大雪山のウスバキチョウ 2007年9月9日 寺岡克哉
前回でお話した、ナガサキアゲハなどの南方系の蝶は、地球温暖化と
ともに、北方へと勢力を拡大します。
しかし、寒い気候に適応していて、しかも高山に取り残され、北方へ逃げ
ることのできない蝶は、地球温暖化によって絶滅の危機に直面しています。
今回は、そのような蝶の一例として、「ウスバキチョウ」についてお話した
いと思います。
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ウスバキチョウは、北海道の大雪山系の、標高1700m以上の高山だけ
に住む、原始的なアゲハチョウの仲間です。
羽を広げたときの大きさは、50mm〜60mmぐらいです。色は、黄色と
黒の網目模様ですが、下の羽には、いくつかの赤い斑点があります。
この蝶は、卵から成虫になるのに丸2年もかかります。
ウスバキチョウの卵は、6月の下旬から7月に産み付けられ、1年目は
そのまま卵の状態で冬を越します。
そして次の年、卵から孵(かえ)ると幼虫として活動し、2年目は蛹の状態
で冬を越すのです。
ウスバキチョウの幼虫は、ケシ科の高山植物である「コマクサ」の花や葉
を食べて成長します。
ウスバキチョウが食べるのは、この「コマクサ」だけなのです。ちなみに
コマクサは、身の丈が10cm〜20cmぐらいの草花で、「高山植物の女王」
と呼ばれている、とても人気の高い植物です。
ところでウスバキチョウは、国の特別天然記念物になっており、環境省
の準絶滅危惧種にも指定されています。なのでこの蝶は、個人が勝手に
捕獲することが禁止されています。
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このウスバキチョウは、今から1万8000年前の「氷河期」の時代には、
北日本の平地に住んでいたと考えられています。
その当時は、今よりも平均気温が6℃〜7℃も低く、北海道の北部では、
永久凍土の上に草原が広がっていました(ツンドラ)。そのような環境の中
で、ウスバキチョウは暮らしていたのです。
その後、氷河期が終わって気候が温暖になると、北海道のツンドラに生息
していたウスバキチョウは、地続きのサハリン(樺太)を経て、シベリア方面
へと退却していきました。
それと同時に、北海道に取り残されたチョウの群れは、大雪山の高地へ
と追い詰められて行ったのです。
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上でお話しましたが、現在ウスバキチョウは、大雪山系の標高1700m
以上のところに住んでいます。
しかし、2℃〜3℃の温暖化が起これば、標高2000m以下のところに
住むウスバキチョウは、絶滅しやすくなってしまうでしょう。
また、大雪山系でも、2200m級の高い山が集まっている場所(表大雪)
においてさえ、生息地が狭くなったり、生息地が分断されたりして、ウスバキ
チョウも決して安泰とは言えなくなるでしょう。
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またさらには、ウスバキチョウの他にも、北海道の高山蝶であるアサヒ
ヒョウモンや、ダイセツタカネヒカゲなども、同じく絶滅の危機に直面して
います。
やはり地球温暖化は、高山に住む生き物たちを、着実に絶滅へと追い
やっているのです。
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