アポイ岳の高山植物 2007年8月12日 寺岡克哉
地球温暖化によって、いち早く絶滅の危険にさらされるのは、高山に住む
動物や植物や昆虫たちです。
なぜなら高山の生物たちは、大むかしの「氷河期」からの生き残りであり、
暑さにとても弱いからです。
ところで高山の生物は、氷河期のときは低い土地で栄えていました。
しかし氷河期が終わり、気候が温暖になると、それらの生物は寒い気候
の北方へと逃げて行ったのです。
ところが、北方に逃げるのではなく、高い場所へと逃げた者たちがいま
した。それが高山の生物です。
たとえば地球の気温は、100メートル高度が上がるごとに、およそ0.65
度低くなります。つまり1000メートル登れば、6.5度の気温低下です。
だから高い山に逃げれば、北方に逃げたのと同じことになるのです。
ところが・・・
地球の温暖化がこれ以上すすむと、高山の生物たちは、山頂よりさらに
上には逃げることが出来ません。
つまり現在の気候であっても、絶滅するギリギリのところまで追い詰められ
ているのが、高山の生物たちだと言えます。
だから高山の生物は、地球温暖化が少しでも進むと、まっ先に絶滅して
しまうのです。
* * * * *
ところで・・・
私たちの住む日本でも、すでに「手遅れ」になっている場所が存在します。
それが、アポイ岳の高山植物たちです。
アポイ岳は、北海道の襟裳(えりも)岬の近くにある、標高810.6メートル
の低い山です。
もう30年以上も前のことですが、私も小学生のときに登ったことがあり、
遠足気分で手軽に登れる山です。
しかしながら、そんなに標高が低いのに、本州の山ならば2000メートル
以上でなければ見られない高山植物が、たくさん生えているのです。
その理由は、「気候」と「地質」にあるみたいです。
まずアポイ岳は、海の近くにあるため、その海からの霧によって日光が
当たらず、夏場でもあまり気温が上がりません。
またアポイ岳の土壌は、「カンラン岩」という岩石が砕けて出来たもので、
特殊な「化学成分」を持っています。
このカンラン岩には、重金属が多くふくまれ、さらにはマグネシウムにくら
べてカルシウムの量が少なくなっています。
そのような特殊な土壌のため、低地で生えている普通の植物では育ちに
くく、その進入を阻んでいるのです。
以上のような、「寒冷な気候」と「特殊な土壌」によって、アポイ岳の標高が
低いにもかかわらず、たくさんの高山植物が生えているのです。
ここには、ヒダカソウや、アポイ岳にしか生えない固有種のエゾコウゾリナ
などの高山植物が生えています。そのためアポイ岳は、国の天然記念物に
指定されています。
* * * * *
ところが・・・
そのようなアポイ岳の貴重な高山植物は、地球温暖化のために絶滅する
と言われており、すでに手遅れの状況になっています。
たとえば、40年前には高山植物が生えていた場所のほとんどが、すで
に10年前には、ゴヨウマツなどの低地に生える樹木へと変わって行った
そうです。
このままだと近い将来、高山植物の草原がほぼ完全に、ふつうの森林へ
と変わってしまいます。それはもう、ほぼ確実に避けられない状況になっ
てしまいました。
もちろん、アポイ岳の高山植物は、今すぐに絶滅するわけではありませ
ん。それらが完全に消滅するまでには、あと数十年の時間がかかるかも
知れません。
が、しかし、これはまさに「生態系」が激変している瞬間なのです!
人間の時間スケールから見たら、とてもゆっくりとしか感じませんが、
生態系の異変としては、とてつもなく急激なスピードで変化が起こっている
のです。
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