海氷の縮小 2 2007年4月22日 寺岡克哉
前回は、
(1)北極の海氷
(2)オホーツク海の流氷
(3)南極の棚氷
のうち、「北極の海氷」についてお話しました。今回は、その続きです。
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(2)オホーツク海の流氷
北極のように、1年中氷で覆われている海域を、「周年氷帯」といいます。
一方、たとえばオホーツク海のように、冬の間だけ氷に覆われる海域は
「季節氷帯」と言われています。
季節氷帯は、とうぜんながら周年氷帯よりも暖かなところに分布しています。
だから地球温暖化がすこしでも進むと、季節氷帯は、とても大きな影響を受けて
しまうのです。
とくに、知床などの北海道のオホーツク海側は、季節氷帯の中でもさらに南限
に位置しています。だから、地球温暖化の影響をまっ先に受けてしまいます。
このままだと、あと30年もすれば、北海道には流氷が来なくなってしまう
でしょう!
また70年後までには、冬季であっても、オホーツク海のすべてから海氷が消え
去ってしまうでしょう。
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ところで・・・ 流氷が無くなってしまうと、一体どうなるのでしょう?
まず考えられるのは、流氷は「豊富な栄養」を供給しているので、それが無く
なると、海の生態系に大きな影響を与えるということです。
流氷の裏側(海中に面した側)には、茶色や黄色の「ヌルヌルしたもの」がびっ
しりと付いているそうです。これは、「アイスアルジー」と呼ばれる植物プランクトン
の仲間です。
もちろん、ひとつ一つのプランクトンは、目に見えないほど小さなものです。しか
し、それが大量に繁殖して集まることにより、茶色や黄色のヌルヌルを形成して
いるのです。
オホーツク海では、3月中旬には、この「アイスアルジー」が濃密に繁殖します。
餌がとても不足する冬のすぐ後、つまり早春に繁殖するアイスアルジーは、その
海域の生態系を支える上で、すごく大切な存在になっています。
たとえば、おなじ北の海域であっても氷のない所では、晩春や初夏まで餌があり
ません。それに比べると、流氷のある海域は、栄養がとても豊富なのです。
だから、もしもオホーツク海から流氷が消えてしまったら、海産資源に大きな
影響を与えてしまうでしょう。
ところでオホーツク海も含めて、南極と北極の2つの海域にある「季節氷帯」を
すべて合わせると、その面積は2400万平方キロメートルぐらいになります。それ
は地球全体の面積の、およそ5パーセントにも相当します。
そんなに大きな面積を占める「季節氷帯」が、地球温暖化によって縮小したり
消滅したりすれば、それは「地球の生態系」の全体にとっても、大きな影響を与え
てしまうのは間違いありません。
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(3)南極の棚氷(たなごおり)
余談ですが、棚氷は「たなひょう」ではなく、「たなごおり」と読むみたいですね。
棚氷は、南極大陸から海に張りだした氷のことで、これも「海に浮いている氷」
です。だから「棚氷」が融けても、海面の上昇は起こりません。その点で、陸上に
ある「氷床」が融ける場合とは異なります。
氷の厚さも、内陸の「氷床」は3000メートルもありますが、「棚氷」は200メー
トルぐらいです。(それでも、北極の「海氷」の厚さである3メートルとくらべれば、
ずいぶん厚いものです。)
ところで現在、南極全体としての氷の量は、増えも減りもしないか、あるいは
若干増えているのではないかとさえ言われています。
しかしながら、南極大陸の北にある(つまり南極の中でも暖かいところに位置
する)「南極半島」では、棚氷の大規模な崩壊が起こっています。
それで有名になったのが、「ラーセン棚氷」です。そのラーセン棚氷で起こった、
大規模な崩壊はつぎの通りです。
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崩壊の起こった年 崩壊した面積
1995年 1300平方キロメートル
1998年 300平方キロメートル
2002年 3250平方キロメートル
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とくに、2002年に起こった大規模な崩壊は、「ラーセンB棚氷」と言われるもの
です。
私は、人工衛星による「ラーセンB棚氷」の写真をみて驚きましたが、たった
1ヶ月ていどの間に、鳥取県ほどの大きさもある大氷原が、バキバキと粉々に
砕けてしまいました。
また、ラーセン棚氷を含め、1974年以降に「南極半島周辺」で起こった棚氷の
崩壊を合計すると、13500平方キロメートルの面積に達します。
それは、東京都の6.2倍の面積であり、ちょうど長野県と同じぐらいの面積で
す。
それほど、たくさんの棚氷が崩壊しているのです!
南極半島は、南極大陸のなかでも、北の暖かいところに位置しています。だから
地球温暖化の影響が、南極でいち早く現れる場所だとされています。
ラーセン棚氷を含めた、南極半島周辺の棚氷の崩壊は、地球温暖化の影響
ではないかと考えられています。
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さて次回はいよいよ、融解すると「海面を上昇させる」と考えられている、南極や
グリーンランドの「氷床」について見て行きたいと思います。
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