水資源への影響        2007年6月10日 寺岡克哉


 地球が温暖化すると、激しい大雨が多くなる一方、日照りの日も多くなって、
「水不足」になることが予想されます。

 また、温暖化によって「雪」や「氷河」が消滅すると、それによっても水不足の
問題が起こります。なぜなら雪や氷河は、水をたくわえる「自然の白いダム」と
なっているからです。

 また、温暖化によって貯水池の水温が上がると、いろいろな細菌やプランク
トンが大量に発生し、水質が悪化することも心配されています。

 これらの色々な理由により、地球が温暖化すると、「水不足」になることが
大いに考えられるのです。

 今回は、そのような水資源の問題について、見てみたいと思います。


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 地球温暖化による水資源への影響を、ザッと調べてみたら、つぎのような項目
に分けられると思いました。

 (1)雪の減少
 (2)短時間の豪雨(熱帯型の雨)
 (3)蒸発量の増加(乾燥化)
 (4)成層化
 (5)富栄養化
 (6)新たな病原菌の繁殖
 (7)海水の浸入による地下水の汚染

 このうち、(1)から(3)は「水量」に関係することで、(4)から(7)は「水質」に
関係することです。

 それでは、それぞれの項目について、もうすこし詳しく見てみましょう。


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(1)雪の減少

 高緯度地方、つまり北国において、「雪の減少」が深刻な問題になることは、
かなり以前から言われていました。

 積もった雪は「白いダム」といわれ、その貯水効果がとても大きいのです。

 とくに、山が海までせまっている、日本のような急峻な地形では、雪の減少に
よる水不足がとても深刻です。
 というのは、冬に雪が降らず、雨になってしまったら、その水がすぐ海に流れ
てしまい、春まで水を蓄えておくことが出来ないからです。
 たとえば東北地方では、春に雨が少ないために、「雪解け水」が重要な水
資源になっている
のです。

 また世界的に見ても、今まで雪の降っていた高緯度の地域では、ただでも
年間の降水量がすくない上に、さらに地球温暖化で「水の蒸発量」が増えるの
で、水資源の減少がとても心配されています。

 とくに「ヒマラヤの雪の減少」が問題になっており、それを水源とする川の
下流の、モンスーン気候の地域において、「乾季」のときの水不足が心配され
ています。

 ところが・・・ 温暖化による「積雪の減少量」は、今のところ明らかになって
いません。しかもとくに、山岳域についてのそれが、良く分かっていないのです。

 今後の、さらなる詳しい調査と研究が望まれています。


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(2)短時間の豪雨

 地球が温暖化すると、「熱帯型の雨」が多くなります。
 つまり、全体の雨の量は変わらないけれど、雨が降るときは、短い時間にいっ
きにドッと降るのです。

 そうすると、「川の水量」が一定に保たれなくなってしまいます。
 つまり雨が降ったときだけ、川がいっきに増水し、あとは水量の少ない状態が
つづくのです。

 その結果、発展途上国などの「ダム」の整備されていない地域では、水不足
になる危険があります。

 一方、日本では「ダム」や「貯水池」がよく整備されているので、あまり深刻な
問題ではないように考えられています。
 しかし、雨がいっきにドッと降るようになると、洪水を防ぐためのダムの操作
(貯水や放水のタイミング)が、今よりさらに難しくなるのは明らかです。
 そしてまた、環境意識の高まりから、「新たなダム」を作るのも難しくなってい
ます。だから、水資源を確保するために、新たな工夫の必要性にせまられて
いることは事実です。

 また、雨の総量が変わらないのに、雨が降るときだけ一気に降るようになれ
ば、「地下に滲みこむ水の量」が減ります。そのため、地下水の減少も心配
されています。


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(3)蒸発量の増加

 温暖化によって気温が上がれば、とうぜん「水の蒸発量」が増えます。

 つまり「乾燥化」が進むわけです。

 それはとくに、高緯度や中緯度の地域で、顕著になると予測されています。

 日本の場合では、雨がいっきに降る「熱帯型の雨」に加えて、その上さらに
水の蒸発量が増えれば、雨が降らないときの川の水が、なおさら減ってしまう
でしょう。
 近年の日本において、「渇水」がよく起こるようになったのも、地球温暖
化がその原因のひとつと考えられています。


