神の御業 13
2025年11月2日 寺岡克哉
13章 多細胞生物の出現
私たちの目に見える大きさの生物、つまり「多細胞生物」が出現したのは、今からおよ
そ10億年前だと言われています。
ちなみに、地球に最初の生命が誕生したのは40億年前ですから、それから30億年も
の間ずっと、生物は目に見えない小さな「単細胞生物」だったわけです。
しかしながら、なぜ単細胞生物は、多細胞生物になろうとしたのでしょう?
その最大のメリットは、捕食されることの回避だと考えられています。つまり生物は、
大きくなればなるほど強くなり、捕食される危険が少なくなるのです。だから生命進化の
過程において、多細胞化による大型化が不可避であったと思われます。
また、単細胞生物が個別に食物を取るよりも、多くの細胞が共同して食物を取った方が、
細胞1個あたりの分け前が多くなって、効率的であったと考えられます。
さらには多細胞化により、単細胞では限界のあった複雑な構造と機能が持てるようにな
りました。つまり、筋肉や脳、目、心臓など、特定の機能を持つ器官の形成が可能になっ
たわけです。そうすると、目で見て敵や獲物を見つけ、脳で判断し、足やヒレを動かして
逃げたり追いかけたりすることが出来るようになりました。
このように、単細胞生物から多細胞生物への進化によって、大型化し、栄養の摂取を効
率化し、運動性能を向上させることで、生存競争において有利な立場になったわけです。
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ところで、多細胞生物が誕生するためには、いくつかの条件があります。
たとえば細胞同士が接着したり離れたりするのをコントロールできることや、細胞同士が
連絡を取る機能があることなどです。
また、細胞がいろいろな部位に分化して役割を持ち、協調しながら働くことが求められ
ます。つまり1つの生命体として統制が取れることが必要なのですが、多細胞生物にはそ
れを実現する遺伝子が必要になります。
つまり、脳を持つためには脳を作る遺伝子が必要であり、心臓を持つためには心臓を作
る遺伝子が必要になります。さらには、それら脳や心臓の働きを維持し、調整するための
遺伝子も必要になるのです。
このため、多細胞生物になるためには、「大量の遺伝子」が必要になります。
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そのような「大量の遺伝子(DNA)」を安定に保持できるようになったのは、「細胞
核」をもつ細胞(真核細胞)が出現したからです。
「細胞核」とは、細胞の中に存在する小さな器官の一つで、細胞の司令塔ともいえる存
在です。細胞核は、ある種の細胞(たとえば脳の細胞や心臓の細胞)に特有な働きを制御
したり、その細胞の成長や修復、再生などをつかさどっています。
それらを実行するために、細胞核の中には、たくさんの遺伝子(DNA)が詰まっている
のです。
つまり多細胞生物になるためには、その前に、細胞核をもつ「真核生物」になる必要が
あったわけです。
真核生物の細胞核がどのように出来たのかについては、いろいろな説があります。しか
しながら最も有力な説は、前の12章(エッセイ1233)で述べたように、アーキア
(古細菌)が、酸素を活用できるバクテリア(ミトコンドリアの祖先)を取り込んで細胞
内共生をしたときに、細胞内の組織的な再編成が起こって、細胞核が生じたとするもので
す。
ちなみにアーキアやバクテリアは、細胞核をもたない「原核生物」といわれるものです。
つまり真核生物は、原核生物どうしの共生によって誕生したとするのが、いちばん有力な
説なのです。そしてそれは、今からおよそ20億年前に起こったと考えられています。
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多細胞生物が出現するまでの進化の過程を見ると、原核生物が出現したのは約40億年
前で、真核生物が出現したのは約20億年前。そして多細胞生物が出現したのは約10億
年前となります。
ところで地球に安定した海ができてから、少なくても数億年で最初の生命が誕生したの
を考えれば、単細胞生物から多細胞生物に進化するのに30億年もの時間を必要としたの
は、それ(生命の誕生)よりも、すごく大変なことだったのかも知れません。
また、ナメクジのような生物から、人類までの進化に必要とした時間が6億年ほどです
から、単細胞生物から多細胞生物への進化は、それよりも大きなブレイクスルー(困難の
突破)だったと考えられます。
もしも、進化によって多細胞生物が出現しなかったら、生物は脳を持つことが無く、人
間のような高等生物も生まれず、「自我意識」も誕生しなかったでしょう。
単細胞生物から、いかにして多細胞生物に進化できたのか、じつは本当の所はまだ良く
分かっていません。が、しかしそれは、ものすごく奇跡的な出来事であるのは確かであり、
私には「神の御業」であるとしか思えないのです。
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