生命の肯定とは愛である     2002年5月19日 寺岡克哉


 私は、生命の肯定とは「愛」であると考えています。

例えば、
 異性と結ばれて子供を作ること。
 生まれた子供を守り育てること。
 家族が助け合って平和な家庭を築くこと。
 他人を思いやり、困っていたら助けたあげること。
 悩んでいる人の相談にのったり、悲しんでいる人をなぐさめること。
 医療や食料を充実させ、病気や怪我、飢えで苦しんでいる人を救うこと。
 教育や文化、芸術を普及させること。
 世界の平和を守り、国が異なっていても助け合い、協力し合うこと。
 人間以外の他の生命にも思いやりの心を持ち、助けること。
 死にそうになっていたり、絶滅しそうな生物を救うこと。

 これら、新しい生命を生み、増やし、育てること。または、苦しんだり、弱っていた
り、死にそうな生命を救うこと。あるいは、医療や食料、教育などの、生きるため
の環境を整えること。
 このような、生命全体としての存続と発展を望む、感情や行動が「愛」です。つま
り、「生命」というものの存在を肯定し、生命の存続、増殖、進歩、強化、発展を
志向する生命の活動が「愛」なのです。
 優しさ、思いやり、慈しみ、利他の心、助け合い、平和の維持、これら生命を肯定
する感情や行動は、みな「愛」の仲間です。
 誰かを愛しているとき、動物や植物などの他の生命を愛しているとき、心が愛に
満ちているときなどは、「生きることは素晴らしい!」と感じます。これは、「愛」の
感情が、生命を肯定する感情だからです。

 ところで、この逆を考えれば「生命の否定は憎しみである」と、言うことができます。
 自己否定は、自分の存在を憎むことです。
 生命の否定は、生命の存在を憎むことです。
 暴行、傷害、殺人、戦争、大量殺戮・・・。これら生命を傷つけ、生命の存在を消
し去ろうとする行為。これら「生命の存在を否定する行為」は、「憎しみ」が動機と
なっています。
 怒り、妬み、嫉妬などの感情も、「生命の否定」を招くという点で、憎しみと同じ仲
間の感情です。

 以上のように、「生命の否定が憎しみである」ことを考えれば、「生命の肯定が愛
である」ことを納得して頂けるかと思います。
 生命の肯定とは「愛」です。「生命を肯定する」とは、生命を愛すること、生きるこ
とを愛することなのです。

 しかしながら、注意が必要です!

 世間一般で「愛」と呼ばれるものの中には、周囲に苦しみと不幸をまき散らすよ
うな愛も多々存在するからです。
 例えばエゴイズムをむき出しの、利己主義に狂奔する自己愛や、恋愛感情を貪
るだけの恋愛、性的快楽を貪るだけの性愛などです。
 また、もっとスケールの大きな場合では、宗教戦争を起こすような「神への愛」や、
世界大戦を起こすような「国家や民族への愛」などがあります。

 これらのものは、みな「間違った愛」と言えるものです。

 「愛」には、「正しい愛」と「間違った愛」が存在するのです。
 ところで、「正しい愛」と「間違った愛」は、愛の「感情」としては全く同じものです。
愛する対象(自己、他人、国家、神など)も同じです。愛するもののために、自分
の命をも犠牲にしてしまう場合があるところも、全く同じです。
 しかしながら、「間違った愛」は愛するもののことしか目に入りません。それ
以外のものは、全く無視したり、逆に強い憎悪を向けたりします。
 だから「間違った愛」は、多大な苦しみと不幸を周囲にまき散らすのです。

 自分の快楽や欲望を満足させるために、周囲の人間を苦しめたり、最悪の場
合には人を殺してしまうような、自分勝手で利己的な自己愛。
 家庭を壊したり、妻子を捨てたり、妊娠中絶で胎児を殺してしまうような、恋愛や
性愛。
 国家の利益や威信のために、他国の人間を殺戮してしまうような、国家への愛。
 自分達の信じる神を尊敬するあまり、その神を信じない人間や、他の神を信じ
ている人間を抹殺してしまおうとするような、神への愛。

 これらのものは、結局は「生命の否定」を招いてしまいます。外見上は、自分や
自分達の生命を率先して肯定しているように見えます。しかし結局は、自分や自
分達をも苦しめ、不幸にしているのです。
 他の生命を否定しておきながら、自分や自分達の生命だけを肯定するのは不可
能なのです。生命現象には、そのような「生命の法則」が働いているのです。
 古代インドで「利他」や「慈悲」の概念が発生したり、キリストが「敵を愛せ!」と言
ったのも、生命には、このような「生命の法則」が存在しているからです。

 前で、「生命の肯定とは愛である」と言いましたが、全ての愛が生命を肯定する
訳ではありません。

 生命を肯定するのは、「間違った愛」ではなくて、「正しい愛」なのです。



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