神の御業 10
                               2025年10月12日 寺岡克哉


10章 生命の誕生
 地球に「生命」が誕生したのは、今からおよそ40億年前だと言われています。
 というのは、およそ40億年前の古い地層において、生命の痕跡(こんせき)が見つかっ
ているからです。あまりに古いので、どのような生物なのか分かっていませんが、生物に
由来する炭素が岩石の中に残っていたといいます。

 ちなみに、地球が誕生したのは46億年前ですが、誕生したばかりの地球には、直径が
10キロメートルほどの「微惑星(びわくせい)」というのが頻繁に衝突しており、その
衝突のエネルギーが熱に変わって、地球の表面はドロドロに溶けた1000℃以上の溶岩
に覆(おお)われていました。これでは、とてもじゃないけれど生命が誕生できる環境で
はありません。

 微惑星が衝突しない期間が長くつづくと、溶岩が冷えて固まります。そして大気上層の
温度が400℃以下になったところで、最初の雨が降(ふ)りました。しかし、この雨は
地面にとどく前に蒸発してしまいます。
 さらに大気の温度が下がり、地面の温度が400℃以下になったところで、はじめて地
面に雨が降ったといわれています。しかし、この雨も蒸発したり地面に浸(し)みこんだ
りして、すぐに消えてしまったことでしょう。
 さらに地球の温度が下がると、雨が水たまりになり、やがて海ができました。最初の海
は、少なくても地球が生まれてから2億年後の、今から44億年前には誕生したといわれ
ています。

 しかしこの頃、まだ微惑星が何度か地球に衝突しており、その熱で海が何度も蒸発した
と考えられます。
 しばらくして微惑星の衝突がおさまり、ようやく海が安定して存在できるようになりま
した。こうして地球の環境が落ち着いたところで、およそ40億年前に、ついに生命が海
の中で誕生したと考えられています。

              * * * * *

 ところで生命が誕生するときには、まず無機物から有機物が合成され、さらに有機物が
複雑に結合することで、ついに生命体が生まれたとする説がいちばん有力です。

 ここで「無機物」とは、「炭素を含まない物質のすべて」を言います。
 しかし例外として、ダイヤモンドなどの炭素そのものや、一酸化炭素、二酸化炭素、炭
酸カルシウムなどは、炭素を含んでいるけれど無機物とされています。
 また、無機物の具体的なものとしては、鉄、アルミニウム、銅、酸素、水素、窒素、硫
黄、水、食塩、ガラス、砂、その他さまざまな元素など、炭素を含まない物質はすべて無
機物です。
 なお、「無機」という言葉には「生命力を有さない」という意味があります。

 一方「有機物」とは、基本的に炭素を含む物質です。
 しかし上で述べましたが、例外としてダイヤモンドなどの炭素そのものや、一酸化炭素、
二酸化炭素、炭酸カルシウムなどは、炭素を含んでいるけれど無機物とされています。
 また、有機物の具体的なものとしては、砂糖や片栗粉、アルコール、プラスチック、木、
紙、洋服の繊維、ロウなどが挙げられます。そして生物の体を作っている、タンパク質や
脂肪、DNA、RNAなども有機物です。
 ちなみに有機物は、燃やすと黒く焦げて炭になり、二酸化炭素が発生するという性質が
あります。たとえば砂糖を加熱すると、最終的には真っ黒に焦(こ)げて炭になってしま
います。しかし無機物である食塩は、いくら加熱しても真っ黒に焦げることはありません。
 また、有機物の「有機」には「生命を有すること」という意味があり、もともと有機物
は「生物がつくりだす物質」と定義されていました。たとえば有機物である砂糖は、サト
ウキビやテンサイといった命ある植物からつくられています。
 しかし現在では化学の発達により、植物などの生命を利用しなくても、多くの有機物が
作り出せるようになっています。

              * * * * *

 さて、生命が誕生するためには、まず「無機物」から「有機物」が合成されなければな
りません。

 太古の地球において、無機物から有機物が合成された場所は、「熱水噴出孔(ねっすい
ふんしゅつこう)」だったのではないかと考えられています。この「熱水噴出孔」とは、
海底の岩石にしみこんだ海水が、海底火山の熱で温められて、海底の裂(さ)け目から噴
出する場所です。
 この説を支持する根拠として、近年(2020年)の室内実験において、「熱水噴出孔」
と同じような環境を設定すると、水素と二酸化炭素から容易に有機物が合成されることが
発見されました。
 つまり、熱水噴出孔付近に蓄積したと考えられる鉱物と共に、原始の地球環境を模擬し
た多様な条件で、水素と二酸化炭素と水を反応させたところ、ギ酸や酢酸、ピルビン酸な
ど、初期の生命を作りだす基(もと)になったと考えられる有機物が合成されたのです。

 そして一方、上とは別の話として、宇宙から降ってくる「隕石」の中からも、アミノ酸
などの有機物が見つかっています。
 たとえば1969年に、オーストラリアのビクトリア州マーチソン付近に落下した隕石
(マーチソン隕石)からは、70種類以上のアミノ酸が検出されています。そのうち8種
類のみが、地球の生物が有しているアミノ酸と同じものであり、残りは地球上にあまり存
在しないか、まったく見い出されないものであったといいます。
 このことから、マーチソン隕石から見つかったアミノ酸は、もともと地球に存在してい
たアミノ酸によって汚染されたのではなく、宇宙で作られたアミノ酸であることが分かる
のです。
 さらにはマーチソン隕石だけでなく、その他の隕石や、彗星の塵(ちり)などからも、
有機物が見つかっています。

 以上のことから、地球上でも宇宙でも、無機物から有機物が合成されるのは、わりと容
易だったのではないかと考えられます。

              * * * * *

 つぎに生命が誕生するためには、無機物から合成された有機物が、何らかの理由で濃縮
され、それらが複雑に結合することにより、栄養を摂取したり自己複製をするなどと言っ
た「生命の機能」を持つものが発生しなければなりません。

 が、しかしながら、無機物から有機物そして生命が発生するという一連の現象は、
 この地球上でさまざまな自然現象が膨大に起こっており、その自然現象を観察している
人間が膨大な数に上っているにもかかわらず、今まで一度も自然界で観察されたことがあ
りません。

 また、無機物から有機物そして生命が発生したという説が唱(とな)えられて以降、そ
の一連の現象を実験室で再現しようと、たくさんの科学者たちにより、太古の地球環境を
実験室で設定した、とても数多くの実験が行われてきました。
 しかし、それにもかかわらず、「無機物から有機物そして生命が誕生する一連の現象」
は再現できていません。

 このように「生命の誕生」というのは、ものすごく起こりにくいことであり、まさに奇
跡的な出来事なのです。

 ゆえに、地球に生命が誕生したのは、それこそ「神の御業」であるとしか私には考えら
れません。



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