森林によるCOの固定 2

                                  2006年10月29日 寺岡克哉


 前回は、「1本の木」がどのようにして二酸化炭素を固定するのかについて、見て
きました。

 たとえば芽生えたばかりの「若木」は、どんどん二酸化炭素を吸収し、どんどん
成長して、「自分の体」にどんどん二酸化炭素を固定します。

 そして、その若木が「大人」になって成長が止まると、二酸化炭素の吸収と放出が
バランスして収支がゼロなります。そうなると、もうその木は二酸化炭素の吸収源と
して働かなくなります。

 やがて「老木」になり、枯れて倒れると、それまで固定されていた二酸化炭素の
すべてが放出されることになります。

 このように「樹木」というのは、二酸化炭素を酸素に変える「マシーン」と言うより
は、二酸化炭素を一時的にたくわえる「倉庫」のような役割をしているのでした。


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 ところで、上のように「1本の木」として見た場合は、樹木として固定されていた
二酸化炭素も、いずれ大気中に放出されてしまいます。だから樹木は、温暖化
問題にあまり貢献しないように思えます。

 しかし、たくさんの木が生い茂る「森林」として見た場合は、状況が変わってき
ます。
 なぜなら、ある樹木が老いて倒れても、その後にまた「新しい若木」が生えてくる
からです。だから森林が存在するかぎり、その森林全体が、二酸化炭素をたくわえ
続ける倉庫として働くのです。

 もちろん森林全体としては、二酸化炭素の吸収と放出がバランスし、その収支
はゼロになっています。
 (これは、植林したての「若い森林」ではなく、むかしに植林した森林や、むかし
から存在している自然林のような、「十分に成熟した森林」の場合です。「若い
森林」の場合は、すべての木がどんどん生長するので、森林全体としての二酸化
炭素の吸収も増加します。)

 だから「成熟した森林」では、もう二酸化炭素の吸収は増加しません。しかし、
その森林における「有機物の総量」に見合ったぶんの二酸化炭素は、その森林
が存在するかぎり固定されています。


                    * * * * *


 しかしこれは逆に、「森林が消失するだけ」で、大気中の二酸化炭素が
増加することを意味しています!


 つまり、森林が固定できる二酸化炭素の総量は、地球における「森林の
総面積」で決まってしまう
わけです。
 たとえば非常に望ましいことですが、もしも地球の森林の総面積が増えれば、
そのぶんの二酸化炭素が新たに固定されます。しかし残念なことに、森林の総面
積が減れば、そのぶんの二酸化炭素が大気中に放出されるわけです。

 簡単に言えば、二酸化炭素を蓄える「倉庫」が大きくなれば、その分たくさんの
二酸化炭素を蓄えることができますが、「倉庫」が小さくなれば、その分の二酸化
炭素が溢れ(あふれ)出るというようなイメージでしょうか。

 そして残念なことに、今の地球では、とくに「熱帯林の消失」が大きな問題に
なっています。
 この「熱帯林の消失」によって、どれぐらいの二酸化炭素が増えているのか、
すこし具体的に考えてみましょう。


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 つぎの表は、熱帯林と農耕地、および(半)砂漠において、1ヘクタールの土地
に固定されている二酸化炭素の量です。

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             1ヘクタールの土地に固定されている二酸化炭素

      熱帯林             810トン
      農耕地             260トン
     (半)砂漠              26トン
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 この表は、たとえば1ヘクタールの「熱帯林」を開墾して「農耕地」に変えると、
 810−260=550トンの二酸化炭素が、大気中に放出されることを意味し
ます。
 なぜなら、熱帯林は1ヘクタール当たり810トンの二酸化炭素を蓄えていたの
に、それが農耕地になると、260トンの二酸化炭素しか蓄えることが出来なくなる
からです。
 その差の550トンは、消失した樹木に固定されていた分です。それらは結局、
焼畑によって開墾されたり、あるいは薪(まき)として使われたり、焼却処分され
るなどして、二酸化炭素になってしまいます。
 樹木のごく一部は、建築物や家具として残るかもしれません。しかし、それは
森林全体の有機物の量から見たら、本当にごく一部にすぎないのです。だから
消失した樹木のほとんどが、二酸化炭素になると考えて差し支えありません。

 また、森林が破壊されて(半)砂漠化までしてしまうと、1ヘクタール当たり
810−26=784 およそ780トンの二酸化炭素が、大気中に放出されます。


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 ところで1980年代では、毎年1540万ヘクタールの熱帯林が消失した
と言われています。

 もしも消失した熱帯林が、すべて農耕地になったと仮定しても
 (810−260)×15400000=8470000000トン
つまり、毎年およそ85億トンの二酸化炭素が、熱帯林の消失によって放出
された
ことになるのです。

 ちなみに、世界の化石燃料による二酸化炭素の放出は、毎年およそ240億
トンです。
 つまり、化石燃料による二酸化炭素とくらべてみても、そのおよそ3分の1に
相当する大量の二酸化炭素が、「森林の消失」によって放出されているのです。

 以上の理由から、これ以上の森林破壊を食い止めること、そして「植林」を
することにより、積極的に森林を回復することが、温暖化問題に大きく貢献
することが分かるのです。


 植林のことについては、次回にお話したいと思います。



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