IPCCは本当か? 2008年3月23日 寺岡克哉
近ごろは、暖冬や猛暑が多くなり、地球温暖化が「実感」として感じられる
ようになって来ました。
たとえば気象庁などでは、「猛暑日」という新しい定義が必要になった
ほどです。
だからもう、ほとんど大多数の人は、「地球が温暖化していることに疑問
の余地がない!」と思っていることでしょう。
しかし・・・
ほんの数年前までは、「本当に地球は温暖化しているのか?」という疑問
を持っていた人が、けっこう居たのです。
たとえば、前回でも話しましたが、
「ヒートアイランド」(たくさんの建物やアスファルトのせいで熱がこもったり、
人間の生活によって出される熱で、都市部が暑くなる現象)を見ているだけ
ではないのか?
気温の上昇していない地域もあるではないか!
海上の気温は、詳しく測定されていないではないか!
本当に、地球全体として温暖化しているのか?
というような疑問です。
たぶん、そのことを受けてIPCCの第4次報告では、
「気温や海水温の上昇、雪氷の融解の増加や海面上昇などから気候
の温暖化は明白」と、はっきり明言したのだと思います。
ところで、これから以後のエッセイでは、IPCCの出したデータや見解を、
けっこう多用します。なので今回は、ちょっとIPCCについての説明と、IPCC
に対して私が感じていることを、お話したいと思いました。
* * * * *
IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change)
つまり「気候変動に関する政府間パネル」とは、世界中から集まった、
たくさんの科学者や専門家によって組織された国際機関です。
その目的は、地球温暖化による気候変動にたいして、最新の科学的な
知見を評価することです。
このIPCCには、世界中から2000人を超える科学者が参加しています。
が、しかし、末端の現場で活躍している若手の研究者や、コンピューターや
観測装置などの技術者たちも含めると、IPCCに何らかの関係を持っている
人々は、おそらく1万人ではきかないでしょう。
日本が世界に誇るスーパーコンピューターの「地球シミュレータ」も、その
主要な目的の一つは、IPCC第4次報告に向けての研究でした。
このように、IPCCの地球温暖化にたいする評価は、文字どおり、人類の
科学力を結集させたものなのです。
* * * * *
ところが・・・
地球温暖化への懐疑論者たちの中には、「IPCCの言うことなど信用
できない!」という人がいます。
つまりIPCCの見解は、政治的な息のかかった、一部の科学者たちの偏っ
た見解にすぎないと言うわけです。
しかし、そんなことは絶対にありません!
そのような主張は、まったく間違っています。なぜなら、IPCCが行っている
地球温暖化の評価は、一部の人間の見解ではないからです。
つまり世界中から報告された、すごいたくさんの研究論文を集め、それ
らを比較検討しながら行われた評価だからです。
たとえば、IPCCの第二作業部会(気候変動による影響や、脆弱性などを
評価する部会)による報告書の、
「気候変動が自然及び人間環境に及ぼす、観測された影響に関する現在
の知見」
という項目(章)では、世界中から報告された、じつに2万9000件もの
データを比較検討しているのです!
だからIPCCの出した評価において、たとえば「科学データの捏造」
などと言うことは、まず不可能です!
たしかに、世の中には「科学データの捏造事件」というのが存在します。
しかしそれは、たった一人の教授が絶大な権力を振るうような、「閉じら
れた研究室」において生じる事件です。
そのような場合は、ほかの研究機関によって同じような実験が行われ
るまで(つまり「追試」がされるまで)、データが捏造されていることは発覚
しません。
しかしIPCCの場合は、そんなのとは状況がまったく違うのです。
なぜなら、複数の研究機関によって同じような観測や分析を行い、それら
の結果を比べながら評価を出しているからです。
つまり、既にいろいろな研究機関によって「追試済み」になっているデータ
を使っているのと、まったく同じだからです。
この理由から、IPCCの評価に「データの捏造」が入り込むのは、まず
不可能だと言えるのです。
* * * * *
しかしながらIPCCは、純粋な科学者だけの集まりではなく、各国の政府
関係者も参加しています。なので、政治的な圧力がまったくゼロと言うわけ
にはいきません。
つまり、データの捏造は不可能ですが、「データの解釈」をめぐっては、
多少の偏りがあるかも知れません。
とくに、二酸化炭素を大量に排出している、「大国の思惑」などが絡んで
くる可能性もあるでしょう。だからIPCCの見解は、どちらかと言えば、穏便
な方にシフトしていると見た方が良いと思います。
つまりIPCCの見解は、不必要なまでに危機感をあおり立てている訳では
ないのです。
そうではなく、「最低でも、これぐらいの影響は覚悟しなければならない!」
という控(ひか)えめな見積もりを、提示していると思った方が良いでしょう。
だからIPCCの評価よりも、現実の状況(実際の温暖化)の方が、さらに
悪化している場合もあると思います。そして、どちらかと言えば、その可能性
の方が高いのではないかと私は感じています。
そのように思える根拠として、「北極の氷の融解」があります。
たとえば、IPCCの第4次報告による評価では、「北極海の晩夏における
海氷は、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある」というもの
でした。
しかし実際は、昨年(2007年)の9月に北極の海氷が、観測史上で
「最小」になりました。その面積が419.4万平方キロメートルにまで縮小し、
1978年から人工衛星による観測をはじめて以来、最も小さくなったのです。
その観測結果を受けて、同年の12月、ポーランド科学アカデミーとアメリカ
航空宇宙局(NASA)の研究グループが、「北極海の氷の融解がこのまま
のペースで進んだ場合、2013年には夏に氷が完全に消える」との予測
を公表しました。
それまでの予測では、消滅の時期がいちばん早いもの(つまり、いちばん
過激な主張のもの)でも、米国立大気研究センターが予測した「2040年
ごろ」というのでした。(ちなみにIPCCの第4次報告では、この予測のことを
言っていたのかも知れません。)
このように、IPCCの評価よりも、実際の温暖化の方が悪化していると
いう事実が、現実に存在しているのです。
* * * * *
もちろん今の話は、IPCCの評価が穏便すぎたと言うよりも、海氷の融解
に関する「新しい観測データ」が報告されたのが、いちばん大きな要因で
しょう。
しかしとにかく、地球温暖化への懐疑論者たちは、「IPCCの言うことなん
か信用できない!」と主張すれば、
あたかも、
「IPCCの言うことは大げさである!」
「本当は、地球温暖化など大した問題ではない!」
という意味に当然なると、暗黙に決めてかかっているように私には感じ
られます。
たしかにIPCCの評価は、100パーセント完璧な訳ではありません。だか
ら間違うことも、あるかも知れません。しかし、もしIPCCの評価が間違った
としても、
「地球温暖化は、やはりウソなのだ!」
「温暖化なんか、大した問題ではない!」
と、無条件に決まるわけではありません。
もしかしたら、実際の温暖化の方が、さらに酷(ひど)いことになるかも
知れません。そのように、IPCCの評価が間違うかも知れないのです。
IPCCの評価よりも、実際の温暖化の方が、酷いことになる可能性もある
こと。
そして、どちらかと言えば、その可能性の方が大きいかも知れないこと。
そのことを、私たち一般人は、知っておかなければならないと思います。
* * * * *
しかし、そうは言っても、やはりIPCCの評価は、世界中で行われている
研究を総結集させたものです。
だからその時点において、いちばん信頼できる見解であることは、
やはり間違いありません!
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