人を見る目 2005年4月24日 寺岡克哉
現代社会では、「人を見る目」を養うことが、とても大切になってきたと
思います。
これは昔から言われていることですが、しかし現代では、それが昔にもまして
重要になってきたと思うのです。
なぜなら例えば・・・
警察官による犯罪。
医師や大学教授など、社会的な地位の高い人間による犯罪。
公務員や会社員など、収入と生活が安定している人間による犯罪。
じつに真面目そうで、おとなしそうな顔つきをした凶悪犯罪者。
同じく、成績が優秀でまじめな少年がひきおこす犯罪。
テレビや新聞の報道をみていると、どうしてこのように善良そうな人間が、ある
いは善良でなければならない職業の人間が、犯罪を起こしてしまうのか? と、
ガクゼンとしてしまいます。
いまの時代は、警察官だから、医師や大学教授だから、成績が優秀だから、
真面目でおとなしいから・・・ などの理由で、その人間を判断するべきではないと
思います。つまり、人を「見かけ」だけで判断するのは、とても危険な時代になって
きたのです。
例えば昔ならば、見かけや職業などで、人間をある程度は判断できたのでしょ
う。むかしの時代は、「ヤクザ」や「不良少年」などは悪人づらをしており、「良い人」
は善良な顔つきをしていたと思います。
また、まっとうな職業について生活の安定している人は、あえて人生をだいなし
にするような愚かな犯罪など、あまりしなかったのではないでしょうか。
しかし現代では、「自分の心を見せない技術」を身につけた人間が多くなった
ような気がします。
「心の仮面」をかぶっているというか、自分の本心を絶対に見せないような人間
が、増えているのではないでしょうか。
また、公務員や会社の正社員など、収入と生活が安定しているにもかかわら
ず、少額の横領や収賄、あるいは女性に対する破廉恥な行為などの「おろかな
犯罪」で、職業と人生を棒にふっています。
このように現代では、むかしに比べるとずいぶん、「人は見かけによらなく」なっ
てしまったように思います。つまり、人間が解りにくくなったのです。
* * * * *
ところで、テレビや新聞の世界だけでなく、私の実体験でも、人が見かけによら
なくて驚いたことが何度かありました。
たとえば、ヤクザや暴力団の人間だって、「見かけ」だけでは全く分からないこと
があったのです。
それは以前に、私が銭湯に行ったときに経験しました。脱衣場で服をぬいでいた
とき、私のすぐ隣に、メガネをかけた知的でまじめそうな好青年がいたのです。ま
るで、優秀な大学院生か助手のような顔つきでした。
しかし彼の上半身が裸になると、背中の全体に立派な入れ墨があったのです。
私のすぐ目の前に、いきなりど迫力の入れ墨の絵が広がりました。そのとき私は、
ずいぶんと驚いたものです。
(しかし入れ墨があったからといって、その人間が「悪い人間」であるとは限らな
いのですが・・・。)
また私はあるとき、住んでいた下宿の近くで強盗事件があり、私服警官に職務
質問をされたことがありました。
しかしその刑事の「見かけ」は、乗りのよさそうなチンピラの兄ちゃんだったの
です。
あやしい人物が、とつぜん私に声をかけて呼び止め、近くに駆けよってきまし
た。私はとてもいぶかしく思い、心を身構えていました。カツアゲでもされるのか、
映画かスポーツ観戦のチケットでも売りつけられるのかと思っていたのです。
そうしたら、いきなり警察手帳を見せられました。私はそのときも、ずいぶん
驚きました。
またあるとき、私が散歩をしていると、向こうからホームレスのような人が歩い
てきて、私とすれ違いました。
髪はのびてバサバサ、髭がボウボウ、顔は真っ黒・・・。コンビニの弁当らしき
ものを何個か、ビニールの手さげ袋に入れて持ち歩いていました。見るからに
ホームレスそのものです。
ところが私とすれ違ったあとに、「あの人はどこへ行くのかな」と何気なく思い、
私は後ろをふり返ってみたのです。そうしたらその人は、すぐ近くにあった立派な
邸宅に、玄関から堂々と入って行ったのです。あの立派な家は、その人のもの
であることは間違いありません。ホームレスなどでは、全くなかったのです。
このように私の実体験でも、「人は見かけによらないなあ!」と思うことが結構
ありました。
* * * * *
本当に今の時代は、身なりや職業だけで人を判断してはならないと思います。
会社の重役や社長、医師や大学教授など、身なりや職業が立派だからと言っ
て、その人間の「人格」も立派だという保障はどこにもありません。だから、そのよ
うな人間を簡単に信用してはダメなのです。
また、無職やホームレスの人間だからといって、そのような人間をすべて疑って
かかるようなことをしてもなりません。
人を「見た目」だけで判断するのではなく、
人間性や人格を見ぬくような、するどい観察眼と感受性。
他人の気持ちや心を理解し、それを的確に把握する能力。
そのような「人を見る目」を養うことが、いまの時代ではとても大切になっている
と思います。
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