森林によるCO2の固定 3
2006年11月5日 寺岡克哉
前回は、森林が二酸化炭素の「倉庫」であることについてお話しました。
つまり、「森林」という倉庫が大きくなれば、それだけたくさんの二酸化炭素を
蓄えることができます。しかし倉庫が小さくなれば、それまで蓄えられていた二酸
化炭素があふれだし、大気中に放出されるわけです。
そして残念なことに、いまの地球では「森林の消失」が進んでおり、それが二酸
化炭素の増加の一因になっているのでした。
しかも、その量は決して小さいものではなく、全世界において化石燃料がだす
二酸化炭素と比べても、それの3分の1に匹敵する量が、「森林の消失」に
よって放出されているのです。
ちなみに、世界の化石燃料による二酸化炭素の放出は、毎年およそ240億トン
ていどです。だからまず第一に、森林の消失を防ぐだけで、毎年およそ80億トン
ていどの二酸化炭素の削減になるわけです。そしてこれは、日本全体のだす
二酸化炭素の、およそ6倍の量になります。
このように、「森林の消失」を防ぐだけでも、大きな二酸化炭素の削減になりま
す。
それならば、さらに積極的に「植林」をして森林を増やせば、二酸化炭素の
問題に大きく貢献することが、容易に想像できるわけです。
今回は、そのような「植林」の効果について、もうすこし詳しく見て行きたいと思い
ます。
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つぎの表は、熱帯林、温帯林、そして(半)砂漠の、地球全体に存在する面積と、
1ヘクタール当たりに固定されている二酸化炭素の量です。
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面積 1ヘクタール当たりに固定されて
(億ヘクタール) いる二酸化炭素(トン/ヘクタール)
熱帯林 18 810
温帯林 12 880
(半)砂漠 45 26
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ところで上の表を見ると、すこし疑問を感じる人がいるかも知れません。という
のは、「熱帯林」よりも「温帯林」の方が、1ヘクタール当たりに固定されている
二酸化炭素の量が多いからです。
たしかに、生きている植物、つまり「生体」として固定されている二酸化炭素は、
やはり熱帯林の方が多いのです。
しかし、落ち葉や、枯れ枝などの、地上に積もった有機物も含めると、温帯林
の方が多くなります。
これは熱帯林では、地上に落ちた枝葉が、すぐに細菌などによって分解され、
二酸化炭素にもどってしまうからです。
もちろん温帯林でも、積もった枝葉が分解されて二酸化炭素になります。しかし
分解する速度が遅く、その一方で枝葉は、つねに降り積もって行きます。だから
長い目で見れば、それら分解と堆積がバランスして、つねに一定量の有機物が
「地上の堆積物」として存在しているわけです。
これは、「雪の積もり方」に似ているかも知れません。
なぜなら雪は、「融ける量」と「降り積もる量」がバランスしたところで、「積雪」が
決まるからです。
たとえば真冬の寒いときは、雪の融ける量がすくないので、降った雪がそのまま
積もり、積雪は大きくなります。
しかし春先になると、雪の融ける量が大きくなり、積雪は小さくなります。そして
ついには雪が消えてしまい、積雪はゼロになります。それが「熱帯林」の場合に
相当するのです。
しかしとにかく、熱帯林でも温帯林でも、1ヘクタールの森林には800トン以上の
二酸化炭素が固定されています。
だから大ざっぱには、1ヘクタールの「砂漠」を「森林」に変えることができれ
ば、およそ800トンの二酸化炭素が固定されることになります。
* * * * *
ところで、世界全体の「化石燃料」からでる二酸化炭素は、毎年およそ240億
トンです。そして「森林の消失」によって放出される二酸化炭素は、毎年およそ
80億トンです。
だから全体では、240+80=320億トンの二酸化炭素が、放出されている
ことになります。
しかしその半分以上は、主に海などに吸収されるので、大気中における二酸
化炭素の増加は、毎年およそ140億トンていどです。
そのうち、まず始めに森林の消失を食い止めるだけで、
140×{80/(240+80)}=35億トンの、大気中における二酸化炭素が
削減できます。
あとは、140−35=105億トンの二酸化炭素を、植林によって削減すれば
良いわけです。
そして上でお話したように、1ヘクタールの砂漠を森林に変えると、およそ800
トンの二酸化炭素が固定されます。
だから、105億トンの二酸化炭素を固定するには、
105/800=0.13億ヘクタールの森林を、毎年増やして行けば良いことに
なります。
一方、上の表より、砂漠の面積は45億ヘクタールもあります。だから、毎年
0.13億ヘクタールの砂漠を森林に変えて行ったとしても
45/0.13=346 およそ350年分の二酸化炭素を蓄えることができるの
です。
もちろん、いきなり砂漠のど真ん中を、森林に変える必要はありません。
今まで森林であったのに、それが消失して砂漠化が進んでいるところ。つまり
植林の比較的やりやすいところから、どんどん森林を増やして行けばよいの
です。
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しかしながら・・・
上の話は、この先ずっと、いまの二酸化炭素排出が維持できたときの場合で
す。つまり、年間の二酸化炭素排出が、現在よりも増えることがないとしたとき
の計算です。
ところが、以前のエッセイ218でお話したように、二酸化炭素がこのまま指数
関数的に増加して行けば、いくら植林を進めても間に合いません。
だからやはり、「省エネ」や「新エネルギー開発」も同時に進めて行かなければ
ならず、植林だけで根本的な解決にならないのは確かなのです。
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