気温上昇は本当か? 1
2008年3月30日 寺岡克哉
前回は、IPCCの言うことが信用できるかどうかについて、ちょっと考え
てみました。
というのは、
「IPCCの言うことなど、まったくのデタラメだ!」
などという態度を取られては、話もなにも、あったものではないからです。
前回でお話しましたが、IPCCの評価は、その時点で、もっとも信頼
できる見解です!
もしも、IPCCの言うことを否定したいのであれば、
IPCCが出したのよりも、さらに信頼できる「実際のデータ」。つまり
IPCCが出したのよりも「さらに確かな証拠」を、提示しなければなり
ません。
科学の世界は、すべて「論より証拠」です。
「論」のみによって、「証拠」を覆(くつがえ)すことは、絶対にできません。
だから、サミットなどに出席する各国の代表者。つまり地球温暖化とまじ
めに向き合い、責任ある行動をしなければならない人々は、もはや「温暖化
懐疑論」などまったく相手にしないのです。
それは、陰謀でも何でもありません。
なぜなら「温暖化懐疑論」は、「論」だけで、「確かな証拠」がないからで
す。責任ある政策決定に、そんな怪(あや)しげなものを採用するわけには
行かないのです。
もしも温暖化懐疑論に、IPCCが出したのよりも「さらに確かな証拠」が
存在するのであれば、それを提示すれば良いのです。
そうすれば、各国の政策決定者たちは、とても喜んでそれを採用するで
しょう。
なにせ、温暖化対策に使わなければならない金を、経済発展に使うこと
が出来るのですから・・・
* * * * *
さて今回は、地球の平均気温が、本当に上昇しているのかどうかについ
て、考えて行きたいと思います。
しかし今となっては、もうほとんどの人が、「気温の上昇には疑問の余地
がない!」と思っていることでしょう。
ところが地球温暖化への懐疑論者たちは、そのことに疑問を持っていまし
たし、中には今でも疑問に思っている人がいるかも知れません。
そしてまた、地球温暖化を認める人たちにとっても、どのような観測データ
によって気温が上昇していると判断されたのか、その正確なところを、もう
一度しっかりと確認してみる価値はあるでしょう。
* * * * *
とにかく、まずIPCCの第4次報告を見てみましょう。そうすると、以下の
ように記述されています。
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(1)、気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気
や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界
平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。
(2)、最近12年(1995〜2006年)のうちの11年の世界の地上
気温は、測器による記録が存在する中(1850年以降)で最も温暖な
12年の中に入る。
(3)、過去100年間(1906〜2005)の長期変化傾向の最新値で
ある100年当たり0.74[0.56〜0.92]℃は、第3次評価報告書
で示された1901〜2000年の変化傾向である100年当たり0.6
[0.4〜0.8]℃よりも大きい。
(4)、最近50年間の線形の昇温傾向(10年当たり0.13[0.10〜
0.16]℃)は、過去100年の傾向のほぼ2倍である。
(5)、2001〜2005年の期間における、1850〜1899年の期間
からの合計の昇温量は、0.76[0.57〜0.95]℃である。
(6)、都市のヒートアイランド現象による効果は、実際にあるものの
局地的であり、これらの値に与える影響は無視できる(陸上で10年
当たり0.006℃未満、海上でゼロ)。
IPCC第4次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約
(気象庁訳)より抜粋。ただし原文には文章番号は無く、私が付けた。
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上の各文章について、すこし私なりの補足をしたいと思います。
(1)の文章は、「いまや地球温暖化は明白である!」と宣言して
います。
しかしこれにも、
「地球の平均気温なんか、どうやって分かるのか?」とか、
「海面は本当に上昇しているのか?」
などと言う疑問を発している人がいます。それらについては、後の機会に
お話したいと思います。
(2)の文章は、近年に集中している高い気温が、「偶然には起こり得な
い」ことを言っています。
1850年始めから2006年末までの157年間。
その中で、最も温暖な12の年。
つまり、157年間でトップ12の気温のうち、その11までもが、最近の
1995年始め〜2006年末までの12年間に集中しているということです。
まったくの偶然に、このようなことが起こる確率は、私の行った以下の計算
