地球温暖化による健康被害 2
2007年7月22日 寺岡克哉
前回では、地球温暖化による健康被害として主に考えられる、
(1)洪水による健康被害
(2)干ばつによる健康被害
(3)気温上昇による健康被害
の3つのうち、(1)と(2)についてお話したのでした。
今回はその続きです。
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(3)気温上昇による健康被害
「高い気温」によって起こる健康被害を、さらに細かく分けると、
(a)熱ストレスによる、熱中症や睡眠障害。
(b)コレラ、サルモネラ、腸管出血性大腸菌(O157)などによる食中毒。
(c)マラリアや黄熱病などの感染症。
(d)光化学スモッグ。
などが考えられます。以下、それらについて、もうすこし詳しく見て行きま
しょう。
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(a)熱ストレス
地球温暖化によって気温が上昇すると、その「熱ストレス」により、
「熱中症」や「睡眠障害」などが起こります。
以前にも話しましたが、「熱中症」とは、脱水、疲労、痙攣、めまい、嘔吐、
失神などの症状がおこり、最悪の場合には死んでしまうこともある、たいへん
恐ろしいものです。
だから決して、侮ってはいけません!
事実、2003年のヨーロッパにおける「熱波の襲来」では、52000人以上
の死者が出たと言われているのです。
このような「熱中症」は、平均気温で25度、最高気温で30度ぐらいになる
と出はじめます。
そして平均気温が30度、最高気温が35度をこえると、熱中症の患者
が急激に増加するので、とくに「乳児」や「お年寄り」の方には注意が必要
です。
また、温暖化によって「熱帯夜」が長くつづくと、「睡眠障害」を起こす人
が多くなります。
たとえば地球温暖化にかかわる意識調査において、真夏に経験している
症状を聞いた項目では、「暑くて眠れないことがある」と答えた人がもっとも
多かったそうです。
このように地球温暖化が進むと、日中における熱中症だけでなく、熱帯夜
による不眠症が増加することも考えられるのです。
それで現在、この「熱ストレスによる健康被害」については、より詳しい
調査と研究、およびその対策が求められている所です。
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(b)食中毒
地球温暖化によって気温が上昇すると、コレラ、サルモネラ、腸炎ビブリオ、
腸管出血性大腸菌(O157)などの、「食中毒」にかかる危険が増加します。
とくに「生もの」をよく食べる日本では、食中毒が蔓延してしまうと、大きな
社会問題となるでしょう。
ところで・・・
大腸菌やコレラ菌は、30度〜37度の気温になると、栄養さえ十分にあれ
ば、たった1個の細菌が、一夜にして100000000個(1億個)にふえるそう
です。
そして一方、たとえば「O157大腸菌」の場合、わずか100個ぐらいの細菌
数で、十分に人に感染すると言われています。
しかも、1個の大腸菌が2個に分裂するのは、たった20分ぐらいの時間
です。
だから、たとえ1個の細菌でも食べ物に混じってしまうと、その後およそ
3時間ぐらいで、感染可能な100個にまで細菌が増えてしまうのです。
また別の研究報告では、気温が1度上昇するごとに、O157などの出血性
大腸菌にかかる危険が、4.6パーセントずつ増加するそうです。
以上のように、気温上昇による食中毒の増加には、厳重な注意が
必要です!
しかしながら、ほとんどの病原性細菌は高温に弱いため、60度以上の
温度で、30分以上加熱すれば、ほぼ完全に死滅します。
だから、やはり昔から言われているように、暑い夏には生ものを食べるの
を避け、加熱調理後すぐに食べるようにすれば、食中毒から身を守ること
ができるのです。
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(c)感染症
地球温暖化によって気温が上昇すると、マラリア、デング熱、黄熱病など
の、熱帯や亜熱帯で発生している「感染症」が、温帯地域にも広がってくる
のではないかと心配されています。
その中でもとくに「マラリア」は、世界で1年間に3億人〜5億人が
感染し、数100万人が死亡している、とても恐ろしい病気です!
日本でも第二次世界大戦前には、「マラリア」が散発的に発生したとされ
ており、決して無関係な話ではありません。
マラリアは、「マラリア原虫」という病原菌を、「ハマダラカ」という蚊が運ぶ
ことによって蔓延します。
そして、それら「マラリア原虫」と「ハマダラカ」の増殖できる気温は、つぎの
表のようになっています。
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高温による、蚊とマラリア原虫の増殖限界 40度
蚊の最適温度 25度〜27度
低温による、マラリア原虫の増殖限界 14度〜19度
低温による、蚊の増殖限界 8度〜10度
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この表を見るかぎり、今のところ、日本で「マラリア原虫」が冬を越せそう
なのは沖縄ぐらいです。
しかも地球温暖化が、生物や生態系にあたえる影響はいろいろと複雑
で、マラリアを拡大させる要素も、その反対に縮小させる要素もあるみた
いです。
だから地球温暖化が進めば、一義的にマラリアが拡大するという訳でも
なさそうです。
しかし、「マラリア原虫」を持った蚊が、飛行機などで侵入してきた場合、
空港の周辺でマラリアが流行する可能性もあります。
そしてこれは、たとえばアメリカで「西ナイル熱」が1999年に初めて発見
されて以来、その後大小の流行をくり返しているのを見れば、決して楽観
することは出来ないのです。
また日本では、気温が上昇すると、「日本脳炎」の発生する心配もあり
ます。
これも「蚊」が媒介する病気で、夏場に発生します。地球温暖化がすすむ
と、「日本脳炎ウイルス」を持った蚊に刺される時期と場所が、さらに拡大
するでしょう
以前までは、日本の小児のワクチン接種率が70パーセント近くにまで
達していて、日本脳炎の免疫を持っている人が多いため、流行の心配が
ありませんでした。
しかし2005年に、予防接種によって重い副作用のでるトラブルが発生
してから、接種率がひどく落ちこみました。
そして現在、日本脳炎の免疫をもつ0〜4歳の子供の割合が、20パー
セント以下にまで低くなっているそうです。
だから現在、「日本脳炎」の心配も、非常に大きくなっています!
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(d)光化学スモッグ
「光化学スモッグ」の原因となっている主な物質は、じつは地表付近で
作られる「オゾン」です。
ところで「大気上層のオゾン」は、太陽の紫外線から生物を守ってくれ
るので、「オゾンは良いものだ!」という印象が大きいかも知れません。
しかし「地表付近のオゾン」は、生物にとってすごく有害なのです。
その「オゾン」は、もちろん自動車の排気ガスなどが原因となって作られ
ますが、とくに「暑い夏場」において、オゾンの量が増加します。
つまり気温が上昇すると、オゾンが作られやすくなり、「光化学
スモッグ」が起こりやすくなるのです!
だから地球温暖化が進めば、光化学スモッグが多発するようになり、
心臓や呼吸器疾患などの健康被害が増えると予測されています。
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以上、前回から2回にわたり、「地球温暖化による健康被害」について
見てきました。
洪水、干ばつ、飢饉、熱中症、食中毒、感染症など、考えるだけでも恐ろ
しいことでいっぱいです。
そのような事態をできるかぎり回避するべく、温暖化対策を急がなけれ
ばならないと、さらに気持ちが新たにされる思いがします。
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