地球温暖化のトンボへの影響  
                           2007年9月16日 寺岡克哉


 ここでは、地球温暖化がトンボへ与える影響について、見て行きたいと
思います。

 トンボの世界でも、地球温暖化によって、南方系のトンボが北へ勢力
を拡大し、北方系のトンボが衰退するという動きが見られます。

 以下、そのような例をいくつか挙げてみましょう。


                * * * * *


 たとえば日本において、北方に分布を広げているトンボで有名なものに、
タイワンウチワヤンマがあります。

 タイワンウチワヤンマは、体長が75mmで、羽を広げた大きさが
100mmになる、けっこう大型のトンボです。腹は黒色で、黄色の縞(しま)
があります。
 ちなみに、このトンボは「ヤンマ」と名前がついていますが、実は「サナエ
トンボ」の仲間なのだそうです。

 タイワンウチワヤンマはもともと、中国(China)の南部や中部から、台湾を
経て、日本の南西部に分布している種でした。

 しかし現在、このトンボは、日本で分布をどんどん拡大しているのです。

 まず1970年代に、四国から瀬戸内海を越えて、淡路島、岡山県南端、
紀伊半島西端に渡りました。
 そして1990年代の初めには、大阪平野を越えて、琵琶湖まで到達しま
した。
 さらに2004年には、静岡県でもタイワンウチワヤンマの定着していること
が確認されたのです。


 また、それ以外のトンボでも、たとえば西南諸島に住むアオビタイトンボ、
ヒメキトンボ、ベニトンボ、コシアキトンボ、オオキイロトンボなどが、海を渡っ
て北へ分布を広げています。

 以上から、南方系のトンボは日本において、着実に勢力を北に広げている
と言えます。


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 ところで日本だけでなく、アメリカでも、いくつかの種においてトンボの北上
が確認されています。

 たとえば、スイセイヤンマは1930年代より以降、オハイオ州から、イン
ディアナ州やウィスコンシン州に進入しました。そして1990年代の後半に
は、ミシガン州にたどり着きました。

 アメリカオオアオイトトンボは、1937年から1987年までの50年間に、
オハイオ州から北に向かって勢力を広げていき、ウィスコンシン州まで到達
しています。

 バライロトンボは、1930年代ではフロリダ州だけに見られたトンボです
が、現在ではアメリカ南部の諸州でふつうに見られるようになりました。

 また、ハリオイケトンボ、ホシオトンボ、ミスジトンボは、1971年から
1985年の間に、キューバから海を越えてフロリダ州に侵入しました。


               * * * * *


 さらにはヨーロッパにおいても、ヨーロッパショウジョウトンボの北上が確認
されています。

 ヨーロッパショウジョウトンボは、もともと地中海の沿岸に住んでいた種で、
スペインや南フランスで普通に見られるトンボです。

 しかし20世紀の後半になると、このトンボは、ドイツにも定着して住みつく
ようになったのです。

 以下は、ドイツにおける調査の結果ですが、
 1976年では北緯49度30分
 1984年では北緯49度45分
 1996年では北緯50度25分
 の緯度まで、ヨーロッパショウジョウトンボの生息地が北上していました。

 上の結果から明らかなように、このトンボは、着々と北方に勢力を広げて
いることが分かります。

 ところでヨーロッパショウジョウトンボは、燃えるように鮮やかな赤色をして
いて、ほかのトンボと簡単に見分けることができます。また、このトンボは
主に、池などの見通しのよい場所でよく活動します。
 だから、調査のときに見落とされる心配が少なく、上の結果は信頼性の
高いものとされています。

 このようなヨーロッパショウジョウトンボの北上は、ドイツだけでなく、フラン
ス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ポーランドなど、中部ヨーロッパの
各地でも進んでいます。


 また、北上しているのはヨーロッパショウジョウトンボだけではありません。

 地中海性の12種類のトンボが、あるものはスペインやフランスにおいて
北に勢力を広げ、またあるものは、ドイツやポーランドをこえ、北欧まで生息
地を拡大させています。


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 ところで・・・

 南方系のトンボが勢力を広げる一方で、その反対に、北方系のトンボは
衰退しています。

 たとえば、ドイツのカイザースラウテルンという町に広く分布していた、ルリ
ボシヤンマや、ヤジリイトトンボなどの北方系のトンボたちは、すっかり姿を
消してしまいました。

 これは、都市開発などの自然破壊によって、環境が悪化したためではあり
ません。
 なぜなら、ヨーロッパショウジョウトンボなどの南方系のトンボが新たに
やって来て、その場所に定住しているからです。

 だからそれは地球温暖化によって、北方系のトンボが、その生息地の
南限において衰退している、一つの証拠だとされています。


                * * * * *


 以上、地球温暖化による、トンボへの影響について見てきました。

 これまでの話により、

 日本だけでなく世界的に、さらには、ただ1種類のトンボだけでなく複数
の種類において、明らかに地球温暖化の影響が現れているのが分かり
ます。

 また、少なくても30年ぐらい前から、すでにトンボたちは地球温暖化の
影響を受けていたことも分かります。



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