忘れられないこと 1
2025年3月9日 寺岡克哉
今回から、「忘れられないこと」という本の原稿を紹介して行きます。
題名 忘れられないこと
目次
はじめに
1章 PTの大量絶滅
2章 IPCC第4次報告書
3章 地球温暖化懐疑論
4章 秋葉原の通り魔事件
5章 ある物理学者
6章 2008年のノーベル物理学賞
7章 東北地方太平洋沖地震
8章 5時間後にメルトダウン!
9章 キセノンが1100万テラベクレル!
10章 小惑星が地球に衝突!
11章 母の食事
12章 「時間」という圧倒的な強制力
13章 障害者施設での刺殺事件
14章 あるトルコ人との思い出
15章 恩師
16章 雪崩に巻き込まれたときは
17章 焚き火の名人
18章 身近になった太平洋戦争
19章 北海道胆振東部地震
20章 道路の信号が消える恐怖
21章 児童虐待
22章 韓国人の印象
23章 水虫薬に睡眠導入剤が混入
24章 急性肺炎
25章 父の葬式
26章 銀河鉄道999
27章 瀬戸内寂聴さん
28章 安倍・元首相の暗殺
あとがき
はじめに
本書の題名を「忘れられないこと」としました。
その内容は、歴史に残るような大事件や大災害から、私の人生で印象に残った出来事、
あるいは私の人生で印象に残っている人々について、順不同で思うがままに書き連ねたも
のです。
本書を読んで頂くと、皆さんの記憶にも残っている大事件や大災害が、書いてあるかと
思います。
また、私の個人的なエピソードであっても、なるべく皆さんにも興味を持ってもらえそ
うな話を選んで書きました。
私の思い出話を除けば、本書では主に2007年から2022年まで起こった出来事に
ついて取り上げています。しかしながら、その短い間にも、「時代」というものが常に動
いていたことを感じて頂けるかと思います。
1章 PTの大量絶滅
PTの大量絶滅は、今からおよそ2億5000万年前に起こりました。
それは、地球の生物の95%以上もの「種」が絶滅したといわれる、生命の歴史で最悪
のものです!
ちなみにPTというのは、地質年代のペルム紀(Permian)と、三畳紀(Triassic)の境界で
起こった大量絶滅なので、それらの頭(かしら)文字を取ってそう呼ばれています。
私が「PTの大量絶滅」を知ったのは2006年のことですが、この大量絶滅が起こっ
た背景には、「二酸化炭素の増加」と「地球の温暖化」が大きく関係していました。
そのため、私が地球温暖化に対してものすごく大きな問題意識を持ったキッカケとなり、
「PTの大量絶滅」は、私の人生にとって「忘れられないこと」となったのです。
その「PTの大量絶滅」では、だいたい以下のようなことが起こりました。
* * * * *
はるか遠いむかし・・・ 今からおよそ2億7000万年前のペルム紀後半に、大気中
の二酸化炭素増加と、気温の上昇が、とつぜんに始まりました。
二酸化炭素は、現代(産業革命前)とだいたい同じ300ppmぐらいから、2000
ppmまで一気に増加しました。しかし一気にといっても、2000万年ぐらいかけての
増加なので、100年当たりにすると0.0085ppmぐらいの増加になります。
そして気温は、現在(2006年)より3℃ぐらい低い状態から、7℃ぐらい高い状態
まで、つまり10℃ぐらい上昇しました。これも2000万年かけての上昇なので、10
0年当たりにすれば0.00005℃ぐらいの上昇だったでしょう。
そしてついに、2億5000万年前のPT境界において、その当時に生きていた生物の
95%以上もの種が、絶滅してしまったのでした・・・。
なぜ2000万年もの間にわたって、「二酸化炭素の増加」と「気温の上昇」が起こっ
たのかと言えば、その始まりは「火山活動」によるものだったと考えられています。つま
り火山が噴火すると二酸化炭素をたくさん出すのです。
その当時のシベリアで、とても大きな火山活動のあったことが、専門家の研究によって
分かっています。この火山活動による二酸化炭素の大量放出で、まずはじめに地球がある
ていど温暖化しました。
そして次に、その気温上昇が「メタンハイドレート」の融解をひき起こしたのです。
メタンハイドレートとは、深い海の底でメタンと水が結合し、シャーベットのように固
まったものです。
温暖化によって海水の温度が上がると、このメタンハイドレートが融(と)けて、メタ
ンガスが海の底からブクブクと湧き出してくるのです。
その当時、3兆トンのメタンガスが放出されたと見積もられています。これは、現在海
底に眠っているメタンハイドレート全体の30%に相当するそうです。
(つまり現在も、大量のメタンハイドレートが海底にあり、温暖化が進めば、それが融
けてしまう可能性が十分にあるのです。)
ところでメタンは、二酸化炭素の23倍もの温室効果があります。だからメタンガスの
放出によって、さらに温暖化が促進されました。そしてついに、全体で10℃ぐらいの気
温上昇になったのでしょう。
たとえ2000万年の時間をかけたとはいえ、10℃も気温が上昇すれば、その環境の
変化に耐えられなかった生物は多かったろうと思います。
その上さらに、メタンの放出は、酸素の減少をひき起こしました。
というのは、メタンは酸素と化学反応して、二酸化炭素と水になるからです。大量に放
出されたメタンが、大気中の酸素と結合し、酸素の濃度を低下させたのです。
しかも温暖化による超高温で、すでに植物は大きなダメージを受けており、十分に酸素
を作ることが出来なくなっていました。そんなことも重なって、大気中の酸素は、現在の
半分ぐらいまで減ってしまいました。こんなに酸素が減ってしまっては、やはり、生きて
行けなくなった生物も多かったでしょう。
大ざっぱな話としては、だいたい上のようなことが原因となって、PTの大量絶滅が起こっ
たみたいです。
しかし、さらに他にも、さまざまな原因が考えられています。いろいろな原因が複雑に
からみあって、PTの大量絶滅がひき起こされたというのが真相のようです。
しかしながら、「二酸化炭素の増加による地球温暖化が、まず最初の引き金になった!」
という所は、多くの専門家の意見が一致しています。
* * * * *
ところで!
