気温が求まるわけです。
* * * * *
ところで、いま話した「格子」は、赤道の近くでは面積が大きく、北極や南極
に近づくほど面積が小さくなります。
それは例えば、「スイカの縦じま」を考えてみてください。
スイカの真ん中では、縞と縞の間隔が大きくなっていますが、上や下に行く
ほど、縞と縞の間隔が小さくなります。
地球の場合も、それと同じようになっています。
つまり緯度が0°の赤道では、経度5°に相当する距離が、およそ560
kmです。
しかし北海道の北部の、北緯45°では、経度5°に相当する距離が
およそ390kmと短くなります。
一方、緯度5°に相当する距離は、どんな場所でもおよそ560kmです。
なので、
赤道付近における格子の面積は、560km×560km=およそ31万
平方キロ。
北緯45付近における格子の面積は、390km×560km=およそ22万
平方キロ。
このように、「緯度」によって格子の面積が変わってきます。
そのような、「格子の面積のちがい」も考えて、地球全体の平均気温を求め
ています。
* * * * *
さて、ここで、
「本当に、すべての格子(地域)において、気温が測定されているのか?」
「気温データのない格子も、存在するのではないか?」
「とくに海上では、ほとんど気温など測定されていないのではないか?」
という疑問が生じるかも知れません。それは、べつに懐疑論者でなくても
当然の疑問だと思います。
そこで次に、それについて見てみましょう。
まず、陸上の気温データですが、現在では世界に7000ヶ所ぐらいの
観測点が存在しています!
それほど多くの場所で観測し、たくさんのデータを集めて、平均気温を求め
ているのです。
しかしながら、もちろん地域によって、観測点の分布にバラツキがあります。
たとえば、アメリカやヨーロッパではたくさんの観測点がありますが、サハラ
砂漠やシベリア北部、アマゾンの奥地などでは観測点が少なくなっています。
しかし、そのような観測点の少ない地域であっても、数百kmに1つぐらい
は観測点があります。なので、「まったく観測点のない格子(地域)」というの
は、ほとんどありません。(上で話しましたように、おもな格子の一辺は、400
〜500kmぐらいありますので。)
また逆に、観測点の多い地域では、一つの格子のなかに複数の観測点
があります。その場合は、それらの観測点で平均した値を、その格子におけ
る気温とします。
つぎに「海上の気温」ですが、これは世界中を航行している、さまざまな
「船舶」によって測定されています。
近年では、船舶のエンジンの「取水口」近くに、温度計が付けられている
そうです。それによって、航行中にいろいろな海域の水温を、おそらく自動的
に測定しているのでしょう。
この方法で測っているのは、もちろん「気温」ではなく、海洋表面の「水温」
です。しかし海上では、「気温と水温が一致すること」が分かっているので、
水温を測れば、気温も分かるのです。
一方、ちゃんと海上の「気温」も、船舶によって測定されています。
しかし昼間は、日射によって船の甲板が熱くなり、一種のヒートアイランド
が起こります。そのため、夜のデータしか使い物になりません。
しかしながら、それら夜の気温と、水温を比べることにより、海上では気温
と水温がよく一致することが分かっているのです。
ここで、エンジンの「取水口」近くで水温を測っていることに、注意してくだ
さい。
エンジンの「排水口」ではありません!
なので水温を測るときに、「エンジンの熱」を気にする必要はありません。
そもそも常識的に考えても、エンジンの熱が影響するような場所に、温度計
を設置するわけがないでしょう。そしてまた上のように、夜の気温と、水温を
比べることにより、この方法の妥当性が確認されているのです。
とにかく以上のような方法によって、現在では、世界中を航行するたくさん
の船舶によって、海上の気温が測定されています。
だから、近年(1971〜2000年)のデータでは、海上の気温について
も、大部分の場所(格子)で測られています。
たしかに、昔(1881〜1910年)のデータでは、海上の気温がほとんど
測られていませんでした。
しかし現在は、それとは状況がまったく違うのです。
悪質な懐疑論者の中には、むかしの観測点のデータだけを見せて、
「海上の気温は、ほとんど測られていないではないか!」
と主張する人がいるかも知れないので、それには注意をしてください。
* * * * *
以上のように、地球の平均気温は、おそらく1万地点よりも多くの、「非常に
たくさんの観測点」によるデータから求められています。
その結果として、「地球の平均気温が上昇している」と判断されているの
です。
だから、いくつか少数の観測点だけを取りあげて、「気温の下がっている
場所もあるではないか!」と主張するのは、まったくナンセンスです。その
ような主張は、地球全体の平均気温を考える上では無意味なのです。
もしも、
「地球全体として温暖化していない!」とか、
「地球は寒冷化している!」
という主張をするのなら、常識的には少なくとも5000地点以上の、その
ような気温傾向をしめすデータを提示しなければならないでしょう。
懐疑論者による主張の、そのような所にも注意しなければなりません。
しかしまた、「すべての格子(地域)」について、気温が測定されている訳
ではないのも事実です。全体にくらべると面積として小さいですが、気温
データのない地域というのも、たしかに存在します。
しかも、「気温データの存在しない地域(格子)」は、昔になればなるほど
多くなります。
しかしそれでも、このような「気温データのない地域が存在すること」による
誤差は、せいぜい±0.1℃ぐらいと見積もられています。
だから、IPCC第4次報告による、
「過去100年間(1906〜2005年)で気温が0.74[0.56〜0.92]℃
上昇した」
という主張に対しては、十分な測定精度であると言えます。
つまり、十分に正確な測定によって、気温の上昇が確認されたわけ
です。
そしてさらには、気温データをもっと詳しく分析すると、
「地球の平均気温を求める上では、ヒートアイランドの効果が無視できる
ほど小さい」
と言うことも分かります。それについては、次回でお話したいと思います。
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