深刻さの共有         2007年2月4日 寺岡克哉


 私はよく、地球温暖化の「深刻さ」について強調します。

 しかしこれは別に、未来に対して絶望させるのが目的ではありません。

 また、ただ皆さんを脅かして、怖がらせようと言うのでもありません。

 私が、地球温暖化の深刻さを社会にたいして強調するのは、まず第一に、
「大量消費」の弊害や、「省エネ」の重要性を、実感できるレベルまでに納得して
ほしいからです。

 しかしながら、さらに、それだけではないのです。

 ここでは、いつも私の頭の中にあったのに、今まで言いそびれていたそのこと
を、すこしお話したいと思いました。


                   * * * * *


 私は、地球温暖化にたいする問題意識の共有というか、「深刻さの共有」
いうのが、これからどうしても必要になると考えています。

 というのは、地球温暖化の研究や対策に、今後たくさんのお金が必要になる
と思うからです。

 そのためには、社会的な同意やサポートがどうしても必要です。

 そして、その同意やサポートを得るためには、深刻さの「社会的な共有」が、
絶対に必要なのです。


                   * * * * *


 たとえば、

 地球環境や生態系の、調査や研究。
 太陽光、風力、バイオマスなど、「新エネルギー」の開発と普及。
 ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車、バイオエタノール、バイオ
ディーゼルなどの開発と普及。
 火力発電所の高効率化と、二酸化炭素の回収、地中貯留などの技術の
実用化。
 植林など、緑化事業の促進。

 これらには、ある程度のお金が必要です。


                    * * * * *


 また、
 激しい豪雨による、洪水や土砂崩れの対策。
 水資源の確保。
 海水面の上昇による、津波や高潮などの対策。
これらには、莫大な費用がかかることでしょう。


 地球温暖化が進むと、「激しい豪雨」が頻発するようになります。そうすると、
「洪水」が起こる危険も高くなるでしょう。
 それを防ぐためには、日本のすべての河川の堤防を、整備しなおさなければ
ならないかも知れません。
 また、山間部の市町村では、土砂くずれの災害も増えるでしょう。それまで
大丈夫だった地盤でも、補強しなければならないかも知れません。


 ところで温暖化が進むと、激しい豪雨が頻発する一方で、「日照りによる水不足」
も起こります。つまり、雨が降るときは一気にドッと降り、そのあと雨の降らない日
が長くつづくわけです。
 また、北日本の日本海側では、温暖化によって冬の雪が雨になり、雪が積もら
なくなります。北国にとって「積雪」は自然のダムであり、それがなくなると水不足に
なる恐れがあります。
 これらのことから、将来水不足が懸念され、水資源を確保するための貯水施設
をたくさん作らなければならないでしょう。


 そしてまた、日本は海岸線が長く、港湾都市や臨海工業地帯が多いので、
「海水面の上昇」も、とても大変な問題です!

 たとえば海水面が50センチ上昇するだけでも、日本のすべての堤防や防波堤
を50センチ高くし、すべての港湾都市や臨海工業地帯の地盤を50センチ「かさ
上げ」しなければ、今まで通りの津波や高潮の防止にはならないでしょう。
 あるいは地盤のかさ上げが無理ならば、港湾都市や臨海工業地帯のすべて
を、堤防で囲わなければならなくなるでしょう。
 しかも、温暖化によって台風も強力になるので、高潮の被害はさらに酷くなる
でしょう。だから本当なら、1メートルぐらいの対策をしたい所です。


 以上、それらの費用たるや、とても莫大なものでしょう。
 数兆円や数十兆円では、ぜんぜん足りないかも知れません。
 だから、「新たな財源」が必要になるのは必須だと思います。そのためにも、
「社会的な同意」が絶対に必要になるでしょう。


                   * * * * *


 また私は、研究者や技術者のステータス(社会的な地位や身分)を上げること
も、必要だと感じています。そのためにも、社会的なサポートは欠かせません。

 つまり研究者や技術者になることを、芸能人やスポーツ選手になるのと同じぐら
い、「カッコイイ!」ことにする訳です。
 そして、特に優秀な研究者や技術者には、売れている芸能人や、優秀な
スポーツ選手と同じぐらいの収入を保証するのです。
 そうすれば、優秀な若者がたくさん集まるようになり、研究開発がもっと促進され
るでしょう。

 たとえば私が学生だったころ(20年ぐらい前)、理系に進んだ人間は、「オタク」
だの「根暗」だのと、ある種世間から見下されていたような雰囲気を感じたことも
ありました。
 そして大学院に進んでも、その後の生活の保障はありませんでした。研究者を
目指す多くの人にとって、会社員や公務員などの「まっとうな人生」を振り切ること
が覚悟の上の進学でした。
 そのような状態では、優秀な若者はその分野を避けるようになり、集まってこな
いでしょう。


 しかし、これから将来、
 「地球環境」や「生態系」の調査や研究。
 「省エネ技術」や「新エネルギー」の開発。
 二酸化炭素の「回収」や「処理方法」の実用化。
これらには、人類の存亡がかかっていると言っても過言ではありません。

 今ほど、研究者や技術者が、人類にとって必要なときはありません!

 そしてまた、大学への進学を目指すのでも、「単なる受験勉強」ではなく、「未来
の地球を救うための勉強」ならば、やる気と真剣みがすごく湧いてくるのではない
でしょうか。

 そのような意味で、研究者や技術者のステータスを上げることが必要だと思う
わけです。


                  * * * * *


 以上、ここでお話したことについての、社会的な同意やサポートを得るために
は、「深刻さの共有」がどうしても必要だと私は考えています。



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