海面上昇による日本の影響  
                               2007年5月6日 寺岡克哉


 地球温暖化による「海面上昇」では、南太平洋の小さな島々が沈んでしまう
ことが、深刻な問題になっています。

 しかし日本もまた、四方を海に囲まれた島国なので、海面が上昇すれば大きな
影響を受けます。

 今回は、地球温暖化によって海面が上昇すれば、「日本がどんな影響を
受けるのか?」
について、見て行きたいと思います。

 南の遠い島々のことだと、何となく「実感として捉えにくい」のではないでしょ
うか。しかし、こと「日本の問題」となれば、ごく身近な話として実感できると思い
ます。


                * * * * *


 たとえば日本では、「1メートルの海面上昇で、砂浜の90パーセントが消失
する!」という問題が深刻になっています。

 しかしこのことも、
 海洋生物の研究者や、漁業関係者。
 または、サーフィンやスキューバダイビングなどの、マリンスポーツをする人。
 あるいは、釣り人や、海水浴の客を相手に仕事をしてる人。
などの人々しか、あまり深刻な問題として受け取らないのではないでしょうか。


                * * * * *


 ところが「海面上昇」には、もっともっと深刻な問題が潜んでいます!

 それは、東京、大阪、名古屋などの大都市や、その他の「港湾都市」などが、
大きな影響を受けることです。

 それを示しているのが、つぎの表です。

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              現状      50センチ海面上昇  1メートル海面上昇

          面積 人口 資産   面積 人口 資産   面積 人口 資産

平均海面時    364  102   34    521  140   44    679   178   53

満潮時       861  200   54    1412  286   77    2339   410   109

台風または    6268  1174  288     7583  1358  333   8898  1542  378
津波発生時

          単位: 面積(平方キロメートル)  人口(万人)  資産(兆円)
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                   (出典 海岸工学論文集 39 1031〜1035)


 上の表は、日本全国において浸水域(つまり海面下)となる、土地の「面積」、
そこに住む「人口」、そして「資産」を見積もったものです。

 私はこのデータを見て、まず最初に驚きました。
 というのは、べつに海面が上昇しなくても、現状の日本において「海面下の
土地に住んでいる人々が居た!」
からです。
 海面下の土地に人が住むのは、なにもオランダ人の専売特許ではなかった
のです。


 たとえば首都圏では、東京都区部の荒川流域(江戸川区、江東区、墨田区
など)は、広い地域にわたって「海面下の土地」となっています。

 そして、もしも海面が1メートル上昇すれば、江戸川区、江東区、墨田区、
葛飾区などの大部分が、満潮時には浸水域となります。

 その上さらに、台風による高潮や、津波などが発生した場合は、浸水域となる
土地がもっと増えるのです!


 また一方、大阪や名古屋などの大都市にも、「海面下の土地」がずいぶん存在
しています。だから海面が1メートルも上昇すれば、それらの大都市にもかなりの
影響が出るのは確実です。

 さらには、その他の港湾都市も、多大な影響を受けるのは間違いありません。


 それらの対策費用(海面の上昇が1メートルの場合)は、見積もり方にもよるの
ですが、最低でも20兆円はかかるという試算もあります。


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 ところで、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告によると、
21世紀中の海面上昇は、最大でも59センチとなっています。

 しかし海面の上昇は、100年後に止まる訳ではありません!

 これも非常に大きな問題です。
 しかし、なぜかマスコミは、そのことをあまり強調しません。なので、ここで少し
強調しておきたいと思います。


 たとえば「地球シミュレーター」による計算では、このままだと100年後に、気温
が4度ぐらい上昇すると予測しています。

 しかしながら、もしも気温が4度も上昇してしまったら、100年後には50センチ
ていどの海面上昇かもしれないけれど、200年後には1メートル、300年後には
1.5メートルと、どんどん海面が上昇して行きます。

 そして、最終的にはエッセイ271でお話したように、「グリーンランド氷床」が
すべて融解し、少なくとも5〜7メートルの海面上昇になります。

 その上、もしも「南極の氷床」までも融解するようになったら、さらにそれ以上の
海面上昇になってしまうでしょう。

 しかも、いちど気温を4度まで(3度ぐらいでも)上昇させてしまったら、その
ような5メートル以上の海面上昇を、絶対に止めることが出来ないのです!


 もしもそうなったら、「世界の被害」はもちろんですが、「日本の被害」も計り知れ
ないものになるでしょう。



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