氷河の縮小           2007年4月8日 寺岡克哉


 ここでは、「氷河の融解」について見て行きたいと思います。

 氷河が融けると、海の水が増えて、海水面の上昇することが一般的に考えられ
ます。

 たとえば海水面は、過去100年の間に10〜20センチ上昇しましたが、そのうち
2〜4センチ分の上昇が、「山岳氷河の融解」によるものとされています。


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 ところで山岳氷河は、世界中に、とても数多くあります。だから、世界各国が分担
して調査をしています。

 そしてその結果は、「世界氷河台帳(World Glacier Inventory)」というのに登録
されています。
 その数はなんと64541で、氷河全体の40パーセントに相当します!
 こん
なにたくさんの氷河が登録され、定期的にモニターされているわけです。

 この数を見ただけでも、地球温暖化の影響のうち、「氷河の縮小」を取って見た
だけで、とてもたくさんの研究者が関与しているのが分かります。

 地球温暖化の影響評価は、ごく一部の偉い学者の見解ではありません。何千人
何万人という研究者によって調べられた「事実」を、総結集させたものなのです。


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 もちろん、わが国の日本も、分担して山岳氷河の調査をしています。

 その調査地域は、ネパール、中国、ブータン、ロシア、アメリカ(アラスカ)、アル
ゼンチンなどに及び、とても広い地域から貴重なデータを集めています。

 たとえばその一つに、ネパール・ヒマラヤ東部における1024の氷河について
の調査報告があります。
 それによると1958年から1992年の34年間に、57パーセントの氷河が縮小
し、35パーセントの氷河に変化が見られず、9パーセントの氷河が拡大したと
報告されています。


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 つぎに、もう少し具体的なデータをご紹介しましょう。

 下の表は、ネパールの東にある「ブータン」という国の山岳氷河で行った、調査
報告です。

     ブータンヒマラヤでの1963年から1993年までの氷河の縮小
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面積(63年) 氷河の数 総面積(63年) 総面積(93年) 縮小面積 縮小割合
 (km)            (km)     (km)     (km)   (%)
  0〜1     22     11.11      8.64     2.47   22.2
  1〜2     14     19.36     16.61     2.75   14.2
  2〜3     12     28.68     25.98     2.7     9.4
  3〜4      9     27.98     26.27     1.71    6.1
  4〜5      3     12.62     11.89     0.73    5.8
  5〜6      3     16.32     15.43     0.89    5.5
  8〜12     3     30.8      30.12     0.68    2.2
   計      66    146.87    134.94    11.93    8.1
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 この表を見ると、とくに「小さな氷河」の縮小が顕著であるのが分かります。これ
と同じような傾向は、先にお話したネパール東部の調査においても報告されてい
ます。


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 また、南半球の氷河では、アンデス山脈の南端にある「パタゴニア氷原」でも、
顕著な氷河の縮小が観測されています。

 1975年から1995年の20年間に、氷河の「厚さ」が20メートルも減少して
いるという報告があります。それは、スペースシャトルによって観測されました。

 日本の研究グループもまた、このパタゴニア氷原の現地において、長期の観測
を続けています。そして、数多くの氷河の縮小を調査しています。

 それらの総合的な研究により、パタゴニア氷原全体では、過去50年間の氷河
の融解によって、海水面を1.9ミリメートル上昇させたと見積もられています。


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 最新の情報では、2日前の4月6日に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
の第二作業部会によって採択された報告があります。(第二作業部会とは、地球
温暖化が世界に与える影響を評価する会合です。)

 新聞報道(北海道新聞4月7日付朝刊)によると、山岳氷河に関しては、ヒマラヤ
山脈の氷河が「空前の融解」に見舞われています。

 その一例として、ガンジス川源流の氷河は、最近の16年間で370メートルも山頂
に向かって後退しました。

 また他の氷河では、650メートルも後退した所があります。


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 ところで、氷河が融解すると、その末端のところに水が溜まって「氷河湖」という
のが出来ます。

 現在、その氷河湖が急速に拡大し、水があふれて決壊し、下流域において
「洪水の危険」が増大しています。

 たとえばヒマラヤでは、1950年から1960年の頃には氷河末端にあった
100メートルほどの「水たまり」が、現在では1キロメートルの「湖」に成長して
きています。

 国際環境計画(UNEP)と、国際総合山岳開発センター(ICIMOD)の共同研究
により、ネパール・ブータン両国での「氷河湖決壊による洪水の危険性」につい
て、調査が行われています。

 それによると、氷河湖は、「モレーン」という氷河によって運ばれた土砂が堆積
した「堤防状の地形」により、水がせき止められて出来ています。
 この「モレーン」は不安定な地形で、氷河の融解によって水が増えると、その
水量を支えきれずにモレーンが決壊し、洪水を引き起こすとされています。


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 以上、見てきましたように、「氷河の縮小」一つをとっても、世界中のたくさんの
研究者によって調査が行われています。

 それにより、地球温暖化の「事実」が明らかにされたのみならず、「氷河湖の
決壊」という深刻な事態も、ひしひしと迫っているのが分かったのです。



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