クワガタへの影響 2007年9月23日 寺岡克哉
甲虫は、昆虫のなかで一番たくさんの種類があり、実にさまざまなものが
居ます。
しかし、そんな多種多様な甲虫のなかでも、クワガタ、カミキリ、オサムシ
などは愛好家が多く、分布の現状をつかんだり、分布の変化を追跡するの
に、比較的やりやすい種だと考えられています。
それで今回は、甲虫のなかでも特に人気のある「クワガタ」について、地球
温暖化の影響を見てみたいと思いました。
* * * * *
まず最初に挙げる「ヒラタクワガタ」は、中国、フィリピン、そしてインドネ
シアからインドまでも分布する、東洋における亜熱帯性の種です。
このクワガタは本来、日本の関東地方にはあまり居ない種なのですが、
近年では東京都内や、その周りの県で、かなりの個体数が採集されるよう
になっています。
ところでヒラタクワガタは、かなり気候が温暖にならなければ、大きな体
に育つことが出来ません。
だから以前は、このクワガタが関東地方で採れたとしても、小型のもの
ばかりでした。
しかし最近では、大型のヒラタクワガタも採集されるみたいです。
関東地方における、ヒラタクワガタのこのような現象は、地球温暖化
およびヒートアイランドの影響として、うまく説明できる事例の一つとなって
います。
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つぎに挙げる「ミヤマクワガタ」は、サハリン(樺太)から、鹿児島県の
屋久島まで、日本を縦断するように分布しています。だから私たちには、
とても馴染みの深いクワガタといえるでしょう。
このミヤマクワガタは、関東から西では、ノコギリクワガタやコクワガタより
も標高の高いところに住んでいます。
それでも30年ぐらい前では、神奈川県の標高300m〜400mていどの
低い山地においても、ミヤマクワガタをたくさん採集することが出来たそう
です。
ところが20年ほど前から、そのような標高の低い場所では、ミヤマクワ
ガタをほとんど見ることが出来なくなりました。
つまり、その場所に住んでいたミヤマクワガタが、絶滅してしまった
のです!
これは、
地球温暖化や、周辺の都市化などによって気温が上昇し、
それが原因で、早朝や夕方における「霧」が発生しなくなり、
その結果、森林内の気温が上昇して、乾燥化も進んだこと。
さらには、都市部からカラスが大量にやって来て、ミヤマクワガタをこと
ごとく食べてしまったこと。
などが、原因として考えられています。
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そしてさらには、クワガタの世界に起こっている異変として、「休眠でき
ないクワガタ」というのが現れています。
一般にクワガタの幼虫は、朽ちた木のなかに、サナギになるための部屋
(サナギ室)を作り、その部屋のなかでサナギになります。
この「サナギ室」は、幼虫の体のおよそ2倍の大きさがあり、楕円形をし
ていて、地面に対して水平に作られます。
しかも周りの壁は、しっかりと糞で塗り固められていて、なかなか立派な
作りになっています。
そのようなサナギ室のなかで、サナギになったクワガタは、8月の末ごろ
に羽化して成虫になります。
しかしサナギ室から出ることはなく、その中に留まって「休眠」という状態
に入り、その年の冬を越すのです。
そして翌年の5月ごろ、サナギ室から外に出て活動し、交尾や産卵をする
ようになります。
しかし15年ほど前から、甲府盆地のノコギリクワガタや、ミヤマクワ
ガタに異変が起こっているみたいです。
つまり、すでに季節が9月末になっているのに、「休眠」を取らずにサナギ
室から出てくる新成虫がいるのです。とくに、オスの出現が目立つようです。
これらオスのクワガタたちは、休眠をしないで早く発生してしまったため、
繁殖することが出来ずに冬を向かえ、そのまま死んでしまうと考えられます。
もしも、このような状態がずっと続いたら、それら甲府盆地のクワガタは
激減してしまうでしょう。
* * * * *
ここまで、地球温暖化のクワガタへの影響について見てきました。
以上をまとめますと、
ヒラタクワガタの分布拡大。
ミヤマクワガタの衰退。
休眠できないクワガタの出現。
などに、地球温暖化(およびヒートアイランド)の影響が現れていると考え
られます。
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