神の御業 3
                                2025年8月24日 寺岡克哉


3章 原子の存在
 前の2章で、ビッグバン直後の対生成では、物質と反物質は完全に同じ量ではなく、物
質の方が反物質よりも約10億分の1だけ多く生み出され、そのおかげで対消滅を逃(の
が)れた物質だけが残ったと述べました。

 このとき「残った物質」というのは、具体的に言えば陽子と中性子と電子です。
 たとえばビッグバンが始まってから0.0001秒後では、宇宙の大きさが半径30キ
ロに膨張し、宇宙の温度は1兆℃という高い温度でした。このような高温状態では、陽子
と中性子と電子が、それぞれバラバラに存在していました。

 しかし、ビッグバンが始まって3分後になると、宇宙の大きさが半径5400万キロに
まで膨張し、宇宙の温度が10億℃ぐらいに冷えました。これぐらいの温度になると、陽
子2つと中性子2つが結合して、ヘリウム原子核が作られるようになります。
 しかし、すべてがヘリウム原子核に変わったわけではなく、「重量比」にして全体のお
よそ75%が水素原子核(つまり陽子1つ)のままで、およそ25%がヘリウム原子核
(つまり陽子2つと中性子2つが結合したもの)になりました。
 しかしそれは重量比であり、ヘリウム原子核の重さは、陽子と中性子がほぼ同じ重さな
ので水素原子核の4倍となり、それを考慮して「原子核の数」で比べると、水素原子核が
全体の92%で、ヘリウム原子核は8%ほどにしかなりません。
 そして一方、電子はどうなのかと言えば、10億℃という高い温度では、あいかわらず
バラバラの状態でした。

 ところが!
 ビッグバンが始まってから、およそ40万年後になると、宇宙の大きさが半径およそ
40万光年(太陽系が存在する天の川銀河の8倍ぐらいの大きさ)に膨張し、宇宙の温度
が3000℃ぐらいに冷えました。
 この温度まで冷えると、陽子はプラスの電気を持っており、電子はマイナスの電気を持っ
ているので、水素原子核やヘリウム原子核は、バラバラに存在していた電子を近くに引き
寄せて束縛し、電気的に中性な水素原子やヘリウム原子となりました。
(ちなみにヘリウム原子核が、陽子と陽子の反発力によって分解しないのは、電気の反発
力よりも強い「核力」という引力が働いているからです。)

 さてここで、一つの疑問が生まれます。
 それは、なぜ電子が原子核に落ちてしまわないのか? という疑問です。
 つまり原子核と電子は、電気の力によって引き合っているので、いつか電子が原子核に
落ちてしまっても不思議ではありません。が、しかし、そうはならないのです。

 その原因には、量子力学という学問の分野で発見された「不確定性原理」というのが関
係しています。
 不確定性原理とは、(電子の位置の不確定さ)×(電子の速さの不確定さ)が、ある一
定の値よりも大きくなるという法則です。
 この不確定性原理によって、電子の位置と速さを、同時に厳密に決定することは、原理
的にできません。なぜなら「電子の位置」を正確に決めようとすればするほど、「電子の
速さ」がどんどん不確定になってしまうからです。とても不思議で理解し難(がた)い話
ですが、「この世界」は原理的に、その様になっているのです。

 そして不確定性原理によれば、電子が原子核に落ちない理由を、次のように説明するこ
とができます。
 つまり電子を、原子核と接触するぐらいの非常に小さな場所に閉じこめようとする(位
置の不確定さを小さくする)と、「速さの不確定さ」が大きくなるので、電子の平均的な
速さが増します。
 たとえば分かりやすくイメージすると、「位置の不確定さ」が10メートルのとき、
「速さの不確定さ」が秒速0メートルから2メートルの幅だったとします。そうすると、
速さの平均は秒速1メートルになります。
 ところが、「位置の不確定さ」を1メートル(上の10分の1)に小さくすると、「速
さの不確定さ」は秒速0メートルから20メートルと幅が10倍に大きくなり、速さの平
均も秒速10メートルとなって、上の場合の10倍になるのです。

 このように、電子が原子核に近づくと、電子の速さが増し、それが原子核から飛び出し
て離れようとする力(つまり反発力)となります。
 その反発力によって電子が原子核から離れると、今度は「位置の不確定さ」が大きくな
るので、「速さの不確定さ」が小さくなり、電子の速さが減少して「反発力」は弱まりま
す。
 だから結局のところ、電気による「引力」と、不確定性原理による「反発力」が、ちょ
うど釣り合った場所に、電子の位置が落ち着くことになります。そのため電子は、原子核
に落ちないと考えられるのです。

