神の御業 7
                                2025年9月21日 寺岡克哉


7章 超新星爆発
 前章(エッセイ1227)で、恒星内部における核融合反応では、鉄の原子核までしか
作られないことを述べました。
 それでは、鉄よりも質量の大きな原子核は、一体どのようにして作られたのでしょう?

 この疑問にたいする一つの答えとして、「超新星爆発」というのが挙げられます。
 典型的な「超新星爆発」とは、太陽の10倍以上の質量を持った恒星の「寿命」が尽
(つ)きたときに、大爆発を起こす現象です。そのような超新星爆発が起こったときの光
は、太陽の数億倍の明るさに達すると言います。

 恒星の寿命が尽きた現象なのに、超“新星”というのは、地球から観測していると、暗く
て見えなかった星が、とつぜん明るく光り出して、あたかも新しい星が生まれたかのよう
に見えるので、そのように呼ばれています。

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 それではなぜ、超新星爆発によって、鉄よりも質量の大きな原子核ができるのでしょう?

 それは、超新星爆発が起こるときに、大量の「中性子」ができるからです。
 そして鉄の原子核が、それらの中性子を一度にたくさん吸収するからです。
 中性子は電気を持たないので、プラスの電気を持っている「鉄の原子核」と反発しませ
ん。そのため中性子は、核力が働く距離まで、鉄の原子核に容易に近づくことができるの
です。

 しかしながら、たくさんの中性子を吸収した「中性子過剰の鉄原子核」は、あまりにも
中性子が多すぎて「不安定」なので、一部の中性子が電子を放出して陽子に変わります
(β-崩壊)。そして、陽子と中性子の数のバランスがとれた、安定した原子核になるので
す。

 このようにして、最初に吸収した中性子の数に応じ、金やウランなどさまざまな種類の
原子核が作られて行ったのです。

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 それではなぜ、超新星爆発が起こるときに、大量の「中性子」ができたのでしょう?

 その理由は、まず恒星の中心部で「鉄の原子核」が作られた時点で、核融合反応が止まっ
てしまいます。そうすると、核融合反応の熱エネルギーによる膨張と、重力による圧縮の
バランスが崩れて、重力の方が強くなります。そして重力による圧縮が進むようになり、
その圧縮によって恒星中心部の温度が高くなります。

 そして温度がおよそ100億℃を超えると、その高い温度のために、光の一種であるガ
ンマ線が発生するようになります。そのガンマ線を、鉄の原子核が吸収すると、13個の
ヘリウム原子核と、4個の中性子に分解してしまいます。それを「鉄の光分解」といいま
す。

 つまり、超新星爆発が起こるときには、「鉄の光分解」によって大量の中性子ができる
わけです。
 しかしながら、光分解をしていない鉄もたくさん存在するわけで、それらが中性子を吸
収して「中性子過剰の鉄原子核」になり、さらにそれがベータ崩壊して、鉄よりも質量の
大きな原子核になって行くわけです。

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 つぎに、超新星の大爆発が起こる理由ですが、
 上で述べた「鉄の光分解」が起こると、鉄の原子核の質量よりも、13個のヘリウム原
子核と4個の中性子の質量の合計の方が大きくなります。つまり質量欠損とは反対の、質
量収益とも言えるような現象です。
 その質量が増えた分は、どうやって補(おぎな)うかというと、重力による圧縮で生じ
た熱エネルギーを吸収することで補います。つまり熱エネルギーが質量に変わるわけです。

 このようにして、熱エネルギーがどんどん吸収されて行くので、重力による圧縮に対抗
するための、熱エネルギーによる膨張が起こらなくなります。そうすると、重力による圧
縮が急激に進んで行きます。

 しかしながら、もう、これ以上は圧縮できない密度(原子核と同じぐらいの密度)に到
達すると、それまで急激に進んでいた圧縮にたいする「はね返り」が起こります。この
「はね返り」が引き金になって、超新星爆発が起こると考えられています。

 ちなみに「鉄の光分解」によって、重力による圧縮が急激に進むことを「重力崩壊」と
言いますが、重力崩壊が始まってから「はね返り」が起こるまでの時間は、わずか1秒以
内だとされています。だから、この「はね返り」は、ものすごく凄(すさ)まじいものと
なります。

