100点主義について 2004年9月12日 寺岡克哉
むかし私は、自己否定的な人間でした。
生きるのが何となく面倒というか、生きる喜びが感じられなかったのです。
しかし今は、「生きる喜び」を心の底から感じるようになりました。
むかしの私は、なぜ自己否定的になってしまったのでしょうか?
そしてなぜ、今は「生きる喜び」を感じるようになったのでしょうか?
これからしばらくの間、そのことについて「私の個人的な体験」と照らし合わせて考
えて行きたいと思います。
ところで私は今まで、「自分の個人的な体験」をあまり書いても、その体験は私しか
していないのだから、他人に分かるわけがないと勝手に思い込んでいました。
しかしひょっとしたら、全く同じではないにしても、じつは皆さんも私と似たような体
験をしているのではないかと思うようになったのです。
というのは、私の個人的な体験を書いたもの(たとえばエッセイ26の「呼吸ができ
るということ」)に共感してくれる人が少なからずいるからです。
そういえば、たとえば「恋愛小説」なども、それぞれの読者が自分の恋愛体験(片
思いや失恋も含む)と重ねることにより、その小説に真実味や説得力が生まれる
のだと思います。
だから、むかしに私が体験した記憶を掘り起こし、それらと照らし合わせた考察を
することも、けっこう意味があるかも知れないと思うようになりました。
* * * * *
私は、自己否定の起こる原因のひとつに、「完璧主義」というか「100点主義」とい
うのがあるのではないかと思います。
というのは、子供のころの私はテストでいつも100点を目ざしており、少なくとも90
点以上でなければ満足できず、70点や80点では落ち込んでいたからです。
まず第一に、このような「100点主義」が、ちょっとした失敗ですぐにクヨクヨと悩
み、自己否定に陥ってしまう原因のように思うのです。
なぜ、私は「100点主義」になったのでしょうか?
そのいちばん古い記憶を掘り起こしてみると、小学校1年生のときに受けた、初め
ての学力テストのことを思い出しました。
私はそのテストで、50点を取ることを目ざしました。100点のちょうど半分なので、
それがいちばん良い点数だと思ったからです。
50点以下の点数では少なくて嫌だったし、50点以上の点数を取るのは「欲張り
すぎて悪い」と思ったのです。
たぶん、私には妹が一人いて、食べ物でも飲み物でもちょうど半分ずつ分けてい
たので、「半分がいちばん良い!」と思っていたのかも知れません。
そのテストで私は、完全に分かって自信のある問題だけを、ちょうど半分の数だけ
解答し、あとの問題は答えが分かってもわざと書きませんでした
そして、ちょうど50点という自分では理想の点数をとり、母親に自慢して見せまし
た。そうしたら、私の意に反して叱られたのです。50点では点数が悪すぎて、100
点を取らないとダメだと言うのです。
せっかく、自分ではいちばん良い点数を取ったと思ったのに叱られたのです。
もう30年以上も前のことなのに、私がそれを覚えているということは、よほどショッ
クだったのでしょう。
「テストは100点を取らないとダメなのだ!」
そのとき私は、生まれて初めてそれを思い知ったのです。
そしてその後、80点を取っても「ダメだった!」と思うようになり、たとえ90点を
取っても、心から喜べなくなったのです。
それが長年の間にいろいろと影響し、どんな仕事でも全てがうまく行かないと満足
できなくなりました。そして、ちょっとした失敗ですぐにクヨクヨと悩み、自己否定に
陥るようになったのだと思います。
みなさんの中にも、たとえば10の仕事のうち9まで旨くやり遂げても、残りの1つが
旨く行かなかっただけで、仕事のすべてがダメだったと思い込んでしまう人はいない
でしょうか。
そしてまた、日本の社会では10の仕事のうち9まで旨くやっても、残りの1つを失敗
すればそれを集中的に責められ、9の仕事を旨くやったことは評価されないのでは
ないでしょうか。
すべてが出来て当たり前!
すべてが成功して当たり前!
たった1つでも落ち度があれば、仕事の全体が評価されない。
そのような「100点主義」とも言えるような社会風潮が、今の日本にはあるのでは
ないでしょうか。
そしてまた、例えば、
勉強の成績が悪い。
試験に落ちた。
容姿や体格が悪い。
性格が悪い。
話が下手だ。
お金を持っていない。
リストラされた。
定職につけない。
車や家を持っていない。
友だちがいない。
彼女や彼氏がいない。
結婚をしていない。
子供がいない。
怪我や病気で手足が不自由になった。
・・・ ・・・。
・・・ ・・・。
これら、人生において数え切れないほど存在する短所のうちで、自分にたった
1つの短所でもあれば、自分の全人生を否定してしまうような「激しい思い込み」
はないでしょうか。
そのような「100点主義」が、今の日本で自己否定的な人間が増えている一因
のように思うのです。
私が「100点主義」から脱却したいきさつについては、次回でお話したいと思い
ます。
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