自己愛の増幅循環       2002年9月15日 寺岡克哉


 完全ではなくても、「自己愛の実感」(エッセイ29参照)を、ある程度感じることが出
来るようになったら、その「実感」がなるべく長く続くように努めて下さい。なぜなら、そ
のことによって「自己愛」がさらに強化するからです。
 自己愛を持ち続けることにより、自己愛がさらに強められるのです。つまり、自分
を愛し続けていれば、自分がどんどん好きになって行くのです。

 自己愛は、自己愛を強化します。自己愛が自己愛を呼び起こし、強め合っ
て、自己愛がどんどん増大して行くのです。つまり、自己愛は「増幅循環」を
するのです。

 ところで、これは「自己否定」の場合についても、全く同様のことが言えます。自己
否定も「増幅循環」をするのです。
 自己否定に取り憑かれている人には、「自己否定の増幅循環」は直ぐに理解でき
ると思います。しかし「自己愛の増幅循環」は、心の底ではなかなか納得できないの
が正直なところではないでしょうか。
 そこで、「自己愛の増幅循環」を少しでも納得しやすくするために、「自己否定の増
幅循環」について少しお話したいと思います。そしてその後に、「自己愛の増幅循環」
との比較を行いたいと思います。

 「自己否定の増幅循環」とは、例えば、
 「自分はだめな人間だ・・・ だめな人間だ・・・ 」と、毎日のように思い続けている
と、本当に自分がだめな人間に感じて来る・・・ と、いうようなことです。
 「生きるのは辛いだけだ・・・ 辛いだけだ・・・ 」と、毎日のように思い続けていれ
ば、本当に生きるのが辛くなって行きます。
 同様に、
 「生きることに意味はない・・・ 意味はない・・・ 」
 「生きていても仕方がない・・・ 仕方がない・・・ 」
 「生きるのは無駄なことだ・・・ 無駄なことだ・・・ 」
 「生きるのは苦しい・・・ 苦しい・・・ 」
 「生きていたくない・・・ 生きていたくない・・・ 」
 「このまま生きているより、死んだ方がましだ・・・ 死んだ方がましだ・・・ 」
等々、これらのことを毎日のように思い続けていると、本当にそのように感じてしま
います。
 また、上記のような「言語による思考」だけでなく、「漠然とした恐れや不安」を毎日
のように感じていると、恐れや不安は増大します。「わけの分からない焦燥」を毎日
のように感じていると、焦燥は増大して行きます。自己嫌悪や、自分を憎む感情も、
同様です。
 このように「不快な心の感覚」も、毎日感じ続けることによって強化され、増大して
行くのです。

 上に挙げたこれらの行為は、自己否定を強化しているのです。
 毎日のように自分を否定していると、自己否定が自己否定を呼び起こし、自己否
定がどんどん強くなって行くのです。自己否定も増幅循環をするのです。そのこと
は、自己否定に取り憑かれている人には良く理解できるのではないかと思います。
 そしてこれは、「自己否定の努力」を行っているのと全く同じことです。自己
否定の努力をして、自己否定を強化しているのです。

 自己否定に取り憑かれている人は、何年も、人によっては何十年も、毎日のよう
に「自己否定の努力」を行っているのです。
 あなたは、いったい何年の間、自分自身を苦しめてきたのでしょうか?
 10年でしょうか・・・
 20年でしょうか・・・
 それだけの長い間、あなたは「自己否定の努力」を毎日一生懸命に行い、自己否
定を強化し続けて来たのです。

 自己愛の場合も全く同様です。自己愛を持とうと努めれば、自己愛はどんどん
強化されて行くのです。
 自己愛を増大させるためには、自己否定の努力と全く反対のことをやれば
良いのです。

 「私は価値のある人間だ! 価値のある人間だ! 」
 「生きることには意味がある! 意味がある! 」
 「生きることには価値がある! 価値がある! 」
 「生きることは楽しい! 楽しい! 」
 「生きることは素晴らしい! 素晴らしい! 」
 「生きていて幸せだ! 幸せだ! 」
等々、これらのことを毎日のように思い続けていると、本当にそのように感じてくる
のです。
 また、上に挙げたような「言語による思考」だけではなく、優しさ、安心、心の温か
さ、安らぎ、元気、やる気、勇気などの「好ましい心の状態」も、毎日のように反復し
て感じることによって強化されます。これも自己否定の場合と全く同様です。

 自己否定に取り憑かれている人には、ちょっと信じがたいかも知れません。だか
ら、そんなことを毎日思い続けるのは馬鹿らしく思い、抵抗を感じるかも知れませ
ん。
 しかしながら、「生きるのは苦しいと思い続けることにより、自分自身をさら
に苦しめることの方が馬鹿らしい行為だ!」
と、いうように考えてみて下さい。そ
うすると、「自己肯定の努力」に対する気恥ずかしさや馬鹿らしさが緩和されます。

 自己肯定は、少しずつ進歩します。
 毎日、毎日、ほんの少しずつ、自己愛は強く大きくなって行くのです。
 くり返しになりますが、自己否定に取り憑かれている人たちは、何年も、人によっ
ては何十年も、「自己否定の強化」を毎日のように続けて来た人たちです。
 今度は、それを徐々に覆して行こうというのです。だから「自己愛の強化」にも、
それぐらいの時間がかかっても仕方がないのです。また、それぐらいの時間が
かかって当然なのです。
 だから、すぐに「自己愛の実感」が得られないからと言って、「自分の努力が足り
ないからだ!」などとは、絶対に思わないで下さい。これは時間のかかる作業なの
です。焦らずに、ゆっくりと、ゆっくりと、やって行けば良いのです。

 「自己肯定の努力」とは楽しいものです。優しさ、安らぎ、やりがい、生き甲斐など
を感じる、好ましい心の状態です。決して、「辛くて嫌な努力」などではありません。
少なくとも、「自己否定の努力」を続けているよりは、絶対に楽な状態です。
 あなたは、今まで十分に自分を苦しめて来たのです。これから先の人生において、
自分が幸福になるのをためらう必要はありません。そして、他の誰にもそれを止め
る権利はありません。あなたが自己肯定をためらう理由など、全く存在しないので
す。

 あなたには、「自己肯定」をして幸福になる資格が十分にあるのです。



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