心の経済価値        2005年12月11日 寺岡克哉


 最近マスコミでは、マンションの耐震偽造や、小学生の少女を狙った殺人事件で
大さわぎです。

 今度もまた、国の税金がムダに使われるのでしょう。そしてマンション業界や建築
業界の信用が失われて、莫大な「経済的損失」を被ることでしょう。
 とくに、あのようなマンションに住んでいる方々にとっては、その経済的な被害の
大きさは言わずもがなです。一生にわたる生活設計が、大きく狂わされてしまった
ことでしょう。

 そして、小学生の少女を狙った残虐な事件・・・。
 小学校の子供たちを安全に通学させるために、警備や監視などの安全対策に
どれほどの金がかかることでしょう。事件の発生した学校だけでなく、日本全国の
小学校でそのような安全対策をとる必要があるのです。だから、これもやはり莫大
な費用がかかってしまうことでしょう。

 私はこのような事件が起こるたびに、「良い心」というのには、じつは莫大な経済
価値があるのではないかと思ってしまうのです。

                 * * * * *

 もちろん、「心の価値」を金で見積もるのは、私の心情に反します。なぜなら
「人の心」というものは、お金などには代えられない大切なものだと、私は思ってい
るからです。
 しかしながら、「良い心」の価値を「経済的な価値」に置き換えることによって、
お金(経済発展)のことしか考えない人たちにも、「良い心の大切さ」をいくらかでも
理解してもらえるかも知れません。

 そしてまた、人々の心を良くしていくためには、そのような仕事に従事するための
人材を育成し、確保しなければなりません。つまり、人材育成のための費用と、人材
確保のために支払う賃金、そしてそのような仕事を行うための組織や施設を作り、
それを維持するための金が、どうしても必要になってきます。

 これからの社会は、ただ経済発展のために金を使うのではなく、人々の「良い心」
を育成していくために、どうしてもある程度の金を使わなければならないと私は考え
ています。

                * * * * *

 以上のような理由により、私は不本意ながらも、「心の経済価値」について以前
から色々と考えていました。
 しかし最近、マンションやホテルの耐震偽造や、連続する小学生を狙った殺人
事件がマスコミで騒がれるようになると、再びそのことが私の意識につよく上って
来たのです。

 このまま、「いい加減な企業」や「デタラメな企業」がどんどん増えて同じようなこと
をくり返せば、だれも「企業」というものを信用しなくなるでしょう。そして企業の作っ
た品物や製品の売り上げが激減するでしょう。
 また、そのような「犯罪」や「詐欺」まがいの企業ばかりになってしまったら、若者は
企業に就職する気が起こらなくなるし、もし企業に就職したとしても、まじめに働く気
がなくなってしまうでしょう。どうせ犯罪や詐欺の片棒を、無理やり「かつがされる」
ことになるのですから・・・。

 そんな企業では、「仕事の大切さ」や「働きがい」など、感じられる訳がありません。
ましてや、仕事に「誇り」や「プライド」を持つことなど、絶対にできません。
 只ただ罪悪感に苦しみながら、膨大で過酷な「ノルマ」を、過労死ギリギリになる
まで押しつけられるだけです。
 そんな企業ばかりになれば、だれも企業で働こうとしなくなるでしょう。そうなって
しまったら、まさしく「企業社会の崩壊」につながりかねません。

                * * * * *

 そしてまた、「人間の心」が悪くなって犯罪がどんどん増えれば、犯人を捕まえる
ための捜査費用や、警備や監視などの安全対策のための費用が、莫大になって
いくでしょう。
 警察官も、たくさん雇わなければならなくなるでしょう。さらには刑務所もたくさん
作り、刑務官もたくさん雇わなければならなくなるでしょう。
 このまま「人間の心」がどんどん悪くなって行けば、国の予算がいくらあっても
足りなくなるのは目に見えています。

 これは、「人の心」を良くすること。つまり「人間の精神」が本質的な問題なのに、
それを警備や監視、逮捕、拘束、刑罰などの「物理的な力」だけで解決しようとする
から、そのような莫大な費用がかかってしまうのです。
 これは例えば、紛争やテロが多発している地域において、人々の間に「偏見や
差別を棄てさる意志」や「平和を求める意志」が強く起こらなければ、いくら軍備に
金を使っても平和は絶対に実現できないのと、構図は似ていると思います。

 「日本人は、安全と水はタダだと思っている!」
 この言葉のありがたみが、最近は身にしみて実感するようになりました。しかし
これからの時代は、そんなことを言っていられなくなるかも知れませんし、もう既に
そうなっているかも知れません。

                * * * * *

 以前にゴルバチョフがテレビに出演し、「ソ連の共産主義社会が崩壊したのは、
官僚の”心”が腐敗したからだ」というような発言をしていたのを覚えています。
 共産主義社会は、理論的にはとても素晴らしい社会です。しかし、どんなに素晴ら
しい社会でも、人間の心が腐敗すれば、その社会は住みにくく(生きにくく)なって
崩壊してしまうのです。

 日本の経済を根底から破壊するのも、それと同じように「腐敗した人間の心」なの
かもしれません。
 「良い心」をあえて経済的な価値で見積もれば、じつは何百兆円か、もしかしたら
何千兆円もの経済価値があるのではないでしょうか?
 それを考えれば、「良い心」を育成するために1兆円ぐらいの金をかけても、その
価値が十分にあるのではないかと思います。



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