農業への影響 2007年6月25日 寺岡克哉
地球が温暖化すると、気温、雨の量、日光の量、風の強さなどの、「気象」
が大きく変化します。
そしてまた、海水温や海流など、「海の環境」も大きく変化します。
だから、農業、林業、水産業などの一次産業に、多大な影響を及ぼすこと
は間違いありません。
今回は、それら日本における一次産業のうち、「農業へ与える影響」に
ついて、見て行きたいと思います。
* * * * *
(1)イネの影響
イネは、日本の穀物生産の90パーセント以上を占めています。
だから日本の農業にとって、「イネへの影響」がもっとも心配されます。
この先、日本のイネ栽培は、どうなるのでしょう?
とりあえず私の手持ちの資料に、
1.大気中の二酸化炭素が、毎年1パーセントの割合で増加する。
2.日本全国すべての水田で、コシヒカリを栽培する。
と仮定したときの、「50年後」における収穫の予測があります。
それによると、東北や北海道では20パーセント以上の「増収」になるけれ
ど、東北南部から南の九州までは、最大で10パーセントていどの「減収」に
なるという結果です。
その原因は、
まず第一に、気温の上昇によって生育の速度が速くなり、
それにより、穂をつけるまでの日数が短くなり、
そのため、イネの生涯として受ける日光の量(光エネルギーの量)が減り、
結果として、米に「栄養として蓄えるためのエネルギー」が減ってしまうから
みたいです。
イネの栽培は、暖かければ暖かいほど、良いわけではないのですね。
しかしながら、「田植え」の時期を最適に変えることができれば、東北南部
から九州にかけての多くの地域で、5〜20パーセントの増収が見込める
みたいです。
ところが、ほかに考えられる温暖化の影響として、気温の上昇による「害虫」
や「雑草」の影響や、高温になると米が稔らなくなる現象(高温不稔)というの
もあります。
たとえば「害虫」では、「ニカメイガ」という蛾の1年間における世代交代数
が、2060年代までに全国を通じて、ほぼ1世代分増加するという予測があり
ます。
害虫の世代交代数が増えれば、それだけ作物に与える被害は大きくなる
でしょう。
また逆に、二酸化炭素の濃度が増えれば、光合成が活発になって米を
「増収」させる効果(施肥効果)があります。
しかし二酸化炭素が増えれば、「いもち病」や「紋枯病」などの病気にかかり
やすくなるという研究結果もあります。
このように、イネ栽培における地球温暖化の影響は、とても複雑です。なの
で、それらを含めた影響の総合評価が、今後の重要な課題になっています。
* * * * *
(2)ダイズ、コムギ、トウモロコシの影響
これらは、イネにくらべて国内の生産がとても少なく、その多くを外国から
の輸入に頼っています。
そのため、日本ではあまり研究が進んでいませんが、しかし若干の研究
結果も出ているようです。
「ダイズ」については、二酸化炭素が増えることによる成長の促進(施肥
効果)で、その成長速度が30パーセント速くなるとしたときの予測結果が
あります。
それによると、タネを蒔いてから開花するまでの日数は、北陸で6日、
関東で7日、中部で7日短くなるそうです。
ダイズの場合、地球温暖化による気温の上昇は、「減収」の要因として
働きます。
しかし二酸化炭素の増加は、その逆に「増収」の要因として働くみたい
です。
そして全体の効果としては、どの地域でも収穫量が変化しないか、若干の
「増収」という予測結果になっています。
「コムギ」は、東北の盛岡と、九州の福岡について評価した研究があり
ます。
それによると、二酸化炭素の濃度が2倍になるまでは「増収」するけれど、
それ以上に温暖化が進むと、「やや減収する」と見積もられています。
その原因は、気温の上昇と、降水量の変化によるとされています。
「トウモロコシ」については、北海道の帯広では「かなりの増収」が見込まれ
ています。
しかし松本や都城では、気温の上昇による影響で、「減収する」と予測され
ています。
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(3)リンゴ、ミカンの影響
リンゴやミカンなどの「果樹」は、じつは気候にたいする適応が狭いそう
です。
そのため、「北のリンゴ」、「南のミカン」というように、栽培される地域が
明確に分かれています。
そしてこのことは、リンゴやミカンが、地球温暖化による気候の変動に、
とても大きく影響されることを意味します。
また、1年生の作物(春にタネを蒔いて、秋に収穫できる作物)は、タネまき
の時期を調節することにより、あるていど温暖化に対抗できます。
しかし、リンゴやミカンなどの「永年作物」は、そのような調節ができません。
これも、リンゴやミカンが、地球温暖化の影響をつよく受ける理由の一つに
なっています。
「リンゴ」については現在、東北の各県および長野県で、日本全体の90
パーセント以上を生産をしています。
それらリンゴの栽培地域は、1年間の平均気温が8〜13度の場所と、よく
一致しています。
この特性を利用すれば、温暖化によって気温が上昇したときの、リンゴの
適作地を推定することが出来るわけです。
ある予測によると、2030年には、リンゴの主産地が北海道に広がります。
しかしながら、東北中南部の平野部では、気温が高くなりすぎてリンゴの栽培
に適さなくなります。
そして2060年には、現在とおなじ品種で、おなじ栽培方法を続けた場合、
リンゴの適作地は北海道が中心になると予測されています。
「ウンシュウミカン」は、1年間の平均気温が15〜17度の場所が、適作地
となっています。
そして現在は、関東、東海、近畿の各沿岸部、瀬戸内、四国、九州などが
適作地です。
上のリンゴとおなじ予測方法によれば、2030年には、日本海側では北陸
の沿岸部、太平洋側では東北の南部まで適作地が北上します。
そして2060年には、適作地が東北中部の沿岸部まで北上します。
しかしその一方で、現在のウンシュウミカンの適作地は、1年間の平均
気温が18度を超えてしまうと予測されます。
そのため、今のままの品種や栽培方法では、生産が難しくなります。
* * * * *
以上、日本の農業における地球温暖化の影響について、ザッと大まかに
見てみました。
取り上げた農作物の例が少なく、他のいろいろな作物がどんな影響を受け
るのか、とても気になる所です。
さらには日本だけでなく、もしも地球温暖化によって「世界的な水不足」が
起これば、世界の農業生産も減少することになるでしょう。
もしそうなったら、発展途上国などでは食料が不足し、「飢饉」が起こるかも
知れません。
そして日本も、食糧自給率がたったの40パーセントしかないのです!
この先、世界的に食料が不足してくれば、今まで通りには日本に食料を売っ
てくれなくなる(輸入できなくなる)かも知れません。
私は、「日本の食料自給率」をもっと上げなければ(最低でも60パー
セント以上、できれば80パーセントぐらい)、とても心配でなりません!
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