 全体のイメージをしやすいように、すこし具体的に説明すると、
 たとえば太陽の質量の16倍ぐらいの恒星の場合、超新星爆発が起こる直前には「赤色
巨星」と呼ばれる状態になっており、大きさは太陽の1000倍(半径7億キロメートル)
ほどあります。(地球と太陽の距離が1億5000万キロなので、その4.7倍にもなり
ます。)

 そして一方、鉄の原子核が密集している部分(鉄のコア)は、恒星の中心から半径20
00キロメートルの範囲であり、恒星の全体から見れば、ずいぶん小さな範囲です。しか
し、その範囲の中に、太陽の質量(2×1030kg)の1.5倍もの鉄が存在しており、密度
は1立方センチ当たり90トンにもなります。

 さらに一方、重力崩壊をしても、これ以上は圧縮できない密度というのが、1立方セン
チ当たり5億トンと言われており、それは「鉄のコア」の560万倍もの密度になります。
 密度が560万倍ということは、圧縮によって体積が560万分の1になるということ
なので、その大きさは「鉄のコア」の半径(2000キロメートル)の、560万の立方
根分の1になります。それを計算すると11.3キロメートルです。

 つまり、1立方センチ当たり90トンもの質量がある、半径2000キロメートルもの
大きな球体が、重力崩壊によって、わずか1秒以内に、半径10キロぐらいにまで圧縮さ
れるのです。その反動(はね返り)たるや、想像を絶するほどです。

 超新星爆発の「引き金」とは、そのような、ものすごく凄(すさ)まじい現象なのです。

              * * * * *

 さて、このような超新星爆発によって、さまざまな「元素」が宇宙空間にばらまかれま
した。
 ばらまかれた元素の大半は「水素」ですが、それは次の世代の「恒星」が生まれるため
の原料となりました。
 しかし中には、炭素、酸素、窒素、硫黄、リンなど、生命を維持するのに必要不可欠な
元素や、あるいは鉄やシリコンや金など人類の文明を支えている元素、そしてウランのよ
うに地熱のエネルギー源となっている元素もあったのです。

 つまり「超新星爆発」という現象が存在しなかったら、地球のような星が出来なかった
し、生命も誕生しなかったし、私たち人類も存在しなかったわけです。

 ゆえに、これぞまさに「神の御業」であるとしか言いようがないのです。

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 追補
 じつは、鉄よりも質量の大きな原子核が、超新星爆発によって作られたのは、全体のお
よそ半分ぐらいだと言われています。

 あとの半分は、超新星爆発が起こらない、質量の小さな恒星(太陽の質量の2倍~8倍
の恒星)の内部で、ゆっくりと100万年ほどの時間をかけて中性子を吸収して行くこと
で、鉄よりも質量の大きな原子核ができたと考えられています。
 つまり恒星の内部では、核融合反応によって炭素13(陽子6個、中性子7個)という
原子核も作られるのですが、この炭素13と、ヘリウム(陽子2個、中性子2個)が核融
合反応をすると、酸素(陽子8個、中性子8個)と中性子1個が作られます。
 そのようにして出来た中性子を、1個、また1個と吸収して行き、100万年ほどの時
間をかけて、だんだんと鉄よりも質量の大きな原子核へと成長するのです。たとえば、あ
る原子核が1個の中性子を吸収したら、その同じ原子核が、つぎにまた1個の中性子を吸
収するのは1000年後ぐらいだと言われています。それほど中性子の数が少なく、原子
核と中性子の出会う機会がないのです。
 超新星爆発による中性子の吸収では、1秒以内に200個近くもの中性子を吸収する場
合があるのに、それと比べれば本当にゆっくりとしたペースです。

 ところでまた、「中性子星の衝突」によって、鉄よりも質量の大きな原子核が作られた
という説もあります。
 超新星爆発が起こった後には、半径10キロメートルほどの「中性子星」というのが出
来ますが、それは爆発の圧縮によって作られた中性子の塊(かたまり)で、その密度は1
立方センチ当たり10億トンにもなります。
 そのような中性子星が、連星(お互いに回り合う双子の星)だった場合、重力波を放出
することで回転のエネルギーを失っていき、少なくても1000万年という時間をかけて
近づき、最後に衝突して合体するといいます。
 その合体の際に、鉄の原子核よりも質量の大きな原子核ができると考えられています。



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