 ちなみに、原子の大きさは100億分の1メートルで、原子核の大きさは1000兆分
の1メートルです。だから原子核の大きさは、原子の大きさの10万分の1です。
 つまり、原子核の周囲で飛び交っている電子の範囲は、原子核の大きさの10万倍もあ
るのです。たとえば原子核を半径1センチの大きさに拡大すれば、電子が飛び交っている
のは1キロ先の遠くになります。
 だから電子が原子核に落ちるためには、電子を非常に小さな場所に閉じこめる必要があ
ります。そうすると、不確定性原理による反発力がつよく働くので、電子が原子核に落ち
ることはないのです。

              * * * * *

 以上ここまで見てきましたように、核力と、電気の力、そして不確定性原理による反発
力。これら3種類の力が、絶妙なバランスをとっているために、原子は原子として存在で
きるのです。
 そしてこれは、水素やヘリウムだけでなく、炭素や酸素、窒素、イオウ、リン、鉄など、
あらゆる種類の原子についても同様に言えます。もしも、これら色々な種類の原子が存在
しなかったら・・・ つまり、陽子と中性子と電子がバラバラに存在しているだけだった
ら、生命が誕生する可能性はなく、私たちも存在できなかったのです。

 しかしながら、
 なぜ、核力が存在するのか?
 なぜ、電気の力が存在するのか?
 なぜ、不確定性原理が存在するのか?
 という、これらの疑問については、ものすごく大きな謎です。

 その原因を強(し)いて言うなら、さまざまな未知の法則や作用、因果関係、そして偶
然や必然が働いた結果として、「核力」や「電気の力」や「不確定性原理」が存在するよ
うになったとしか言いようがありません。
 つまりそれは、「核力」や「電気の力」や「不確定性原理」を「存在させる働き」が働
いたからであり、「神の御業」であるとしか言いようがないのです。

 神は、その御業によって、「核力」と「電気の力」と「不確定性原理」を存在させると
いう「奇跡」を起こし、つづいて「原子」を存在させるという、これまた「奇跡」を起こ
したわけです。

              * * * * *

 追補
 この宇宙には、強い力、弱い力、電磁気力、重力の、4つの基本的な力が存在します。

 「強い力」は、電磁気力のおよそ100倍の強さがあるので、そのように呼ばれていま
す。上で触れた「核力」は、じつは「強い力」の一端が現れたものです。
 この核力は非常に強い「引力」ですが、しかしながら核力は、原子核と原子核が触れ合
うぐらいの近い距離(およそ1000兆分の3メートルていど)しか届かないという特徴
があります。

 「弱い力」は、電磁気力のおよそ1000分の1の強さしかないので、そのように呼ば
れています。
 この「弱い力」は、原子核が「ベータ崩壊」をするときに働く力です。「ベータ崩壊」
というのは、原子核中の中性子が、電子を放出して陽子に変化したり(β-崩壊)、原子
核中の陽子が、陽電子を放出して中性子に変化する(β+崩壊)、現象のことです。
 つまり「弱い力」は、陽子や中性子などの「素粒子を変化させる力」なのです。

 「電磁気力」は、「電気の力」と「磁気の力」をまとめて、そのように呼ばれています。
 「電気の力」というのは「電磁気力」の一面が現れたものであり、「磁気の力」も「電
磁気力」の別の一面が現れたものです。つまり両者は、もともと「電磁気力」という一つ
の力の、それぞれ別の側面が現れたものなのです。

 「重力」はケタ違いに弱く、電磁気力の100000000000000000000000000000000000000
分の1の強さしかありません。
 このように「重力」はすごく弱いのですが、あらゆる物体が持っている「引力」であり、
「重い物体ほど “重力” が強くなる」という特性があります。そのため、「地球」ほどの重
い物体だと、私たちにも感じるほどの強さになります。つまり地球上で、物体が高い所か
ら低い所に落ちるのは、その物体と地球の間で「重力」が働いているからです。

 これら、強い力、弱い力、電磁気力、重力の4つの力は、この宇宙が誕生したときには
「もともと1つの力」でした。が、しかし、宇宙誕生から0.00000000001秒
後までの間に、それら4つの力に分かれて行ったと考えられています。
 しかしながら、なぜ宇宙が誕生するときに「もともとの1つの力」が存在したのかは、
ものすごく不思議であり、「神の御業」による「大いなる奇跡」であるとしか言いようが
ありません。
 なぜなら、この「もともとの1つの力」が存在しなかったら、強い力も、弱い力も、電
磁気力も、重力も存在せず、従って、さまざまな種類の原子も、さまざまな物体も、太陽
も、地球も、生命も、人類も、あなたや私も存在できなかったからです。



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