二酸化炭素の処理 2006年9月10日 寺岡克哉
前回までは「省エネ」、つまり二酸化炭素の排出を、出来るだけ少なくすることに
ついて考えてきました。
次に、これからしばらくは、排出される二酸化炭素を積極的に回収し、「処理する
こと」について考えて行きたいと思います。
(燃料電池自動車やバイオマス燃料の開発状況など、自動車について興味ある
テーマは尽きませんが、それはまた後の機会に回したいと思います。)
ところで、二酸化炭素の処理については、じつに様々なことが考えられていま
す。しかしその中でも、有効なものと、実はあまり有効でないものがあります。
今回は、それら二酸化炭素の処理について、どんなことが考えられているのか
をザッと見て行きたいと思います。
* * * * *
二酸化炭素の処理は大きく分けて、
(1)再利用
(2)投棄
(3)固定
の、3つが考えられています。以下、それらについて簡単にお話しましょう。
(1)再利用
これは、火力発電所などから出る二酸化炭素を回収し、それを原料にして「燃料」
や「プラスチック」を作ることにより、再利用しようと言うものです。
都市ガスなどの気体燃料、アルコールなどの液体燃料、そしてプラスチック類
などは、主に「炭素」と「水素」から出来ています。
だから、太陽光発電などで水を電気分解して「水素」をとりだし、それと二酸化
炭素に含まれている「炭素」と化学反応をさせれば、都市ガスや、アルコールや、
プラスチックなどを作ることが出来るわけです。
そのように「炭素を使いまわす」と、ちょうどバイオマスを使うのと同じように、
二酸化炭素の総量が増えずに済むという考えです。
しかし、これには落とし穴があります。それは、「エネルギー的には絶対に
損をする」ということです。
一般に、化石燃料を燃やして発生した二酸化炭素から、燃料やプラスチックを
合成する場合、はじめに化石燃料を燃やしたときに得られる以上の、エネルギー
が必要なのです。
だから、太陽光発電の電気エネルギーを使って、二酸化炭素から燃料を合成
するぐらいなら、はじめから化石燃料を使わないで、太陽光発電の電気エネル
ギーをそのまま使った方がずっと得なのです。
たとえば先ほどの例で、「太陽光発電」で水を電気分解して「水素」をつくり、
その水素と二酸化炭素から「燃料」を合成する場合を考えてみます。
そうすると、まず「水素」を作るときにエネルギーをロスし、さらに「燃料」を合成
するときにもエネルギーをロスします。
だから、「太陽光発電」の電気エネルギーをそのまま使うのがいちばん効率が
よく、その次に「水素」を燃料電池などにして使う方がまだ効率がよく、二酸化
炭素から合成した「燃料」を使うのが、いちばん効率が悪いのです。
だから二酸化炭素の「再利用」は、あまり有効な対策とは思えません。
(2)投棄
これは、回収した二酸化炭素を、海洋に投棄したり、地中に保存したりすること
です。
海洋投棄については、気体の二酸化炭素をそのまま海中に溶かし込んだり、
液体状にした二酸化炭素を深海に沈めたり、あるいは固体のドライアイス状に
して深海に沈める方法などが考えられています。
後の機会に詳しくお話しますが、これらには、いろいろと心配されることもあり、
十分な検討が必要です。
地中保存とは、石油を採りつくした廃油田や、天然ガスを採りつくした廃坑など
に、二酸化炭素を捨てようというものです。
日本にも天然ガス田があり、そのガスを採りつくした後の廃田に、日本全体が
出す二酸化炭素の20年から30年分を保存することが出来るそうです。
しかしその実施にあたっては、環境に対する影響(とくに二酸化炭素の漏れだし
など)に、十分注意する必要があります。
(3)固定
これは、回収した二酸化炭素を、化学工業的に「炭酸カルシウム」や「炭酸マグ
ネシウム」にして固定する方法。
あるいは、「植林」や「サンゴの育成」などによって、大気中や海水中の二酸化
炭素を「生物の力」で固定しようと言うものです。
しかし化学工業的な方法では、大量の二酸化炭素を処理するのは土台無理が
あり、まだアイディアの域を出ていません。
「植林」は、二酸化炭素の処理に対して、「いちばん有望な方法」だと私は
思っています。それについては、後ほど詳しくお話したいと思います。
ところで、「サンゴ」の主成分は「炭酸カルシウム」なので、サンゴを育成させる
と、二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定されます。
これは一見すると、とても有望な方法に思えます。しかし、サンゴが炭酸カルシ
ウムを作ると、反って海中から二酸化炭素が出てくることも考えられ、無条件に
良い対策とは言えないようです。
そのことについては、二酸化炭素の海洋投棄とからめて、後ほど詳しく考えたい
と思います。
* * * * *
以上、二酸化炭素の処理方法について、大ざっぱに見てきました。
次回から、これら二酸化炭素の処理のうち、あるていど有望なものについて、
もう少し詳しく見て行きたいと思います。
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