悪いことはペイしない 2004年12月12日 寺岡克哉
テレビや新聞などのマスコミ報道を見ていると、不正や犯罪のニュースがじつに多
く目に入ります。
政治家、企業、官庁の不正や汚職からはじまり、横領、詐欺、少女売買春、麻薬、
婦女暴行、強制猥褻、虐待、強盗、殺人・・・。このようなニュースが、毎日のように
目に入ってきます。
しかし、そんな情報に毎日毒されていると、
「不正や犯罪なんか、みんなやっている!」
「みんな、やりたい放題にやっているのだ!」
「オレだけが、まじめに生きるのなんて馬鹿げている!」
「犯罪だろうが何だろうが、オレもやりたい放題にやってやる!」
というような考えに、取りつかれてしまうことはないでしょうか?
少なくとも私は、何かの理由で「やけくそ」になった時は、そのような考えが心を
よぎることがあります。
しかし私は、ここに「情報の罠」が存在するのではないかと思うのです。その罠に
はまり、安易な気持ちで不正や犯罪に手を染める人間も、少なからずいるのでは
ないでしょうか?
* * * * *
世の中は、悪い人間が本当に得をするのでしょうか?
良心をもった正直者は、本当にバカを見るだけなのでしょうか?
しかしちょっと冷静に考えれば、この疑問はすぐに解けるのです。
というのは、不正や犯罪を犯した者が、その後どれほど痛い目にあって苦しんで
いるのかをマスコミは報道しないからです。もちろん、そんな報道をすれば社会的な
問題になるので当然ですが、しかし私は、それが「情報の罠」だと思うわけです。
私たちは、不正や犯罪を犯した人間が、その後どれほど苦しんでいるのかを知る
ことができません。
たとえば企業や官庁、あるいは学校や大学に勤めていた人間の不正や犯罪・・・。
せっかく一生懸命に勉強をして大学を卒業し、一生懸命に仕事をしてまっとうな
社会的地位を獲得したのに、それが一瞬にして吹き飛んでしまうのです。
その地位を獲得するための努力や苦労は、1年や2年という短いものではありま
せん。自分の仕事が信頼されるようになるまで少なくとも5年や10年、幹部クラス
になると何十年もかけて得た地位です。その努力や苦労が、一瞬にして無に帰す
のです! その苦しみは、一体どれほどのものでしょうか。
また、犯罪者が服役を終えて刑務所から出たあと、はたしてまともな仕事につける
のでしょうか。いまの世の中、前科のない人間でも就職はむずかしいのです。
そしてうまく仕事につけたとしても、もし自分に前科があると世間に知られたらどう
なるのでしょうか。前科があると隣近所に知られても、自分も周りの人々も、それま
でのように自然な生活ができるでしょうか。
さらには自分の前科が世間に知られなくても、自分が死ぬまで自責と後悔の念に
苦しめられるのではないでしょうか。
そして犯罪被害者やその家族、さらには犯罪者の家族・・・。これらの人々も、どれ
ほど苦しんでいることでしょうか。その人たちの苦しみも、すべて犯罪者自身にふり
かかってくるのです。
犯罪者は、一生償っても償いきれない人々を、自分の周りにたくさん作ってしまう
のです。
このように少し想像力を働かせただけでも、不正や犯罪が人生において全く
ペイしないことは明らかです。
しかしそれでも、
いまの世の中では、不正や犯罪は「やり得」だ! やった者勝ちだ!
という印象が拭いきれないのではないでしょうか?
毎日のようにマスコミで報道される、あまりにも多い企業や官庁の不正。そして、
理由にならないほどの安易な動機で行われる、暴行、虐待、殺人・・・。
それらを目にすると私はどうしても、いまの世の中にそんな印象をもってしまうの
です。
そのような不正や犯罪が起こるのは、
悪いことは絶対にペイしないし、絶対に損だ!
良心を大切にし、正直に生きるのが、人生においていちばん有利なのだ!
「自分は不正や犯罪を犯すような人間ではない」と、周りの人間から信用されるこ
と。それこそが、人生を有利に生きぬく最大の武器なのだ!
という情報が、あまりにも少なすぎるせいではないでしょうか。
犯罪者は、いかに不幸であり、苦しんでいるのか。
犯罪者は、いかに世間におびえて暮らし、自責と後悔の念に苛まれているのか。
しかも、自分が死ぬまで何十年もずっと・・・。
そのような情報を、もっと世の中に発信していくべきではないでしょうか。
しかしながら犯罪者保護の立場から、犯罪者のその後の人生における不幸や苦し
みを、実際のドキュメントとして報道する訳にはいきません。
だから、そのようなドラマや小説などを、脚本家や小説家はもっとたくさん世の中
に提供するべきだと思うのです。
もしも、そんなストーリーでは商業ベースに乗らないというのであれば、多少の公的
資金を援助しても良いかも知れません。(しかしそれは、国家によるおしつけの道徳
教育や思想教育にならないように注意が必要でしょう。)
とにかく適切な方法で、「悪いことは絶対にペイしない!」という情報を、もっと
たくさん世の中に提供するべきだと思います。
そしてこのエッセイも、その一つになれば幸いです。
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