神の御業 5
                                 2025年9月7日 寺岡克哉


5章 質量欠損 その1
 ここでは、「質量欠損(しつりょうけっそん)」という現象について述べますが、その
前にまず、「質量」について説明したいと思います。

 たとえば・・・以前に「物体の “重さ” が重ければ重いほど、重力が強くなる」と説明
しましたが、じつは「物体の “質量” が大きければ大きいほど、重力が強くなる」という
のが、本当に正しい説明となります。

 するとここで、「重さ」と「質量」は、いったい何が違うのか? という疑問が生じま
すが、この疑問に対して簡単に説明すると、「 “重さ” は台秤(だいばかり)で測った値
であり、 “質量” は天秤(てんびん)で測った値である」となります。

 たとえば1kg(キログラム)の金塊があったとして、これを台秤で測った場合、地球で
測るともちろん1kgという値ですが、火星で測ると重力が弱いので0.38kgという値になり、
月で測るとさらに重力が弱いので0.17kgという値になってしまいます。だから台秤で測っ
た値(つまり重さ)は、重力の強さによって変わってしまうのです。

 ところが、天秤で1kgの金塊とつりあうのは1kgの分銅(ぶんどう)であり、それは地
球でも火星でも月でも、1kgの金塊とつりあうのは1kgの分銅です。だから天秤で測った
値つまり「質量」は、重力の強さによって変わることがなく、「その物体が有している物
質のそのものの量」を表しているのです。

              * * * * *

 さて、「質量」の説明が終わったので、つぎに「質量欠損」の説明をしたいと思います。

 一般に、比較的質量の小さな2つ以上の原子核が「核融合反応」をすると、新しく作ら
れた原子核の質量は、元の原子核の質量の合計よりも小さくなります。この質量の減少を
「質量欠損」といいます。

 たとえば太陽などの恒星の内部では、核融合反応によって4つの水素原子核から1つの
ヘリウム原子核ができます。このとき、4つの水素原子核の質量の合計は6.690×10−27 kg
です。が、しかし、1つのヘリウム原子核の質量は6.645×10
−27 kgしかないのです。この
差である0.045×10−27 kg=4.5×10−29 kgが「質量欠損」となります。
(4.5×10−1は0.45という意味であり、4.5×10−2は0.045という意味なので、4.5×10−29 kg
の質量欠損というのは0.000000000000000000000000000045 kgの質量欠損という意味です。)

 ところで、なぜ比較的質量の小さな原子核が「核融合反応」をすると、このような「質
量欠損」が生じるのかは、ものすごく不思議な現象であり、「神の御業」であると言うし
かありません。

              * * * * *

 ところで一方、アインシュタインの相対性理論によると、質量がエネルギーに変わると
きや、エネルギーから質量が生み出されるときには、質量とエネルギーの間で、ある一定
の関係が成り立つとしています。

 それは、エネルギー = 質量×光の速さ×光の速さ という関係です。

 ここで上の話にもどり、核融合反応によって4つの水素原子核から1つのヘリウム原子
核が作られたとき、4.5×10−29 kgの「質量欠損」が生じました。

 この4.5×10−29 kgの「消えた質量」は、一体どうなったのでしょう?

 それは、消えた分の質量が「エネルギー」に変わって外に放出されたのです。
 4.5×10−29 kgの質量がエネルギーに変わると、光の速さは秒速3×108 メートル(つま
り秒速300000000メートル)なので、

 エネルギー = 質量×光の速さ×光の速さ
 = 4.5×10−29 × 3×108 × 3×108 = 4.05×10−12Jとなります。

 ここでJ(ジュール)というのは、エネルギーを表す単位です。
 このJという量を感覚でも分かるように示すと、たとえば質量1kgの物体を、地球上で
1メートルの高さまで持ち上げるのに必要なエネルギーは9.81Jです。
 あるいは、1リットルの水の温度を、1℃上げるのに必要なエネルギーは4184Jとなり
ます。

 上で計算したように、アインシュタインの相対性理論を使えば、「質量がエネルギーに
変わるとき」に、どれぐらいの質量が、どれぐらいのエネルギーに変わるのかは、計算に
よって厳密に解かります。
 が、しかし、「どうして質量は、エネルギーに変わることが出来るのか?」という疑問
については、ものすごく不思議な現象であり、「神の御業」であるとした言いようがない
のです。

              * * * * *

 ところで「太陽」は、核融合反応によって1秒間あたり、およそ430万トンの質量を、
およそ3.8×1026 J のエネルギーへ変換しています。

 この、1秒間あたり3.8×1026 J というエネルギーを感覚的に表すと、「地球の海全体」
と同じ量の水を、たった1秒間のうちに、およそ65℃上昇させる(つまり10℃の冷た
い水を75℃の熱い湯にする)エネルギーに相当します。

 その莫大(ばくだい)な太陽エネルギーは、遠く離れた地球にも降りそそぎ、光合成に
よって植物を育て、ひいては地球の生物全体の命を支えています。

 もしも、「質量欠損」という現象が存在しなかったら・・・
 そしてもしも、「質量がエネルギーに変わる」という現象が存在しなかったら・・・
 もしも、そうだったら、太陽が輝くことはなく、地球の生命がこんなに繁栄することも
できず、人類である私たちも存在しなかったでしょう。

 ゆえに、「質量欠損」と「質量がエネルギーに変わる」という、ものすごく不思議な現
象は、まさに「神の御業」による奇跡であるとしか言えないのです。



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