によると、およそ175兆分の1です。
(12C11)×{(157−12)C1}/(157C12) ≒5.72×10−15
1/(5.72×10−15) ≒1.75×1014
ただしnCrは、n個のものからr個を取ったときの、組合せの総数。
つまり(2)の文章は、気候の温暖化が起こっていなければ、このようなこと
が偶然には、まず絶対に起こり得ないという主張なのです。逆に言えば、
だから「気候の温暖化が起こっている」というわけです。
(3)の文章は、「近年になるに従って、気温の上がり方が激しくなっている」
と言っています。
(4)の文章も、(3)と同じことを言っています。
ここで「線形の昇温傾向」というのは、「定規をあてて”エイヤッ”と直線を
引いたら」という意味です。
毎年の気温データをグラフにすると、実際には上がったり下がったりしな
がら、全体として右肩上がりに上昇しています。
その、多少の上がり下がりを無視して、なるべく全体のデータに合うように
「エイヤッ」と直線を引いたのが、「線形の昇温傾向」なのです。
過去50年のデータについて、「エイヤッ」と直線を引いたら、10年当たり
0.13℃気温が上昇していたと言うわけです。
そして一方、(3)の文章には1906〜2005年の過去100年間で、
0.74℃気温が上昇したと書いてあります。これを10年当たりにすると、
0.074℃の気温上昇になります。
ちなみに、この(3)に書いてある「長期変化傾向」というのも、「エイヤッ」と
直線を引いたらという意味です。
つまり、過去100年のデータに合わせて直線を引くと、10年当たり
0.074℃の気温上昇だったのに、過去50年のデータに合わせて直線を
ひき直すと、10年当たり0.13℃も気温が上昇していたわけです。
そして、0.13/0.074=1.76なので、昇温の傾向が「ほぼ2倍」と
言っているのです。
(5)の文章は、産業革命の初期から現在までに、すでに0.76℃気温
が上昇したと言っています(最悪の見積もりでは0.95℃の上昇)。
ところで、温暖化の被害をなるべく軽く済ませるためには、2℃以下の
気温上昇に抑えるべきだと言われています。
それまでには、あと1.24℃の猶予(ゆうよ)しかありません(最悪の場合
は、1.05℃の猶予しかない)。そのようなことを、(5)の文章は言っている
のです。
だからもう、温暖化対策には、一刻の猶予もなくなっています!
たとえ気温上昇が2℃に抑えられたとしても、最終的には2〜3メート
ルの海面上昇は覚悟しなければなりません!
これは、コンピューターシミュレーションの話ではなく、縄文時代の温暖な
時期(縄文海進期)において、すでに経験済(つまり証明済み)のことなの
です。だからそれは、まず間違いないでしょう。
ひょっとしたら、今すぐに人類の出す二酸化炭素(などの温室効果ガス)
をゼロにしても、1メートルぐらいの海面上昇は避けられないのかも知れま
せん。(そのようなことも、本職の研究者たちは、明らかにしてほしいと思い
ます。)
とにかく、もう既に0.76℃気温が上昇しているのですから、その分の
温暖化による影響は覚悟しなければなりません。
(6)の文章は、「ヒートアイランド現象」についての回答です。
今まで何回も話してますが、「ヒートアイランド」とは、たくさんの建物や
アスファルトのせいで熱がこもったり、人間の生活によって出される熱で、
都市部が暑くなる現象のことです。
もしも、そのような効果が大きく働いていれば、二酸化炭素(などの温室
効果ガス)が原因でなくても、地球の平均気温は上昇するという訳です。
そのような疑問に対するIPCCの返答が、(6)の文章なのです。
つまり、
たとえば(4)の文章では、過去50年間において、10年当たり0.13℃の
割合で気温が上昇したと言っています。
それに対して、ヒートアイランドの影響は、(陸上で)10年当たり0.006℃
未満。つまり、最大でも0.006℃より小さいと言っているのです。
両者の大きさを比べてみると、
0.006/0.13=0.046
つまり、たとえば最近の50年における気温上昇のうち、ヒートアイランド
によるものは最大でも4.6%より小さく、地球の平均気温を考える上では
無視しても良いだろうということです。
人類の出す「熱そのもの」は、温室効果ガスによる温暖化にくらべれば、
ごく小さなものなのです。
* * * * *
とにかく以上から、まず第一にIPCCは、
「地球の平均気温を実際に測ってみた結果、じじつ気温が上昇して
いるので、温暖化が起こっているのは明白だ!」と言っています。
しかしそれに対して、地球温暖化への懐疑論者たちは、
「一体どうやって、地球の平均気温を測っているのか?」
という疑問を投げかけています。
そこで次回では、「地球の平均気温の求め方」について、お話したいと
思います。
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