 さらに「乾燥化」は、われわれ人間だけでなく、「生態系」にも大きな影響を
及ぼします。
 とくに半乾燥地域や、モンスーン気候のために「乾季」のある地域では、水が
少なくなることによる、いろいろな生物への影響が心配されています。


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 ここから以下は、水量ではなく「水質」に関係することです。


(4)成層化

 温暖化が進むと、貯水池の水面が温められ、池の底にある水と混ざらなく
なります。
 つまり、貯水池の表面に「温かくて軽い水の層」ができ、一方、底の方には
「冷たくて重い水の層」ができるわけです。それが「成層化」です。

 ところで・・・ 水中の「酸素」は、空気とふれあう「水面」から供給されてい
ます。

 つまり空気中の酸素が、まず表面の水に溶けこみ、それが底の水と混ざる
ことによって、すべての水に酸素が行き渡るわけです。
 たとえば、金魚を飼っている水槽が「酸欠」になると、水面で口をパクパク
やりますよね。それは、空気と触れている表面の水に、酸素が多く含まれて
いるからです。

 ところが「成層化」によって、表面の水と、底の水が混ざらなくなれば、池の底
が「酸欠状態」になります。

 そのような酸欠状態が長くつづくと、池の底の方で、「硫化水素」などの毒性
の物質が発生します。そのため、水質が悪化するのです。


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(5)富栄養化

 貯水池のもっとも大きな問題は、この「富栄養化」です!

 富栄養化が起こると、藻類などが異常発生し、水質が悪化します。

 この富栄養化は、窒素やリンなどの「栄養塩」の大量流出が、おもな原因で
す。しかしそれには、温暖化による「水温の上昇」も関係しているのです。

 つまり、おなじ栄養の量でも、気温や水温が低くて、藻類などの異常発生が
抑えられていたとします。
 しかしそのような地域でも、温暖化によって水温が上がれば、藻類の異常
発生が起こるようになるわけです。

 だから、今まで水温が低くて問題の起こらなかった地域でも、これから
は問題が起こるようになる可能性があります。



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(6)新たな病原菌の繁殖

 気温や水温が上昇すると、今まで存在しなかった病原菌が、水源地に
繁殖する可能性があります。


 近年は温暖化により、О−157の感染できる期間(つまり食中毒の起こる
暑い期間)の長くなることが心配されています。

 が、それと同じように、貯水池でも「クリプト」という、それまで問題になって
いなかった有害微生物が、問題にされるようになってきました。

 そうなると、今まで通りの水質検査では、たちうちが出来なくなります。

 そのため、今までの検査では検知できなかった有害微生物にたいして、
新たな検査と対策が必要になってきました。


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(7)海水の浸入による地下水の汚染

 地球温暖化によって海面が上昇すると、「海水」が陸の方に浸透していきま
す。そして海水が、沿岸部の「地下水」と混ざってしまいます。

 そのため、地下水の水質が悪化するのです。(海面の上昇は、水資源にも
影響するのですね。)

 とくに沿岸部の「大都市」では、ただでも地下水のくみ上げすぎによって、
水資源が不足しがちになっています。

 その上さらに、海水が混じって水質が悪化すれば、地下水資源の問題が
もっと深刻になって行くでしょう。


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 以上、地球温暖化による、水資源への影響について見てきました。

 本当に、いろいろな問題が予想されています!

 しかし日本においては、「ダム」や「貯水池」が充実しており、また衛生管理
もよく行われているので、まだ比較的安心だと思います。

 ところが・・・
 「2025年までに、インドの1人当たりの水使用可能量が半分になる」とか、
 「2050年ごろには、アジアで10億人以上の人々が、水不足にさらされる」
という予測もあります。

 だから世界において、「地球温暖化による水資源への影響」は、とても
深刻な問題なのです!




               
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