現在、100年当たりにして、二酸化炭素は52ppm増加し、気温は0.76℃上昇
しています。
そして一方、
PTの大量絶滅のときは、100年当たりにして、二酸化炭素は0.0085ppm増加
し、気温は0.00005℃上昇していました。
つまり現在は、95パーセント以上もの種が絶滅したと言われる「PTの大量絶滅」のと
きに比べて、二酸化炭素の増加は6100倍のスピード、気温上昇は1万5200倍のス
ピードで進んでいるわけです。
いま現在、ほんとうに大変なことが進行中であり、それは私だけでなく、全ての人類が
決して忘れてはならないことなのです。
2章 IPCC第4次報告書
2007年2月2日。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気
候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書が発表されました。
ちなみにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは、世界中の科学者や専門家が
参加し、地球温暖化による気候変動にたいして、最新の科学的な知見を評価する国際機関
です。
これには当時、世界中から500人もの科学者が参加しており、日本からも約30名の
研究者が、主要な執筆(しっぴつ)者として参加しました。IPCCに関係する研究者や
技術者の数は、末端の現場で活躍している人々も含めると、おそらく1万人よりも多いの
ではないかと思います。
当時、日本が世界に誇(ほこ)ったスーパーコンピューターの「地球シミュレーター」
も、その主要な目的の一つは、IPCC第4次報告書に向けての地球温暖化に関する研究
でした。
IPCCの地球温暖化にたいする判断は、文字通り、人類の科学的な総力を結集させた
ものなのです。
* * * * *
そのIPCCが正式に発表した、第4次報告書の要旨はつぎの通りです。
1.気温や海水温の上昇、氷雪の融解の増加や海面上昇などから気候の温暖化は明白。
2.1906年から2005年の気温上昇は0.74度。海面は1961年から2003
年の間に、毎年1.8ミリの割合で上昇した。
3.20世紀半ば以降に観測された平均気温上昇の大部分が、人為的な温室効果ガスの増
加によって引き起こされた可能性がかなり高い(90%以上の可能性)。
4.21世紀中に予測される平均気温上昇はシナリオによるが、1.1℃から6.4℃の
範囲、海面上昇は18センチから59センチの範囲。
5.極端な暑さや熱波、豪雨などの発生頻度が頻繁になり続ける可能性が高い。
6.北極の晩夏の海氷は21世紀後半までにほとんど消えるとの予測もある。
7.大気中の二酸化炭素濃度が増えた結果、海洋の酸性化が進んだ。
上の中でとくに注目されるのは、3番目の「20世紀半ば以降に観測された平均気温上
昇の大部分が、人為的な温室効果ガスの増加によって引き起こされた可能性がかなり高い」
という部分です。
報告書の原文(英語)にもあたってみましたが、この「可能性がかなり高い」というの
は、「少なくても10のうち9の可能性」であることが、脚注に書かれてありました。つ
まりそれは、90パーセント以上の高い可能性を意味しているのです。
地球温暖化が人間のせいで起こっているのは、もう間違いありません。それがIPCC第
4次報告書によって、科学的に証明されたと言ってよいでしょう。それで、この報告書の
発表が私にとって「忘れられないこと」となったのです。
* * * * *
ちなみに後日談ですが、
2013年に発表されたIPCC第5次報告書では、「20世紀半ば以降に観測された温
暖化の主な原因は、(化石燃料の使用など)人類の活動である可能性が極めて高い(95
%を超える確率)。」
2021年に発表されたIPCC第6次報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域
を温暖化させてきたことには疑う余地がない(断定:100%の確率)。」
と、しており、現在では「地球温暖化が人間のせいで起こっている」ことは、小学生の
子供でも知っている常識となりました。
つづく
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