シギ・チドリへの影響 2007年11月11日 寺岡克哉
「シギ」や「チドリ」は、海の干潟で、ゴカイやカニなどを獲って食べる鳥
です。
だから、地球温暖化によって海面が上昇し、「干潟」が消滅してしまうと、
とても大きなダメージを受けます。
今回は、そのことについて見てみましょう。
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「シギ」とは、チドリ目・シギ科の鳥の総称です。
そして「チドリ」も、チドリ目・チドリ科の鳥の総称です。
だから、「シギ」とか「チドリ」とか言っても、実はその種類がたくさんいる
のです。
1997年の日本における調査では、国内のおよそ200ヶ所で調べられた
シギとチドリは、ハマシギ、チュウシャクシギ、シロチドリなど54種、およそ
計10万羽に達しています。
これらのシギとチドリは、生物学的には近い種で、「シギ・チドリ類」などと
呼ばれることもあります。
そして、この仲間の多くは、茶色、灰色、白、黒などの、目立ちにくい色を
しています。
しかしクチバシは、シギの方はツルのように長いのですが、チドリの方は
短くて、ふつうの鳥とあまり変わりません。
* * * * *
ところで、シギやチドリは、水に潜ることが出来ません。
そのため、海の干潟や浅瀬にやってきて、ゴカイ、カニ、貝、そして稀に
魚などを獲って食べます。このような場所でしか、餌を獲ることができない
のです。
(ゴカイとは、よく釣りの餌にする、ミミズに小さな足がたくさん生えたよう
な生き物です。)
そしてまた、シギやチドリは、とても長い距離を移動する「渡り鳥」
です。
この仲間の多くは、北半球の高緯度地方に繁殖地をもち、日本よりも
さらに南の地方で越冬します。
つまり日本は、渡りの「中継地」になっているわけです。
秋に、北方の繁殖地から日本にやってくるのを「秋の渡り」と言い、春に、
南方の越冬地から日本にやってくるのを「春の渡り」と言います。このよう
にシギやチドリは、1年に2回、日本にやってきて羽を休めます。
そして日本の干潟は、そのような長距離を飛行するための、「栄養補給
基地」となっています。
中継地の干潟に1週間滞在すると、体重が50%も増える者もいます。
長距離を飛ぶためのエネルギー源として、そんなにたくさんの脂肪を、
体に蓄えなければならないのです。
だからシギやチドリたちにとって、「日本の干潟」が存在するかどうか
は、繁殖や越冬が出来るかどうかの、まさに「死活問題」となるほど、
とても重要なことなのです。
* * * * *
ところが・・・
地球温暖化によって海面が上昇すると、日本の干潟が消滅して
しまいます!
たとえば、
30cmの海面上昇では、56.6%の干潟が消滅します。
65cmの海面上昇では、81.7%の干潟が消滅します。
そして1mの海面上昇では、なんと90.3%の干潟が、消滅してしまうの
です。
ところで「自然の海岸」ならば、海面が上昇すると、波打ちぎわが陸の奥
に進み(海進)、それまで陸地だったところが新しく干潟になります。だから、
海面が上昇しても「干潟の消滅」は起こりません。
しかし、現在の日本の海岸は、そのほとんどが「人工の岸壁」になって
います。つまり海岸が、コンクリートの壁と、波消しブロックで固められてい
ます。
だから、海面が上昇しても、波打ちぎわが内陸に進むことができず、干潟
が消滅していく一方になるのです。
このような「干潟の消滅」は、シギやチドリたちにとって、そうとう大きな
ダメージになることが予想されます。
前回のライチョウの場合よりも、さらに酷い結末になるのではないかと、
言われているぐらいです。
海面上昇への対策としては、「堤防を強化する」というのが、まず第一に
考えられることでしょう。
しかしその一方で、「自然の海岸」というのも、あるていど確保して行かな
ければならないと思います。
* * * * *
これまで数回にわたり、地球温暖化による「鳥への影響」について見て
きました。
エッセイ295でお話しましたように、一般的に「鳥」は、地球温暖化の
影響に対して、どちらかと言えば強い動物ではないかと考えられます。
しかしながら、
ペンギンやライチョウのように、寒冷な気候に適応している鳥。
またはマガンのように、環境の変化にとても敏感な鳥。
あるいはシギやチドリのように、「干潟」という特殊な場所に依存して
いる鳥。
このような鳥たちは、やはり、かなり深刻な影響を受けると言わざるを
えません。
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