大雨と台風        2007年6月3日 寺岡克哉


 ここのところ、すこし本題から離れてしまいましたが、ふたたび地球温暖化の
「影響・リスク評価」
の話にもどりたいと思います。


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 ところで・・・ 地球が温暖化すると、海水の温度が上昇します。

 そうすると「海水の蒸発」が活発になり、その結果として、激しい大雨が降っ
たり、台風の強さが増したりします。

 今回は、そのような「大雨」や「台風」の動向を、とくに日本の場合について
見ていきたいと思います。


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(1)日本における「大雨」の動向

 気象庁では、1898年から現在まで、なんと100年以上にわたって降水量の
観測をつづけています。

 それによると、日本における「1年間の降水量」は、若干の減少傾向が見ら
れるものの、有意な変化は現れていません。
 つまり1年間の雨の量は、ここ100年のあいだ、増えてもいないし、減っても
いないのです。

 しかしながら、1日に100ミリや200ミリ以上の降水量になる「大雨」は、ここ
100年のあいだ、長期的に増加の傾向が見られます。
 そしてそれは、とくに1980年代以降から、そのような「大雨」の増加が顕著に
なっています。

 つまり、1年間の降水量がほとんど変わっていないのだから、昔にくらべて
近年は、雨が降るときはドッと降り、そして雨の降らない日が多くなるというよう
に、気候が極端になっているのです。

 そして特に「大雨」の中でも、1日に200ミリ以上の「激しい大雨」の出現数
は、100年前にくらべて現在はおよそ2倍に増加しています。

 また季節別に見ても、冬を除いた各季節で、大雨の増加傾向がみられます。
 とくに最近20年ぐらいは、8月から9月にかけて、過去100年には見られ
なかった「大雨の頻度の増加」が現れています!


 このような「大雨の増加」は、地球温暖化の影響ではないかと考えられていま
す。が、しかし、その影響の程度は、まだ今のところ未解明です。

 今後の、さらなる観測と研究が待たれます。


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(2)日本における「台風」の動向

 コンピューターのシミュレーションによると、地球が温暖化すれば、
 (a)1年間に発生する「台風の数」は減る。
 (b)「台風の強さ」は増大する。
と、予測されています。

 地球が温暖化すると「台風の発生が少なくなる」のは、赤道ちかくの低緯度で
は、地上よりも上空の温暖化が著しくて、大気が安定するからだと考えられてい
ます。
 つまり、たとえば上空に冷たい空気があると、大気が不安定になって嵐が起こ
りやすくなりますが、その反対に上空の空気が温かいと、大気は安定して嵐が
起こりにくくなるのです。

 一方、温暖化によって「台風の強さが増大する」のは、海水の蒸発が活発にな
り、大気中の水蒸気が多くなって、台風を巨大に成長させる条件がそろっている
からです。
 というのは、台風の中で、水蒸気が凝縮して「雲(水の粒)」になるときに、熱エネ
ルギーが発生するからです(凝縮熱)。
 その熱エネルギーによって空気が暖められ、つよい上昇気流が起こります。
そうすると台風は、さらに成長し活発になります。つまり水蒸気は、台風にエネル
ギーを供給するわけです。

 以上から、地球温暖化が進むと、台風の「タネ」は生まれにくくなるのですが、
しかしながら一度タネが生まれてしまうと、それが巨大に成長してしまうのだと
言えるでしょう。


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 それでは、実際に今までのところ、日本付近における「台風の動向」は、どう
なっているのでしょう?

 それを、つぎに見て行きたいと思います。


(a)台風の発生数

 台風は、1960年代の半ばと1990年代のはじめに多く発生しましたが、およ
そ20年ぐらいで増減が変動しているようです。

 1995年以降から、台風の「発生数」は、平年を下回ることが多くなりました。
(ひょっとしたら、これは地球温暖化の影響なのかもしれませんが、まだ確定し
た話ではありません。)

 しかしながら、「上陸数」や「接近数」には、減少の傾向が現れていません。

 ところで・・・
 2004年には、日本に10個もの台風が上陸しました!
 それは、気象庁が観測を始めて以来、最高の記録でした。(それまでの記録
は1990年と1993年の6個で、平年の上陸数は2.6個。)

 その印象がとても大きいので、近年は、台風が増加しているのではないかと
感じる人が多いかもしれません。
 しかし、2004年の台風の発生数は29個で、平年並み(平年の台風の発生数
は26.7個)だったのです。


(b)台風の強度

 以下で言う「強い台風」とは、中心付近の最大風速が33メートル以上のもの
です。

 1年間に発生する台風の中で、この「強い台風」の割合は、1980年代に高く
なっていました(60パーセント程度)。

 その後、1990年代後半には、この「強い台風」の割合が減少しました(50
パーセント程度)。

 しかし、2000年以降にふたたび増加し、「強い台風」の割合は、60パーセン
トか、それをちょっと超えるぐらいになっています。
 (近年における「強い台風」の増加は、地球温暖化の影響かもしれません。
が、しかしこれも、まだ確定した話ではなさそうです。)


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 以上、日本付近における、「大雨」や「台風」の動向について見てきました。

 その結果、私の印象では、すでに「地球温暖化の影響が現れている!」
ように感じました。

 とくに最近20年において、8月から9月にかけての大雨が、過去100年
に無かったほど増加している
ことに、それが現れていると思いました。

 また、海水温の上昇にともなって、やはり近年の台風は「強くなっている」よう
に、私にはどうしても感じられます。

 この先、「激しい大雨」や「巨大な台風」が、さらに増えるかも知れません。

 そのことを想定し、洪水や土砂崩れへの対策を、もっと強化して行かなけれ
ばならないように思います。



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