南極のペンギン 2007年10月21日 寺岡克哉
地球温暖化による、深刻な影響を受けている鳥として、「南極のペンギン」
について見てみたいと思います。
ところで南極には、「コウテイペンギン」と「アデリーペンギン」という、
二種類のペンギンが住んでいます。
「コウテイペンギン」は、体長が100〜130cmで、体重は20〜45kgも
あります。このコウテイペンギンは、ペンギンの中で最も有名な種類でしょう。
一方、「アデリーペンギン」は、体長が60〜70cmで、体重が5kgほどしか
ありません。コウテイペンギンに比べたら、あまり知られていないペンギン
ではないでしょうか。
コウテイペンギンとアデリーペンギンは、体の大きさが違うだけでなく、
「繁殖の時期」も違っています。
つまり、コウテイペンギンは「冬」に卵を産むのですが、アデリーペンギンは
「夏」に卵を産むのです。
このように、南極にはタイプのちがう2種類のペンギンがいますが、その
両方とも、地球温暖化による深刻な影響を受けています。
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まず第一に、アデリーペンギンの場合は、「コロニーの絶滅」が起こっ
ています。
「コロニー」というのは、アデリーペンギンたちが集まって作る「集団」の
ことです。
アデリーペンギンの繁殖期である夏場には、たくさんの仲間が集まって
「コロニー」を作り、そこで卵を産み、それを暖めます。
このペンギンは、夏場に雪が消える「地面の上」で、しかも雪解け水の
たまらない所にしか、巣を作ることができません。
南極において、そのような場所は「永久凍土」になっています。そして
普通なら、地中が1年中凍結しているので、地盤が安定しています。
しかし近年は、地球温暖化によって永久凍土が融けだし、土砂が大量の
水をふくんで脆(もろ)くなり、亀裂が入り、崩壊が始まっています。
つまり、コロニーに適した(繁殖に適した)場所において、「地盤の崩壊」
が起こっているのです。
また、地球温暖化によって海水の温度が高くなると、水の蒸発が多くなり、
雪がたくさん降るようになります。
そうすると、積雪が多くなり、夏になっても「地面が現れなく」なってしまいま
す。そのため、昔はコロニーを作るのに適した所が雪に埋もれてしまい、
コロニーの絶滅を引き起こしていると考えられる場所もあります。
しかしながら、(たぶん地盤が安定していて)雪の比較的少ない場所にある
コロニーでも、ペンギンの数が減っています。
これは、地球温暖化によって、「海氷」(海の上に張った氷)が少なくなっ
て来たためと考えられています。
海氷は、アデリーペンギンにとって餌場へとつづく足場であり、また、休憩
場所にもなっています。だから海氷が無くなれば、餌場に行くことが出来なく
なるのです。
以上のような理由による「コロニーの絶滅」は、とくに温暖化の著しい
「南極半島」の周辺で起こっています。
これまでの50年間で、南極半島の「1年間の平均気温」は2.5℃上昇し、
「冬の平均気温」に限れば5℃も上昇しているのです。
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また、上でお話した「海氷」は、オキアミ(小エビのようなプランクトン)の
繁殖に適した場所になっています。
だから、海氷が消滅すると、オキアミも減少する恐れがあります。
そしてオキアミは、アデリーペンギンだけでなく、コウテイペンギンや、その
他アザラシやクジラなど、たくさんの動物の生命を支えています。
だから、「海氷の消滅」によって「オキアミが減少」すれば、南極の海
の生態系に「大打撃」を与えてしまう可能性も十分に考えられます。
* * * * *
ところで・・・
「コウテイペンギン」は、この50年間に、推定で70%も数が減って
いると言われています。
その原因は、完全な確信はないけれど、地球温暖化の影響によるもの
と考えられています。
たとえば、温暖化によって「海氷」が融け、氷に亀裂ができたり、穴が
あいたりしています。
そして、餌取りに出向いた親鳥たちが、そのような穴に落ちたり、氷に
挟まれて身動きができなくなったりしています。
どうしても脱出が不可能な場合、もちろん親鳥は死んでしまいますが、
親鳥がもどらなければ、ヒナも飢えて死んでしまうのです。
また、温暖化によって海氷が崩壊し、岸辺を離れた氷山の一部は、季節
や海流のぐあいによって、突然また陸にもどって衝突することがあります。
そのような、陸の地形を変えてしまうほどの巨大な氷塊に囲まれ、逃げ
遅れたペンギンたちが死んでしまうこともあります。
そしてまた、上でお話しましたが、海氷の消滅によってオキアミが減少
すると、コウテイペンギンの重要な栄養源も不足してしまいます。
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その他、コウテイペンギンとアデリーペンギンの両方に与える温暖化の
影響として、
海流の変化により、餌場が巣から遠くなること。
夏の気温上昇によって「雨」が降るようになり、ヒナが濡れてしまうこと。
(ペンギンのヒナは防水性の羽毛ではなく、雨に濡れると体温が奪われて
死んでしまいます。)
それまで南極に存在しかった「ウイルス性の病気」が、気温の上昇に
よって蔓延するようになること。
などが、考えられています。
ウイルスの例から分かるように、南極のペンギンたちは、「厳しい環境
によって逆に守られている」という側面もあるのです。
やはり、南極のような「寒冷な気候」に適応している生物であればある
ほど、地球温暖化の影響が深刻であると言えます。
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