神の御業 19
                               2025年12月14日 寺岡克哉


19章 言語の獲得
 人類は、言葉(言語)を使用することにより、他の動物には及びもつかない、ものすご
く高度な進化を遂(と)げることができました。おそらく言語を使用することが一因となっ
て、脳もより一層高度に進化したのだと思います。

 しかしなぜ、人類は言語を獲得することが出来たのでしょう?
 ここでは、そのことについて見て行きたいと思います。

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 それではまず、人類が言語を使用するようになったのは、一体いつ頃なのでしょう?
 この問題については、以下のように考えられています。

 まず、私たちの直接の祖先である新人(現生人類)は、およそ20万年前のアフリカに
出現しましたが、彼らの一部がおよそ6万年前にアフリカを出て、世界中に広がって行っ
たことが知られています。
 というのは、現在において人類は世界中に広く分布していますが、それらの人々のDN
Aを分析することにより、私たちの祖先がおよそ6万年前にアフリカを出て、世界中に広
がったことが分かったからです。

 一方、世界の言語を学問的に調べると、世界のあらゆる言語において、ある種の共通性
が見いだせることから、人類最初の言語(言語の起源)は、おそらく一つであったと考え
られています。
 たとえば英語と日本語とでは、ずいぶん異なる言語のように思えますが、言語学的に調
べると共通性が見いだせるそうです。

 これら、上で紹介したDNAと言語学の研究を比較することにより、最初の言語は、新人
(現世人類)が世界に広がる6万年よりも前、おそらく、およそ10万年から8万年ほど前
に出現したのではないかと推定されています。

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 ところで、人類が言語を獲得できたのには、「直立二足歩行」と深い関係があるみたい
です。

 つまり直立二足歩行を行うことで、重力によって気管や肺が下降し、それに伴って喉頭
(こうとう)の位置も下がり、咽頭(いんとう)が広くなったのです。
 ここで喉頭とは、いわゆる「のどぼとけ」の位置にある器官で、気管の入り口にあたり
ます。また咽頭とは、鼻の奥から食道の入り口までの部位で、食べ物や空気が通る管(く
だ)のことを指します。この咽頭が広くなることにより、複雑な音声を出すことが可能に
なりました。

 このように人類は、直立二足歩行により喉(のど)の構造が変化して、飲食物と呼吸が
同じところを通るようになってしまいました。これは、まかり間違えば食べ物で窒息死し
たり、誤嚥(ごえん)性肺炎になってしまう構造です。
 しかしながら、飲食物と呼吸の経路を切り替えるため、口腔(こうくう:舌、くちびる、
あご)、喉頭、咽頭の各筋肉を高度に制御する必要が生じ、脳や筋肉が極度に発達したの
です。そして、その発達した脳と、口から自由に呼気を出せるようになった喉の構造の変
化により、複雑で多様な発音ができるようになったわけです。

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 ちなみに、およそ700万年前に出現した猿人も、直立二足歩行をしていました。
 しかしながら猿人は、言語を使えなかったとされています。猿人の時代には、まだ身振
り手振りで情報のやりとりをしていたと考えられています。

 また、およそ200万年前に出現した原人は、「叫び声」から「言語」に進化する段階にあ
たる原始的な言葉を使っていたと考えられていました。が、しかし、最近では否定的な意
見も出されて疑問視されており、それを明確に主張できないというのが実情です。

 やはり、複雑な言葉を操(あやつ)ることが出来るようになったのは、およそ20万年
前に出現した新人になってからというのが、現在のところ有力な説になっています。

 このように、直立二足歩行をするようになったからと言って、すぐに言語が使えるよう
になった訳ではありません。人類が言語を獲得するためには、口や喉や脳が発達する必要
があり、そのため直立二足歩行を行うようになってから後、およそ690万年もの歳月を必
要としたのです。

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 ところで、「言語を獲得する前」の人類が発達するためには、遺伝子の変化による「脳
の進化」を待たなければなりませんでした。そのため何百万年もの間、人類の発達はもの
すごく、ゆっくりとしたものでした。

 ところが、言語を操ることができるまでに脳が進化すると、その後の人類の発達は、も
はや遺伝子の変化による「脳の進化」に縛(しば)られることが無くなりました。つまり、
言語化された情報(いわゆる知識)が増えて行くだけで、人類の生活や文化がどんどん爆
発的に発達するようになったのです。そして、他の動物には及びもつかない、ものすごく
高度な文明を築(きず)くことができた訳です。

 私は、このように人類が言語を操れるように進化できたことに対して、「これは神の御
業だったのだ!」と感じずにはいられないのです。



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