永久凍土の融解      2007年5月13日 寺岡克哉


 シベリアやアラスカなどの寒い地方には、「永久凍土」というのが広がって
います。

 「永久凍土」とは、2年以上つづけて凍結している、土壌や地盤のことです。

 ところで、「永久凍土」が存在している土地でも、その地表が夏場には融け
ます。そして地面には、草木なども生えています。

 しかし、地下60センチよりも深くなると、夏でも融けることのない「永久凍土」
が現れ始め、それが地下数百メートルまで及んでいるのです。
 その中でもとくに深いものは、アラスカのバローで440メートル、シベリアの
ヤクーツクでは地下500メートルにも、永久凍土の及んでいるものがあります。

 永久凍土はまた、シベリアやアラスカのほかに、ロシアの北方や、カナダの
北方、そしてチベットなどにも広がっています。
 それら全てを合わせると、その面積は、地球の陸地の15パーセントぐらい
に相当すると言われています。


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 ところで現在、地球温暖化により、それら「永久凍土の融解」がとても心配
されています。

 たとえばアラスカや、カナダの北方では、1980年代以降から永久凍土の顕著
な温暖化が報告されています。
 またロシアでも、1930年から1990年の間に、永久凍土の融解が進んでいる
と報告されています。

 そのように永久凍土が融解すると、地下の支えがなくなって地盤が沈みこみ、
建築物が傾いたり、倒壊したりします。

 また、アラスカには「酔っ払いの林」というのがあり、永久凍土の上に生えてい
る「トウヒ」という木が、四方八方に傾いています。
 それは強風で傾いたのではなく、永久凍土の上に根を張って立っていたのに、
それが融けて支えが弱くなり、あちらこちらの方向に木が傾いてしまったのです。

 さらにまた、アラスカやシベリアには、石油や天然ガスの「パイプライン」が走っ
ています。だから永久凍土が融解すると、地盤沈下により、それらインフラに対し
ても悪影響を及ぼすのではないかと心配されています。


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 永久凍土の融解にたいする心配は、地盤沈下だけではありません。

 というのは、永久凍土が融けると、「二酸化炭素」や「メタン」が発生する
からです。

 そして悪いことには、それによって、地球温暖化をさらに加速させてしまい
ます。

 とくに「メタン」は、二酸化炭素の23倍もの温室効果があるので、とても心配
です。


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 しかしなぜ、永久凍土が融けると、二酸化炭素やメタンが発生するのでしょう?

 それは永久凍土の中に、たくさんの「有機物」が凍結し、封印されているから
です。つまり永久凍土の中では、植物や動物が腐らずに保存されるのです。

 たとえば永久凍土の中からは、冷凍保存された「マンモスの屍骸」などが、
そのままの形で出てきたりしますよね。

 もちろん、ほとんどの場合は、生物の原型を留めていません。しかし「有機物」
としては、分解されずに保存されているのです。

 しかし永久凍土が融けてしまうと、それらの有機物が細菌によって分解され
(つまり腐り)、「二酸化炭素」や「メタン」を発生させるわけです。


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 さらにまた、永久凍土の中でも比較的浅いところ。つまり、地下数十メートル
ぐらいの深さのところには、「メタンハイドレート」が存在すると言われてい
ます。

 もしも、それが溶け出したら、目も当てられません!

 「メタンハイドレート」とは、メタンと水が結合してシャーベット状に凍ったもので
す。だからそれが融ければ、大量のメタンが発生するのです。

 もうすこし正確に言うと、「メタンハイドレート」が存在するのは、地下数十メー
トルから数百メートルの深さのところです。

 その中でも、とくに浅いところに存在するメタンハイドレートの融解が、とても
心配なのです。


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 ところで、コンピューターを使った「シミュレーション」の予測によると、永久凍土
の融解は、かなり深刻です!


 その予測によると、地下3メートルの深さまでの永久凍土が、
 2050年までに、地球に存在する全面積の50パーセント以上が融解し、
 2100年までに、全面積の90パーセントが融解するみたいです。

 しかも、(実際には不可能でも)仮に、西暦2000年の時点で二酸化炭素の
増加を止めて、その後を予測したという結果もあります。
 それによると2020年には、アラスカの永久凍土の60パーセントが、そして
東シベリアの永久凍土の70パーセントが融解します。

 この意味では、永久凍土の融解は「すでに手遅れ」という感が否めません。

 しかしそれは、地下3メートルの深さまでの話です。
 だから地下数百メートルまで及んでいる、「永久凍土のすべて」が融けるわけ
ではありません。

 しかしながら、たとえ地下3メートルまでの「浅い融解」であっても、そこに含ま
れる有機物が分解すれば、やはり二酸化炭素やメタンが発生します。

 また、地盤沈下により、建築物やインフラも大きな影響を受けるでしょう。

 さらには、永久凍土の上に生えている森林や、ツンドラなどの生態系にも、
大きな影響を与えてしまうでしょう。

 だからやはり、地下3メートルの深さまでの融解とはいえ、多大な影響が
出るのは間違いありません!



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 永久凍土の融解により、地下数十メートルの深さから存在する「メタンハイド
レート」が融けるのかどうかは、今のところまだ不明です。

 うまく行けば融けないかも知れないけれど、しかしながら、「まず大丈夫だ!」
という確証も得られていません。

 早急に解明することが望まれます。



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